見出し画像

大学に新たな多様性をつくり出す!APUが仕掛ける「高校生特命副学長」募集という挑戦の価値を考える

普段は大学のプレスリリースからnoteのネタを探すことが多いのですが、今回はX(旧Twitter)で見つけた告知を取り上げようと思います。立命館アジア太平洋大学(APU)の前代未聞の非常にユニークな取り組みです。大学が新しいことを模索するのであれば、これぐらいの突飛さや気概が必要なのかもしれません。

「高校生特命副学長」募集というチャレンジ

ではどのような取り組みなのかというと、新高校1・2年生を対象に「高校生特命副学長」を募集するというもの。書いてはみたものの、これだけでは、え、どういうこと?となる、かなり斬新な企画です。もう少し詳しく説明すると、高校生から特命副学長と、特命副学長をサポートする高校生サミットメンバーを公募。任命された高校生たちは、これからの新しい大学や教育につながる政策・企画の立案をめざし、年度末まで活動をします。ちなみに在校生特命副学長と在校生サミットメンバーというのも同時に募集しており、彼らはAPUのあるべき姿をめざして活動する、というミッションを持って、高校生特命副学長&サミットメンバーとも連携しながら活動するようです。

特命副学長とサミットメンバーの役割と活動内容(APU特命副学長の募集ページより)

大学経営に高校生を巻き込む意図とは何か

大学が学外と連携するのは、地域貢献や教育、研究、産官学連携、それに入試広報やブランディング活動など、さまざまありますが、このAPUの活動はどれにも当てはまらないとてもユニークな活動です。人によっては、入試広報の一環では?と思う人がいるかもしれません。でも、企画の告知からはじまり、エントリーした高校生の一次選考(書類&動画)、2次選考(面接)を経て任命し、さらに1年弱の期間、彼らの活動をサポートし続けるわけです。これだけの手間ひまをかけてるにもかかわらず、入試と直接かかわる活動ではないので、彼らがAPU以外の大学を受験・進学する可能性も十分にありえます。つまり、入試広報の施策として考えるなら、絶望的に効率が悪いわけです。

では、ブランディング活動としてはどうか?と言われると、これは幾分、その意味合いはあるように思います。APUは、以前、国際公募でライフネット生命保険の創業者である出口治明さんを学長に選出した大学です。そういう意味では、オープンな風土や、広く外部から叡智を募ることが文化として定着しており、今回の企画もそんなAPUらしさを全面に押し出したものだといえるからです。とはいえ、これもAPUのブランディングにプラスに働くというだけであって、ブランディングのためにやっているかというと、そうではないよう気がします。やっぱり、これが目的なら、コスパが悪すぎるからです。

じゃあ、この活動は、何を目的にしているのかというと、APUがより良い大学になるために、教職員では気づかない視点や提言をもらうためにしているのだと思います。ハイ、応募ページに書いている通りです。いろいろと推測してみたものの、そうは言いつつ本当は…みたいのが、ほとんどなさそうなんです。

ダイバーシティを受け入れる覚悟と姿勢

ここまで考えて思ったのですが、この取り組みって、すっごくダイバーシティ的なんですよね。大学でダイバーシティというと、男女、国籍、ハンディキャップの有無、異分野という視点は強く感じるものの、年齢という視点は弱いように思います。

取材をしていると、社会人やリタイア世代との交流を学びに活かすというのはあります。でもこれって良くも悪くも対等ではなく、“胸を借りる”みたいな感じなのが多い。一方、18歳以下に対しては“何かをしてあげる”みたいなスタンスが多くて、上世代に対しても、下世代に対しても、関わり方がフェアじゃない。そういったなか、今回のAPUの取り組みは、とても対等に高校生たちと関わろうとしています。

うがった視点で捉えるなら、高校生に対等な立場で関わってもらうなら、これぐらいの準備や支援が必要だともいえます。しかも、そこから得られるものは、まったくの未知数です。けど、たとえそうだとしても、しっかりと受け入れようとする姿勢に、高校生に対するリスペクトが感じられるし、リスペクトがちゃんと伝わるということが、このような取り組みをする上で、とても大事なのかな、と感じました。

現段階で、この取り組みが大学にとって、グッドプラクティスなのか、そうでもないのかは判断がつきません。でも面白くチャレンジングな取り組みであることは確かです。またこの取り組みは、高校生の意見を大学経営に取り入れるだけでなく、高校生はじめ普段大学に関わっていない人を、“対等な立場”で大学に関わってもらうためのスキームづくりという意味でも、とても価値があるように思いました。

ダイバーシティって、単に異なる誰かがそこにいることではなく、その人がその人に適した役割で組織に組み入れられないと意味がありません。それって、一朝一夕でできることでもないし、やるにはそれなりの覚悟が必要です。今回のAPUの取り組みは、言葉にはしていないものの、その覚悟が強く感じ取れるものだと思います。


この記事が参加している募集

多様性を考える

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?