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「人的資本開示」の先行事例 ②株式会社丸井グループ (2023.03.08 Updated)

金融庁が2021年12月21日 に、
「サステナビリティ情報」(2)「経営・人的資本・多様性等」の開示例(好事例集)(以降、「好事例集」とする)
をリリースした。

 ここに紹介されている情報を参考に、我が国における「人的資本開示」の先行事例として様々な企業のサステイナビリティレポートや統合報告書の内容(そのうち、人的資本への投資、人材マネジメント、働き方に関する開示部分)を順次紹介していく。また、紹介するのみならず、独自の視点での評価・コメントも試みたい。

今回は、株式会社丸井グループ有価証券報告書(2021年3月期)を取り上げる。
(※2023.03.08 Updated  有価証券報告書(2022年3月期)においてどのような変化・進展があったかを追記。)

 「好事例集」においては、評価すべきポイントとして、「社会 【 S 】 及びガバナンス 【 G 】 についての取組みを、定量的な情報も含めて記載」していることが挙げられている。これらについては、当該有価証券報告書のp.13からp.14にかけて記載がある。

第一部【企業情報】
第1 【企業の概況】
第2 【事業の状況】
1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】
■ 会社の経営の基本方針
■ 中期経営計画の策定について
■ 株主還元

(※2023.03.08 Updated  有価証券報告書(2022年3月期)において、新たにこの箇所に「人的資本経営の取り組み」という項目が追加された。)

■ 人的資本経営の取り組み

■ 会社の考えるサステナビリティ
■ 将来世代の未来を共につくる(Environment) 

といった項目立ての中で、

■ 一人ひとりの幸せを共につくる(Social)
■ 共創のプラットフォームを共につくる(Governance)

と続き、これらの項目の中で説明されている。
 少し戻って、
■ 会社の考えるサステナビリティ
の記載内容から見ていこう。

 当社グループでは、2016年から環境への配慮、社会的課題の解決、ガバナンスへの取り組みがビジネスと一体となった未来志向の共創サステナビリティ経営への第一歩を踏み出しました。それまで取り組んできた「すべての人」に向けたビジネスを「インクルージョン(包摂)」というテーマでとらえ直し、重点テーマを整理し、取り組みを進めてきました。これらは、国連の持続可能な開発目標「SDGs(Sustainable Development Goals)」の実現に寄与するものです。

 そして、2019年には本格的な共創サステナビリティ経営に向け、2050年を見据えた長期ビジョン「丸井グループビジョン2050」を策定し、「ビジネスを通じてあらゆる二項対立を乗り越える世界を創る」ことを宣言しました。

 前述の「中期経営計画の策定について」に記載のとおり、2021年には「丸井グループビジョン2050」に基づき、サステナビリティとウェルビーイングに関わる目標を「インパクト」として定義しました。インパクトは、「丸井グループビジョン2050」に定める取り組みをアップデートして、「将来世代の未来を共につくる」「一人ひとりの幸せを共につくる」「共創のプラットフォームを共につくる」という共創をベースとする3つの目標を定め、それぞれ重点項目、取り組み方法、数値目標に落とし込んでいきます。なお、このうち主要な取り組み項目を、中期経営計画の主要KPIとして設定しています。

  共創サステナビリティ経営をさらに加速させ、ステークホルダーが求める「利益」と「しあわせ」を調和し、拡大していくことをめざします。

有価証券報告書(2021年3月期)

 まず、「共創サステナビリティ経営」とは、「環境への配慮、社会的課題の解決、ガバナンスへの取り組みがビジネスと一体となった未来志向の(経営)」と定義している。これにより、環境問題(E)・社会問題(S)・ガバナンス(G)と、ESGの全方位をケアした経営方針であるというアピールに成功している。さらに、単なるCSR的な取り組みにとどまらず、「ビジネスと一体」とすることによって経営戦略上の位置付けに「昇格」させ、持続的な業績向上にも必ずつながるという確信めいたものも感じさせる表現となっている。
 また、これまでもずっと「『すべての人』に向けたビジネス」を展開してきたが、今をときめくトレンドワードで表現するなら「インクルージョン(包摂)」であり、「『SDGs(Sustainable Development Goals)』の実現に寄与する」ような取り組みを他社に先駆けてやっていたのである、という自負もうかがえる表現も盛り込まれている。

 次に、「2050年を見据えた長期ビジョン『丸井グループビジョン2050を策定し、『ビジネスを通じてあらゆる二項対立を乗り越える世界を創る』ことを宣言」と記載されているが、この点についてはぜひ「丸井グループビジョン2050」の内容を一読されることをお勧めする。

鍵となるのが、誰も置き去りにしない「インクルージョン」という考え方

 丸井グループがめざすのは、世界に存在するあらゆる二項対立を乗り越え、すべての人が「しあわせ」を感じられるインクルーシブで豊かな社会の実現です。一部の人だけが「しあわせ」になっても、それは社会全体の「しあわせ」ではありません。すべての人が「しあわせ」を感じて初めて、本当の意味で豊かな社会になったといえるのではないでしょうか。

 私たちは1931年の創業以来、「信用はお客さまと共につくるもの」という共創精神のもと、時代やお客さまの変化にあわせて、小売と金融が一体となった独自のビジネスモデルを進化させ続けてきました。そして現在、未来を切り開くために私たちが注目しているのが、「インクルージョン(包摂)」という考え方です。インクルージョンには、これまで見過ごされてきたものを包含する・取り込むという意味があります。丸井グループは、このインクルージョンを通じ、すべての人の利益の重なり合う部分を広げていくことが、すべての人が「しあわせ」を感じられるインクルーシブで豊かな社会の実現につながると考えています。

 インクルージョンは理念であると同時に経営戦略そのものであり、二項対立を乗り越え、社会課題の解決と企業価値の向上を同時に実現するためのキーワードであると考えています。

丸井グループビジョン2050

 この部分だけでも、注目すべき表現が多くある。特に、「インクルージョンには、これまで見過ごされてきたものを包含する・取り込むという意味があります。」という解説がある。そして、「このインクルージョンを通じ、すべての人の利益の重なり合う部分を広げていくことが、すべての人が『しあわせ』を感じられるインクルーシブで豊かな社会の実現につながる」としている。
 この点、「すべての人が『しあわせ』を感じられるインクルーシブで豊かな社会の実現」というのを、「すべての従業員が『やりがい』を感じられるインクルーシブで豊かな職場環境(労働環境)の実現」と置き換えて考えてみるとどうだろうか。そうすると、これまで見過ごされてきた個々人の強みや特性、能力やスキルといったあらゆるものを包含する・取り込むことによって、すべての従業員のCanとかWillと事業戦略あるいは人事戦略の重なり合う部分を広げていくことが、すべての従業員が「やりがい」(Meaningful Work)を感じられるような職場環境づくりにもつながる、と説明することも可能ではないか。下図でいえば、緑色の部分と青色の部分の重なりをなるべく大きくしていくイメージである。いわば、「誰も置き去りにしないタレントマネジメント」であり、同社にはここも目指していただきたい。

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SP総研の資料

 さて、最も注目すべきは、「インクルージョンは理念であると同時に経営戦略そのものであり、二項対立を乗り越え、社会課題の解決と企業価値の向上を同時に実現するためのキーワードである」という点である。SDGs、ESG、DEIといったようなものは押し並べて「理念」や「スローガン」で終わってしまいがちなところ、同社はしっかりと「経営戦略そのもの」と断言し、「社会課題の解決と企業価値の向上を同時に実現するためのキーワード」と位置付けている。このことから、身のある取り組みを確実に推し進めていく企業なのではないか、という確信が持てる。

 ところで、「二項対立」という言葉が何度も登場するが、同じく「丸井グループビジョン2050」の中で次のように解説されている。

あらゆる二項対立が存在し、課題を抱える世界

二項対立」とは、一つの概念を2つに分けることで、それらが矛盾や対立の関係にあることをいいます。例えば私たちは、男性と女性、大人と子どもなど、当たり前のようにものごとを2つに切り分け、異なるものとして考えてしまいがちです。そればかりか、健常者と障がい者、富裕層と低所得者層など、互いを対立・分断させることで、差別や格差を引き起こしています。このように私たちが暮らす世界には、あらゆるところに「二項対立」が生じ、もはや無視することができない状況となっています。こうした地球レベルの課題を見過ごし、目先のしあわせや利益のために生活を続けていくことこそが、現世代と将来世代との「二項対立」であり、放置すると避けることのできない深刻な未来がやってくると考えます。

丸井グループビジョン2050

 この点、具体的な例示があることから「あらゆるところに『二項対立』が生じ」ていることはよく理解できるのだが、いきなり「地球レベルの課題」とされたり「現世代と将来世代との『二項対立』」と繋がっていくところには飛躍を感じる。ただ、これに続けて「丸井グループが考える2050年の世界」として、「『私らしさを求めながらもつながりを重視する』『世界中の中間・低所得層に応えるグローバルな巨大新市場が出現する』『地球環境と共存するビジネスが主流になる』という3つの視点から未来の世界を整理」という具体的な説明を続けていることから、全体としては理解できるようになっている。これら3つのうち、特に次の点をみていこう。

「私らしさ」を求めながらも、「つながり」を重視する世界

ダイバーシティの推進により、高齢者、LGBTQ、外国人や障がいのある方など、すべての人が当たり前のように「私らしさ」を追求でき、「マイノリティ」という概念がなくなる世界になるでしょう。一方で、テクノロジー化によるバーチャル世界が今後も拡大していくことから、人々が個を保ち自分らしく生きながらも、国や人種による対立を超越した「つながり」を楽しむことに価値を見出す世界が訪れると考えます。

 ここでも、「未来の世界」という壮大な予測をするよりも前に、「近未来の職場」のあるべき姿を考えてみよう。次のように置き換えてみるのはどうだろうか。

 高齢者や障がい者は、それ特有のスキルや能力、特性を有している。他方で、「現役バリバリ世代」や「健常者」といってこれまでマジョリティ扱いされてきた人たちも、それぞれが保有するスキル、能力や特性によって細分化していけばそれぞれがマイノリティと捉えることもできる。逆にいえば、「健常者」といわれている人たちであってもそれぞれが何らかの「弱み」や「欠陥」を必ず抱えている。これらを「障がい」と同じように捉えて良いわけではないが、要は「Intellectual Diversity」「Cognitive Diversity」の観点で捉えれば個々人はすべからくマイノリティなのである。皆が同じようにマイノリティであるので、マイノリティという概念が不要になる。すべての人が自身の持ち味を存分に発揮して、「私らしさ」を追求できる。さらに、HRテクノロジーの活用により、従業員たちは個を保ち自分らしく仕事をしながらも、要所要所で他者とコラボレーションをしていく。ここでは、スキル・コンピテンシーのデータをベースとした、マッチングの仕組みが鍵を握る。 


 ではここからは、冒頭に紹介した「項目立て」の中の
■ 一人ひとりの幸せを共につくる(Social)

(※2023.03.08 Updated  有価証券報告書(2022年3月期)においては、この部分が切り出されて「人的資本経営の取り組み」という項目に「昇格」した。)

■ 共創のプラットフォームを共につくる(Governance)

の内容をみていこう。特に、「好事例集」で評価ポイントとなっている箇所を引用しておく。

■ 一人ひとりの幸せを共につくる(Social)

グループ社員一人ひとりが共感する力と革新する力を育て 、 活躍する場づくりを推進しています 。 一人ひとりのウェルビーイングを組織の力に転換していきます 。

(※2023.03.08 Updated  有価証券報告書(2022年3月期)においては、「一人ひとりの『しあわせ』を共に創る」とタイトルの表記が少し変わり、説明書きも、「誰もが『しあわせ』に自分らしく生きられる選択肢を提供することで、一人ひとりの『自己実現』や『好き』を応援し、個がエンパワーできる社会の実現を加速させます。」という表現に変わった。)

(※2023.03.08 Updated  有価証券報告書(2022年3月期)においては、以下の4項目は切り出されて「人的資本経営の取り組み」の中の項目として「昇格」した。)

グループ会社間異動 「 職種変更 」
2013年から本格的に推進し 、 2021 年3月期までの累計で 、 全グループ社員の約 69 %が職種変更を経験しています 。 2016 年実施のアンケートで 、約 86 %が 「 異動後に成長を実感した 」 と回答しており 、 個人の中の多様性とレジリエンス力が育まれています 。 今後は 、 共創投資先を中心に他企業への出向も強化し 、 より変化に強い人材の育成も進めます。

 自ら手を挙げる社員がつくる「自律的 」な組織
10年以上にわたって続けているのが 、 社員自ら手を挙げる 「 手挙げの文化」づ くりです 。 手挙げの文化の目的は 、 社員一人ひとりの自主性を促し、 自律的な組織をつくり 、 イノベーションを創出する企業になることにあります 。 「 グループ横断プロジェクト 」 「 中期経営推進会議 」 など幅広い手挙げの機会を設け 、 今期は社員全体の約8割にあたる 4,058 名が手を挙げ参画しました 。

人の成長を支える「ウェルネス経営 」
「病気にならないこと(基盤) 」 だけでなく 、「 今よりもっと活力高く、 しあわせになること(活力)」 が重要と考え 、「 活力×基盤のウェルネス経営 」 を進めてきました 。 ウェルネス経営を戦略の1つに掲げ 、 グループ全体でウェルネス経営を進めています 。

新たな成長に向けた「人材への投資」
「人のお役に立ちたい 」 という想いを持つ社員こそが 、 企業価値創造の源泉であると確信し 、 多様な価値観の尊重はもちろん 、 一人ひとりがイキイキと成長し続けられる組織風土の醸成をめざし 、 積極的な人材育成と採用への投資を実施します 。

有価証券報告書(2021年3月期)

「グループ社員一人ひとりが共感する力と革新する力を育て」とあるが、具体的にどのようにして「共感力」や「革新力」のようなスキルを身につけさせたりさらなるレベルアップを支援しようとしているのか。

そして「ウェルネス経営」についてであるが、「 活力×基盤のウェルネス経営 」といってみたところで結局それは、「狭義の健康」関連施策に留まっている感が否めない。ウェルネス・ウェルビーイング施策として4段階あるうちの、未だStep 1からStep 2に到達しようとしている段階に思える。(職場において)「しあわせになること」を真に目指すのであれば、なるべく早く「真のウェルビーイング施策」(Step 3)の段階に到達すべきであり、そのためにどのようなロードマップを描いているのか、ここも「ナラティブな説明」が求められる。ちなみに、「真のウェルビーイング施策」(Step 3)のためには「スキルの可視化」を行なって個人起点のキャリア支援を行うことが不可欠とされている。

SP総研の資料

 最後に「 一人ひとりがイキイキと成長し続けられる組織風土の醸成をめざし 、 積極的な人材育成と採用への投資を実施」という点については、「イキイキと成長し続けられる組織風土」とは一体どのような状態が整った環境のことをいうのか、自社なりの定義をするべきだ。「積極的な人材育成と採用への投資」についても、どのような人材育成を目指していて、投資に対してどのようなリターンを見込んでいるのか、どのような採用戦略を掲げるつもりで成果をどのように計測する予定なのか、明確に示すべきだ。
 「 一人ひとりがイキイキと成長し続けられる」というのは、つまりは「持続可能な働き方」(Sustainable Performance)の実現ということではないのか。すなわち、一人ひとりが持っている強みや特性をフルに活かして、無理なくパフォーマンスを発揮し続けることができるような真の意味での「適材適所」を実現した状態である。
 これを行うためにはまずすべてのポジションについてスキル・コンピテンシーベースで詳細な要件定義を行い、それと同じモノサシで人材側の保有スキルの洗い出しを行なっておかなければならない。そのためには、「本格的なタレントマネジメントシステム」の導入が不可欠である。同社において、もし既にそれが導入済みなのであればそのシステムを具体的にどのように活用していく計画となっているのかを記載すれば良いし、導入が未だなのであれば、どのような方針でシステムを選定中なのかを記載すれば良い。

(※2023.03.08 Updated )
 では、 
有価証券報告書(2022年3月期)において新設された「人的資本経営の取り組み」についてみていく。
 また、同社は独立した
人的資本開示のレポートを作成しているため、こちらの該当箇所も併せてみていく。

■人的資本経営の取り組み(要約)

「人の成長=企業の成長」という理念のもと、継続的な企業価値向上を目指し、17年間にわたって企業文化の変革に取り組んでいる。具体的には下記の施策を進めてきた。

<企業文化変革のための取り組み>
1)企業理念
人的資本経営は、「人の成長=企業の成長」が基本理念。この理念について対話の場を用意している。働く理由や会社で成し遂げたいことなどについて話し合い、会社と個人それぞれのパーパスをすり合わせる。10年以上で4,500名以上が参加。その結果、理念に共有できない人が退職して一時的に退職率が上がったが、その後、定年退職を除く退職率は3%前後の低水準に定着。また、入社3年以内の離職率は約11%で世の中の平均を大きく下回る。会社と個人との「選び選ばれる関係」の基盤が構築されている。

2022年3月期 有価証券報告書 p.11
「丸井グループの人的資本経営」より
「丸井グループの人的資本経営」より
「丸井グループの人的資本経営」より
「丸井グループの人的資本経営」より

 まず、「入社3年以内の離職率は約11%で世の中の平均を大きく下回る」とアピールしているが、
・世の中の平均とされる30%と比べて3分の1だから良い状態だ、ではなく、自社なりにどのあたりの水準が適正と考えるのか、その理由も含めて示していただきたい。業界によっても事情が異なるし、低いほど良いというわけではないはずだ(人材流動性の観点から)。
・理念が浸透したから、企業理念の共有が進んだから離職率が下がった、と単純に結論づけているように思えるが、離職率が下がった要因をもっと深掘り分析すべきではないか。逆に、一時的に退職率が上がった理由も「理念に共有できない」からと結論づけているが、他にも様々な要因があったはずではないのか。
・「20%から11%に改善」としているが、上のグラフ上の推移を見る限り決して順調な道のりではなかったように思える。「上がり、下がり」のそれぞれの局面においての分析結果が欲しい。
・「選び選ばれる関係」の基盤が出来上がった、ということの理由づけが離職率の低下だけでは、弱いのではないか。

2)対話の文化(要約)
かつての一方通行から、双方向のコミュニケーションを通じた「対話の文化」が醸成されてきた。
1. 安全な場宣言から始める
2. 特に目的を定めない
3. 結論を求めない
4. 傾聴する
5. 人の発言を受けて発言する
6. 人の意見を否定しない
7. 間隔を置いて熟成させる
の7つの目安に沿って、会議やミーティングは必ず対話を交えて行なっている。

2022年3月期 有価証券報告書 p.12
「丸井グループの人的資本経営」より

「対話のルール」として挙げられてる7点は、大学生や高校生レベルでのディスカッションの場でも半ば当たり前のルールとして認識されているように感じる。また、「一方通行のコミュニケーションが当たり前」の組織とは一体どのような組織なのか、私としてはあまり想像できないし、「対話の習慣が定着し、会議やミーティングは必ず対話を交えて…..」といった点も「今更感」があり、世の中の感覚とかなりズレているのではないか。あえてこのようなトピックを、人的資本開示のレポートに盛り込むべきだったのだろうか。

3)働き方改革(要約)
働きやすい環境の実現のみならず、仕事の本質を「時間の提供」から「価値の創出」と考える企業文化への転換を目指している。社員によるプロジェクト活動の結果、
一人当たり残業時間
2008年3月期 月間11時間 →  2022年3月期 月間4.5時間
と大幅に減少した。

2022年3月期 有価証券報告書 p.12
「丸井グループの人的資本経営」より

仕事の本質を「価値の創出」と捉えていこうという、これから向かうべき方向性としては非常に正しいと思われるが、これまでは(あるいは、現状は)「時間の提供」と捉えていたという点、例え実態がそうだとしても表現としてはかなりまずいのではないか。率直に申し上げて低レベルすぎる。もう少し表現の工夫をすべきだ。例えば、「目の前のタスクをこなすことに重点が置かれていた」といった表現もあるだろうに。
また、残業時間の減り方について、先ほどの離職率のところと似ているが、上のグラフを見る限り再び「逓増傾向」にあるように感じるのは気のせいだろうか。もう少し、誰もが納得できる深掘り分析の情報が欲しい。

4)多様性の推進(要約)
2014年から「男女」「年代」「個人」の3つの多様性を掲げ、組織改革を推進している。
「男女」の多様性については2014年3月期から女性活躍推進のプロジェクトをスタートし、「女性イキイキ指数」という独自のKPIを掲げて取り組みを進めた。その結果、
2022年3月期 男性社員の育休取得率 4年連続で100%を達成、女性の上位職志向 64%まで向上
2022年3月期からは新たに「男性の産休取得」と「男女の性別役割分担の見直し」を目標に掲げ、より本質的な取り組みにも着手している。

2022年3月期 有価証券報告書 p.12
「丸井グループの人的資本経営」より
「丸井グループの人的資本経営」より

「男女」「年代」「個人」の3つの多様性、について。このうち「個人の多様性」という表現は見慣れないため意味が分かりずらいが、図表を見ると「キャリア面での多様性」であることが理解できる。これは、「スキルベースでの多様性」「コグニティブダイバーシティ」にも繋がることであり、伊藤レポートの「5つの共通要素」の1つともされている「知・経験のダイバーシティ&インクルージョン」のことでもある。したがって最も強調すべきポイントであるともいえ、表現がわかりづらいのが勿体無い。
「男女の多様性」についての図表では、「女性リーダー比率」「女性の上位職比率」等の各指数についてしっかりと実績を示し、かつ、2026年に向けての目標値も示していて非常に素晴らしい。ただ、細かすぎるツッコミかもしれないが、なぜ「男性の家事・育児の分担割合」のKPIだけが2026年も現状維持という低い目標設定なのだろう?(笑) 目標設定は自由なのだから、せめて「微増」にしておいてはいかがか。

5)手挙げの文化(要約)
10年以上にわたり、社員が自ら手を挙げて参画する「手挙げの文化」づくりを進めてきた。その目的は、社員一人ひとりの自主性を促し、自律的な組織をつくり、イノベーションを創出する企業になること。「公認プロジェクト・イニシアティブ」「中期経営推進会議」など幅広い手挙げの機会を設け、2022年3月期には参画した社員の割合は約8割に達した。

2022年3月期 有価証券報告書 p.13
「丸井グループの人的資本経営」より
「丸井グループの人的資本経営」より
「丸井グループの人的資本経営」より
「丸井グループの人的資本経営」より

 次に、「社員自ら手を挙げる 『手挙げの文化』づ くり」の取り組みを紹介しているが、その具体例として 「『グループ横断プロジェクト』『中期経営推進会議』など幅広い手挙げの機会」が挙げられている。
ここで疑問なのが、後述の「職種変更」と「手挙げ文化」の関係性である。「職種変更」についても「手挙げ」は可能なのか、この点は不明である。一般的には、「手挙げ」といえば「社内公募制度」のことも含めていうのではないだろうか。もしこの両者が接続されていないとすれば、取り組みとしては非常に勿体無い。(※2023.03.08 Updated )この点、2022年3月期のレポートにおいては、次にあるように「社員の手挙げに基づいて、グループ内の様々な事業を跨ぐ『グループ間職種変更異動』を2013年から本格的に推進」という説明がなされ、接続性が明示された。

6)グループ間職種変更異動(要約)
社員の手挙げに基づいて、グループ内の様々な事業を跨ぐ「グループ間職種変更異動」を2013年から本格的に推進し、2022年3月期までに全グループ社員の約77%が職種変更を経験している。2016年実施のアンケートでは、約86%が「異動後に成長を実感した」と回答しており、個人の中の多様性とレジリエンスが育まれている。今後は、共創投資先を中心に他企業への出向にも拡げ、より変化に強い人材の育成を進める。

2022年3月期 有価証券報告書 p.13
「丸井グループの人的資本経営」より

 「職種変更」とは具体的にどのようなことを指すのか。ビジネスファンクションをまたがるような「水平方向の異動」のことを指すのか。「グループ会社間異動」という言葉が前についているが、会社をまたがった異動であっても「職種」としてはそれほど変化がないような場合も異動率の計算に含めているのか否か。グループ会社間ではなくて個社内での「職種変更」は算入しているのか。
(※2023.03.08 Updated )この点、2022年3月期のレポートにおける説明によると、事業やビジネスファンクションを跨る異動も含まれること明らかである。

 また、2013年から2021年3月期まで、7年から8年かけて「累計で 、 全グループ社員の約 69 %が職種変更を経験」というのは果たして多いといえるのか。少なくとも、どの程度の水準を目標としていてそれに対する達成度がどの程度と捉えているのか。未来に向けて改善していく必要性を感じているのか、それともこのままのペースで良いという想定なのか。
 色々とツッコミどころが多い。
(※2023.03.08 Updated )この点、2022年3月期のレポートにおける説明によると、「元の職種と異なる職種に異動した社員は累計で77%」と説明があり、職種間移動も奨励されていて比率も増加傾向であることがわかる。

 「2016 年実施のアンケートで 、約 86 %が 『異動後に成長を実感した 』 と回答」との点については、アンケート調査によって取得したデータを開示していることは評価できるものの、なぜ2016年以降は調査をしていないのか。できれば、もっと直近のデータを公表すべきだ。さらに欲を言えば、「なぜ成長を実感したのか」という深掘り質問に対する回答結果も開示したい。
 また、この取り組みを「個人の中の多様性とレジリエンス力が育まれています」と結び付けているが、そのようにいえる根拠はどこにあるのか。可能であればそれぞれ「多様性の理解」「レジリエンス」というスキル・コンピテンシーと捉えて、異動経験者においてそれらのスキル・コンピテンシー保有割合やレベルにどのような変化があったのかまでを計測した方が良い。

7)パフォーマンスとバリューの二軸評価(要約)
人事評価制度においては、業績に基づく評価だけでなく、バリューに関わる上司、同僚、部下からの360度評価を実施することで、「人の成長」という企業理念の実現を目指す。

2022年3月期 有価証券報告書 p.13
「丸井グループの人的資本経営」より

パフォーマンス評価だけではなくバリュー評価の軸も追加されたこと自体は素晴らしいことだが、肝心なのは図表の真ん中の「スキル、行動、ナレッジ」部分についての評価を適正に行えるようにするための仕組みづくりではないのか。なぜ図だけ示して説明では全く触れないのか。非常に不可解だ。これからやろうとしていること、だけでもナラティブに表現することは可能なはずだ。

8)Well-being(要約)
グループ全体で、一人ひとりがやりがいを持ってイキイキと仕事に取り組める活力のある組織を目指して、2016年からWell-beingに取り組んできた。CWO(チーフウェルビーイングオフィサー)で取締役執行役員の小島玲子氏が中心となり、「幹部向けのレジリエンスプログラム」や社員の手挙げによる「Well-being推進プロジェクト」を通して、組織の中での一人ひとりのしあわせを実現していく。

2022年3月期 有価証券報告書 p.13
「丸井グループの人的資本経営」より

 前述の通り、「 Well-being推進プロジェクト」「幹部向けレジリエンスプログラム」といってみたところで結局それは、「狭義の健康」関連施策に留まっている感が否めない。ウェルネス・ウェルビーイング施策として4段階あるうちの、未だStep 1からStep 2に到達しようとしている段階に思える。(職場において)「しあわせになること」を真に目指すのであれば、なるべく早く「真のウェルビーイング施策」(Step 3)の段階に到達すべきであり、そのためにどのようなロードマップを描いているのか、ここも「ナラティブな説明」が求められる。ちなみに、「真のウェルビーイング施策」(Step 3)のためには「スキルの可視化」を行なって個人起点のキャリア支援を行うことが不可欠とされている。健康経営銘柄に選定されたことだけを強調している場合ではない。

(今後の取り組みについて)

「丸井グループの人的資本経営」より
「丸井グループの人的資本経営」より

「現在の人材と今後求められる人材とのギャップを埋める」という話をするときに、「スキル」の話や「人材要件定義(ジョブ定義)」の話が出てこないというのはあり得ない。「新しいビジネスを作り出すことのできる人材」とはどのように定義するのか。どのような方向によって定義しようと考えているのか。これについての説明が少しでもないと、「何もしようとはしていない」と受け止められる。

「丸井グループの人的資本経営」より

何度もしつこく繰り返すが、「プロデュースbyデジタル」などという抽象的なキーワードは良いから、もっと具体的な人材要件定義に落とし込まない限りそのような人材の育成や採用は不可能だ。

「丸井グループの人的資本経営」より

「次世代経営者候補」とは、どのような基準で決めているのか。200名はどのようにして選出されるのか。投資家をはじめとするステークホルダーとしては、そこを最も知りたい。

「丸井グループの人的資本経営」より

それらの「デジタル研修」は、それぞれのコンテンツなりカリキュラムをこなすごとに具体的にどのようなスキルが身に付くような立て付けになっているのか。研修を受講するだけで、デジタル人材や「新たなビジネスを創出できる人材」を育成できるのか。「隠れたデジタル人材の発掘」とは、どのような要件を兼ね備えた人材であれば「発掘できた」と言えるのか。
まずは、人材要件定義(ジョブ定義)を行うのが先ではないのか。

「丸井グループの人的資本経営」より

専門人材の採用、育成の前に、人材要件定義(ジョブ定義)を行う必要がある。

■人的資本経営の取り組み(続き)(要約)

<ガバナンス>(要約)
経営戦略と人材戦略の連動を図るため、2022年4月から取締役会の諮問機関として人材戦略委員会を新設した。委員長にはCHROで専務執行役員の石井友夫氏が就任し、委員には社外取締役の岡島悦子氏が就任した。人材戦略委員会は戦略検討委員会と連携し、人材戦略を取締役会に提言する役割を果たす。

2022年3月期 有価証券報告書 p.14
「丸井グループの人的資本経営」より

■人的資本経営の取り組み(続き)(要約)

<新たな成長に向けた「人的資本投資」>(要約)
2022年3月期において、経営管理上の費用を見直し、これまで人材投資としていた教育・研修費に加え、単年度の損益項目の中で中長期的に企業向上につながる項目として、研究開発費に含めていた新規事業に係る人件費や共創チームの人件費、さらにグループ間職種変更異動した社員の1年目の人件費などを「人的資本投資」として再定義した。
再定義による2022年3月期の人的資本投資は77億円となった。
2026年3月期には120億円まで拡大することで、持続的な企業価値の向上を目指す。

2022年3月期 有価証券報告書 p.14
2022年3月期 有価証券報告書 p.14

「人的資本投資」を再定義して範囲を広げるというのは、非常に素晴らしい試みだ。しかも、ステップや目標値の設定が明確になされている。さらに、「持続的な企業価値の向上」という絶対に外せないキーワードがしっかりと入っている。

■ 共創のプラットフォームを共につくる(Governance)

(※2023.03.08 Updated  有価証券報告書(2022年3月期)においては、以下、 <共創の「場」づくり> と <社内外に開かれた働き方の実現> に分けられて説明されている。特に、<社内外に開かれた働き方の実現>
に注目する。)


<社内外に開かれた働き方の実現>
オープンイノベーションの実践
(ここでは、グループ横断型の「共創チーム」の組成、執行役員が各チームのリーダーを務め、スタートアップとの協業に適した人選を行なって24チーム(212名)の体制となったことが説明されている。)

イノベーティブな組織の醸成
これまでの社内中心の働き方から社外にも開かれた働き方を推進していきます。副業やシェアワーカー、長期インターンなど年齢や経験年数にかかわらず能力とスキルとやる気さえあればすぐに活躍できる働き方や、スタートアップ企業への出向や共創チームによる「協業が本業」となる働き方を通して、着実にイノベーションを起こしやすい「場づくり」を進めていきます。

■ 共創経営のガバナンス
すべてのステークホルダーの「 利益 」 と 「 しあわせ 」 の調和と拡大に向け 、 ステークホルダーをインクルードした経営の仕組みづくりに着手します。

ステークホルダー経営
ステークホルダーの求める利益としあわせを共に実現する共創経営に向けて、ステークホルダーをボードメンバーに迎えることで、ガバナンス体制を進化させていきます。

サステナビリティマネジメントの推進
共創サステナビリティ経営の推進に向けて適時活動を検証するとともに、 サステナビリティとビジネスの両立をめざす重点指標(KPI)の進捗を確認しています 。
サステナビリティマネジメント体制の強化に向け 、 2019 年にサステナビリティアドバイザーおよびサステナビリティ委員会を設置しました 。

(※2023.03.08 Updated  有価証券報告書(2022年3月期)においては、次の3行が更新されている。)
2021 年には、外部有識者や将来世代を新たに加え、グループ全体のサステナビリティ戦略および取り組みなど、未来に向けた対話を深め、積極的に取締役会に報告・提言を行っています。

次世代リーダーの育成
2017年4月より次世代経営者育成プログラム 「 共創経営塾(CMA)」 を開設しました 。 毎年 10 人~ 20 人程度を選抜し 、 社外取締役の監修のもと、 次世代の経営を担う人材の発掘と育成をめざします 。

リスクマネジメント
共創サステナビリティ経営の礎として、 「グループ行動規範」 を定め 、 そのもとに 「丸井グループ人権方針」「 丸井グループ安全衛生方針」「 丸井グループ環境方針」 等を定めています 。

(※2023.03.08 Updated  有価証券報告書(2022年3月期)においては、次の3行は削除されている。)
2020年度に 「 丸井グループお客さまエンゲージメント方針」「 丸井グループ人材開発方針 」「 丸井グループ腐敗行為防止方針」 を新たに策定しました 。

また 、 外部環境の変化に対応し 、 デジタル化 ・ 技術革新の事業構造転換のさらなるスピードアップに向け 、 CDO(Chief Digital Officer)を任命しました 。

(※2023.03.08 Updated  有価証券報告書(2022年3月期)においては、次の3行は削除されている。)
2018 年には 、 「 丸井グループ情報セキュリティ方針」「 丸井グループプライバシーポリシー 」「 丸井グループソーシャルメディアポリシー 」「 丸井グループ税務方針」 を制定しました 。

さらに情報セキュリティリスクへの対応を強化するため 、 情報セキュリティ委員会を設置し 、 グループ全体の情報資産などを保護 ・ 管理する最高セキュリティ責任者としてCSO(Chief Security Officer)を配置しました 。

(※2023.03.08 Updated  有価証券報告書(2022年3月期)においては、次の1行が追記された。)
そして2021年には新たに「ITサービスマネジメント基本方針」を策定しました。

規範・ 各種方針は 、 実効性を年1回検証するとともに 、 研修などを通じてグループ社員へ周知を図っています 。 今後も適宜見直しを行い 、 時代に合わせたリスクマネジメントを推進していきます 。

(※2023.03.08 Updated )
 <社内外に開かれた働き方の実現>の「イノベーティブな組織の醸成」のところで、「年齢や経験年数にかかわらず能力とスキルとやる気さえあればすぐに活躍できる働き方」とあるが、どのような「能力とスキル」があれば良いのかをしっかりと定義できているのだろうか。「副業やシェアワーカー、長期インターン」といった場合にも、しっかりとした人材要件定義は必要である。それがなければ、どのような場合に立候補できるのかが分からず制度が利用されず、機能しなくなる。

 サステナビリティとビジネスの両立をめざす重点指標(KPI)」とは、具体的にどのようなものなのだろうか。
①サステナビリティに関する取り組みをどれくらい実施すると、
②企業全体の業績が何%UPした、
といったように、①と②に正の相関が見られた、というエビデンスデータを示すことが望まれる。ここで、①としてぜひとも実施したいのは、単なる健康経営推進施策にとどまる内容ではなく、前述のような「真のウェルビーイング施策」(Level 3)の取り組みといえるような施策であり、「スキルの可視化」を行なって個人起点のキャリア支援を行った結果、業績が何%UPしたと証明してみせることである。

 「次世代経営者育成プログラム 」によって「次世代の経営を担う人材の発掘と育成をめざし」ているということであるが、ISO 30414の「リーダーシップ開発」の項目を参考にしながら「一定期間内に当該プログラムに参加したリーダーの割合」を示したり、「ラーニングと人材開発」の中の「研修参加率」を参考にしながら「年間の従業員総数のうち、研修に参加した従業員の割合」を示すと良いだろう。

 「2020年度に 『丸井グループお客さまエンゲージメント方針』『丸井グループ人材開発方針』『丸井グループ腐敗行為防止方針』 を新たに策定」ということであるが、昨今では「Customer is not 1st, Employee is 1st」と断言する経営者も出現しているくらい従業員エンゲージメントやエンプロイーエクスペリエンスを重視することがトレンドとなっているわけであるから、「丸井グループ従業員エンゲージメント方針」も策定すべきではないか。
 また、「人材開発方針」については是非とも具体的内容をアピールすべきであり、その際にはISO 30414の「タレントプールの充実度」(移行と将来の労働力のケイパビリティアセスメント)の項目の「事業セグメント毎の将来の労働力需要とそれを満足できる可能性について文章で表現する。」という指針に従ってナラティブな表現で説明すると良い。ここで、「文章で(ナラティブに)表現」といえどもデータで根拠を示せるに越したことはないのであり、そうなるとやはり「後継者計画」のところの「後継者準備率」や、「採用」のところの「ポジション毎の適格候補者数」「人材の豊富さ」(ベンチストレングス)に関しても開示の準備を進めておいた方が良さそうである。そして、これを行うためにも結局のところ、まずすべてのポジションについてスキル・コンピテンシーベースで詳細な要件定義を行い、それと同じモノサシで人材側の保有スキルの洗い出しを行なっておかなければならない。

 「CDO(Chief Digital Officer)を任命」とか、「CSO(Chief Security Officer)を配置」とあるが、そもそもCDOやCSOについてしっかりとした「ジョブ定義」は行われているのであろうか。特に言及がないため不安が残る。また、「ジョブ定義」は未だないとしても、どのように適格要件(それは、スキルコンピテンシーベースで表現されるべき)を満たした人材が実際に配置されたのか、についても言及すべきではないだろうか。そうでないと、「流行りの名称をつけてポジションを設置するくらいなら誰でもできる」と受け取られかねない。

 「規範・ 各種方針は 、 実効性を年1回検証するとともに 、 研修などを通じてグループ社員へ周知」という点については、ISO 30414の「コンプライアンス・倫理に関する研修を修了した従業員の割合」という項目を参考にしながら、「一定期間に当該研修を受講した従業員の割合」を開示すべきだろう。


 以上、全体を通じて「辛口なコメント」が多いという印象を持たれたかもしれないが、裏を返せば、親身になって日本企業の「人的資本開示」の支援を行なっていると自負している。
 それが、株式会社SP総研の「『人的資本開示』対応コンサルティングサービス」である。

 コンサルティングファームを始めすでに各社同様のサービスを展開していると思われるが、当社のサービスの特徴としては(おそらく日本で唯一)「スキルの可視化」の支援まで行なっていることを挙げることができる。
 仮に他社でも同様のサービスを行なっていたとしても、そのための手法として「セルフジョブ定義」を用いている点も加味すれば、「日本で唯一のサービス」といえる。

  現場主導型の、日本企業にもマッチしやすい手法を用いながら、無理のない「人的資本開示」を目指して支援している。


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