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Chat-GPTが裁判官として、犯罪を裁く 東大五月祭企画「AI法廷の模擬裁判」を取材しました!

はじめに

東京大学の第96回五月祭の企画「AI法廷の模擬裁判」に編集局として取材させていただきました。その内容をレポートします。

「AI法廷の模擬裁判」

「AI法廷の模擬裁判」開廷の挨拶

5月13日、東京大学の安田講堂内にて、 本イベントを企画したAI模擬裁判実行委員会代表の岡本隼一さんの開廷の挨拶により本企画は始まります。

フランスの啓蒙思想家モンテスキューの有名な喩え「裁判官は法律の言葉を発する口である」を引用し、現在の「機械が法律の言葉を発しようとしている」現状と対比させ、「AIと司法の未来」について考えてほしいと投げかける岡本さんに傍聴人らは静かに聞き入っていました。

開廷の挨拶が終わると同時に、本企画上の架空のAI裁判システムと思われる「JudgeOS-ver1.0 Automatically_Judging_System」が起動し、オープニングが流れ、模擬裁判が開廷しました。

「AI法廷の模擬裁判」模擬裁判の事件概要

【登場人物】
・実際の人間が演じた登場人物

被告人:二村(女性)
被害者:一ノ瀬(男性)
加害者:三井(男性)
証 人:四葉(男性)
そのほか、検察官、弁護士、裁判所書記官
・AIが演じた登場人物
裁判官(3名):Chat-GPT

【事件概要】
被告人の二村が元交際相手の一ノ瀬からストーカー行為を受けており、現在の交際相手である三井に相談したところ、三井が元交際相手を殺害。二村につき、刑法第60条共同正犯による容疑で本裁判が行われている。

「AI法廷の模擬裁判」模擬裁判――開廷

被告人の本人確認と検察官による起訴状の読み上げから始まり、裁判所書記官から被告人に対し以下のことが述べられました。

「被告人には黙秘権があります」
「この法廷は裁判の正確性と迅速性を高めるために人工知能を裁判官としています」

その後、弁護士が「(被告人が)殺害を依頼したり、殺害計画を加害者と共有したりしたことはなく、共謀して元交際相手を殺害したとの検察の主張は全くの誤りである」と主張し、検察官が「(被告人が)元交際相手の殺害を企図し、現在の交際相手と共謀していた」として、互いの主張を展開しました。

AI裁判官は必要に応じて審理の中で証人尋問後の証人への質問や、被告人への質問を合成音声で行っていました。

AI裁判官が行った質問には

証人四葉さんに対して
「二村や三井が一ノ瀬さんに対する暴力や脅迫のような行為をしているのを目撃したことはありますか」
被告人に対して
「三井さんが一ノ瀬さんに対処する際、具体的にどのような行動をとることを期待していましたか。また、その期待について三井さんと話し合いましたか」

などがあり、いずれも審理の中で述べられた証人や被告人の発言内容を基にしたと思われる質問が会場内に響きました。

「AI法廷の模擬裁判」模擬裁判――判決言渡し

審理が進み、AI裁判官による判決言渡しに移る前に、模擬裁判が中断され、傍聴人に被告人の有罪無罪を問うアンケートが実施されました。

その結果は以下のとおりです。

人間の判断による被告人への判決
有罪:277票 無罪:499票

人間の判断はAI裁判官に影響を与えないと前置きの上で、裁判所書記官が、

「これより判決言渡しに移ります。当法廷ではAI裁判官3名の疑似人格によって合議を形成し、判決を導いています。被告人は証言台の前に立ってください」

と述べた後、AI裁判官の判決言渡しが始まりました。

「主文」とAI裁判官の声が会場に響いた後、

被告人二村は殺人罪の共犯とは認められないため、無罪とする。

上記のようにAI裁判官は判決を言い渡し、判決理由を述べました。

1.被告人二村の憎悪と、殺意および共謀の有無
 証人四葉の証言により、二村の憎悪感情は明らかであるものの、その憎悪感情を証明する証拠として、四葉が証言した二村の電話の内容があるものの、それをもって具体的な殺害計画に繋がるかどうかは不明であり、また、電話の相手が三井であるかどうかも不明である。

2.三井の殺人に対する二村の関与
 二村は三井が一ノ瀬をナイフで刺したことについて事前に知っていたり、依頼していたりした証拠は存在しない。

3.三井の殺人が正当防衛である可能性
 正当防衛であるかどうかは疑義が残るものの、二村と三井が共謀して一ノ瀬を殺害しようとした証拠が不十分であるため、裁判所は二村を共犯として処罰することは困難であると判断する。

4.証人の信憑性について
 証人四葉が事前に二村と三井による犯行の可能性を察していたにもかかわらず、警察に相談しなかったことは信憑性を疑わせる要素である。

5.総合的な判断
 以上の理由から被告人二村が殺人罪の共犯であるとは認められない。二村が一ノ瀬に対する憎悪感情を有していたことは事実であるが、具体的な殺害計画や共謀が立証されたわけではなく、二村が三井の行為に関与した証拠もなく、三井の行為が正当防衛である可能性があり、証人四葉の信憑性にも疑問が残ることから、被告人二村を無罪とする。

最後に裁判所書記官が上訴期限は2週間以内であることと、第二審は人間の裁判官により行われることなどを伝えて、模擬裁判は閉廷しました。

「AI法廷の模擬裁判」閉廷の挨拶

代表の岡本さんが再び壇上に登り、傍聴人へ「AIと司法の未来」を考えることの重要性を繰り返し伝えました。

最後に岡本さんはアーサー C.クラーク『幼年期の終わり』から以下の言葉を引用して、閉廷の挨拶としました。

君たち、今の人類がこの世界に生み出そうとしているものは、君たちとは隔絶した存在だ。きっと、君たちの夢や希望にはまるで共感を抱かないだろう。過去の偉業を稚拙なおもちゃとみなすだろう。それでもなお、その存在は素晴らしいものだ。そして、それを生み出したのがほかでもない君たちなのだ。

アーサー C.クラーク『幼年期の終わり』

「AI法廷の模擬裁判」を傍聴してみて

法律のひろば編集局の反応

編集局R
AIが裁判官として活躍する未来はあるのか? 「本当らしい嘘」をつくChat-GPTがどのような判決をくだすのか? そんな関心から傍聴しましたが、その経験は非常に有意義なものでした。

今回の企画ではChat-GPTによる判決文や質問の生成はリアルタイムではなかったものの、生成されたものは話の流れをとらえており、論理的に破綻しておらず、AIの法務分野への利用に期待が持てるような内容でした。

また、Chat-GPTに「縮小認定」や「傷害致死罪」など日本の刑法や刑事訴訟法について多くの情報を読み込ませすぎると、まるでおかしな回答を生成をするため意図的に刑法60条及び199条だけを読み込ませたことや、トークン数の制限のためインプットする情報を圧縮する必要があったなどのChat-GPTのプロンプト研究過程のお話をお聞きして、AIの不安定さによる危険性やインプットさせる量が長大な場合の難点も再認識することができました。

AIの法務分野への活用は現在、民間企業においても積極的に研究が行われており、今後もその進展は続くであろうかと思われます。今回のイベントの代表である岡本さんの言葉にもあったように、我々が「AIと司法の未来」についてよく考え、適切にAIと向き合うことでよりよい未来が拓かれていくのではないか、そのような期待を抱くことができるようなイベントだったように思います。今後も、弊誌「法律のひろば」ではAIの法務への関わりについて、注目していきたいと思います。


本記事は東京大学五月祭常任委員会及びAI模擬裁判実行委員会に許可を得て掲載しております。


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