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【鴨ブックス】初めての本ができるまで(後編)

このnoteマガジン「鴨さんと出版社はじめました!」は、毎週日曜日に更新しております。ところが昨夜、それを覆す事件が起きました。仕上がり見本を眺めながら記事をまとめていたら、収まりがつかなくなってしまったのです。そこで本日は、異例の(後編)を書きたいと思います。

今日は、今年の春のはじめに取次会社との交渉が始まってからのお話です。鴨ブックスの志を知りたい方は、上記のリンクから前編をお読みください。いやいや、とにかく「口座開設交渉について知りたい!」という方はこちらだけを読んでもいいと思います。

でも、後編の結論が前編に立ち返る気がしてなりません。
(書く前に、それが見えていることを人は「構想力」といいます)
↑ うわっ、偉そう・・・

とにもかくにも、僕はまず自分の古巣であるトーハンに連絡を入れ、指定された資料を集めて提出しました。そのうえでアポをとり、3月中旬に鴨さんと僕ともう一人の3人で先方に出向きました。その後、僕は一人でかも出版の既刊本を持参しました。

二度にわたって久しぶりに訪れた古巣は、とっても暖かかったですね~。

リクルートやミスミのように辞めた人が活躍する会社が世の中にはいくつかあります。イトーヨーカドー(セブンイレブン)で大活躍された鈴木敏文さんは元トーハン社員です。トーハンも辞めた人が活躍する会社の一つなのかもしれないですね。

僕も、鴨ブックスで大活躍するかもしれません。(あり得ん。笑)
↑ うわっ、やっぱり偉そう・・・

でもあらためて、トーハンって良い会社だなぁと思いました。

↑ 最近、社屋も新しくなりました。羨ましい。。。

僕は長らく取次の中にいたので、出版社開業時によく言われる「取次の壁」は本来「制度の壁」というべきものなんだよなぁ、と冷静にみていました。取次も出版業界の繁栄は望むところなので、実際に有力な新規プレイヤーの参入を望んでいるのです。

だからなんですよ。鴨さんに「口座開設可能」と答えることができたのは。だって鴨さんには、最初の本を出してから代金が入ってくるまでの間を支える十分な財務基盤があります。さらに、多くの著者さんとのつながりがあり、コンテンツの力もあります。

営業力も宣伝力については書くまでもありません。いわば、僕が最後のピースだったんです。だから、僕は鴨さんの夢は叶えられると思いました。そして「出版社をつくりたい」というのは僕にとっての夢でもあったわけです。では鴨ブックスが乗り越えた「制度の壁」について説明しましょう。

新規参入者を阻んでいるのは取次ではなく、出版業界特有の「委託制度」なのです。これは書店さんが(期限の定めはあれ)本を返品することを認める制度です。これにより、取次は返品のリスクを背負うことになります。

出版社で作られた本は、取次が仕入れ(代金を出版社に支払い)、書店に送られます。しかしこの時、まだ本は最終消費者の手元には届いていません。いわゆる「流通在庫」と呼ばれる状態です。

いつ書店から返ってきてもおかしくない状態なのです。書店から取次を経て本が出版社に戻ったときに、出版社に支払い能力が無ければ取次会社はとりっぱぐれてしまいます。それを防ぐために、口座開設時に出版社に様々な確認をするのです。

知っているということは何よりも大きな武器だなぁ、と僕は思いました。上述の通り条件が揃っていたため、いたずらに気をもむこともなく、比較的早めに内諾をいただけました。でも条件があまりにも斬新だったため、最終的に書類を交わしたのは8月上旬でした。

「かも出版」という形で進めていた出版社名を、途中で「鴨ブックス」に変えたことも時間がかかった要因の一つでした。取引条件が違う本を同じ出版社名で刊行することは、絶対に書店様側で混乱が生じると考えたのです。それを避けるために、手戻りを惜しまず出版社名を変更しました。

そのとき、実は取次さんには少し怒られたんです。

最初「フェアトレード出版」にしようとしてたんですよ。そしたら、鴨がいなくなった!(怒)と指摘されたのです。これは、言う通りでした。早速、鴨さんと相談し、その日のうちに「鴨ブックス」という社名が決まりました。トーハンの担当者に、今ではものすごく感謝しています。

さて、僕たちがやりたいのは「書店を元気にする出版社」です。書店さんに負担をかけるわけにはいかないため、社名を途中で変更しました。そしてもう一つ時間がかかったのが、先程「斬新な条件」と書いた「書店利益率30%」のところだったのです。

実はここにこだわるというのは、業界の内部が見えている僕には到底思いつかない発想でした。鴨さんが笑顔でそういうので、役員報酬さえ払ってくれるのであれば「まぁいいか」と思って、交渉の席でも横にいてレンタルキャットのように「うん、うん」と頷いていただけでした。

長らく続いた取次の帳合獲得競争や、書店経営が厳しくなる中で生まれた取次による書店系列化によって、複雑に絡み合った糸をほぐしてシンプル化させることなど「できるわけがない」と、最初のうち、僕は思っていたのです。逆に知っているからこそ、怖い部分ですよね。

もう、眠れない日が何日かありましたよ。

でもそれが、まるでモーゼの十戒の映画のように(例えが古すぎないか)どんどん開かれていったのです。「うん、うん」と軽く頷きながら、僕は内心、めっちゃ怖かったんですよ。ただ何故か大役を任されてクソ度胸で乗り切るというのは、昔から僕に与えられた役回りのようです。

もう大丈夫です。ヒリヒリとした日々を越え、両社ともこちらの意図を完全に汲んでいただいた形で円満に契約書を取り交わすことができました。トーハンさん、日販さんありがとうございます。そして、これからどうぞよろしくお願いします。

先日、出版業界に新風を吹き込むニュースとして、9月2日には業界紙「新文化」さんに9月13日には「文化通信」さんに、大々的に報じていただきました。ありがとうございました。

書店の皆さまは、普段あまり出版社ごとの利益率までチェックされてないかもしれませんが、鴨ブックスは書店様にとって抜群に良い条件で(かつ通常の新刊委託版元として)お取引をさせていただくことになりました。是非とも、お力添えをいただければと思います。

時々、特別条件での流通を、単品でおやりになる出版社さんもあります。しかし、鴨ブックスは全点30%です。書店様が20年前から30%を掲げられてきたのを僕は知っています。さらに、単品単位での管理には限界があることも知っています。

前職の頃に、こういう新規出版社さんが現れたらいいなぁ、と思っていた出版社を自分が経営できるのです。

でも鴨ブックスだけで終わってしまうと、それは失敗です。全体に影響を及ぼすためには、後に続く出版社さんがあらわれることを願っています。そのためには、コンテンツ力のある著者さんに「鴨ブックスで本を出したい」と言っていただけるようにならねば、と思ってます。

後に続く出版社が現れるより、順番としてはそちらが先ですね。ますは、業界内での認知度があがり本が売れるようになって、著者さんが本を出したい出版社になるのが先決です。そして、一応の成功を収めたとき、後に続く方々が僕たちのモデルに注目してくれるのではないでしょうか。

いまはまだ、業界内で知ってもらっている段階なので、偉そうなことは言えません。でも、鴨ブックスが持っているポテンシャルをまっすぐにそこに向ければ、意外と早くそこに到達できるかもしれません。この短サイクルの時代なので、まずは一気に成長を目指します。
↑ なんて偉そうなんだ・・・

是非とも、応援のほどよろしくお願いいたします!


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