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研究だけじゃない!?立教大学の「江戸川乱歩生誕130年記念企画」に見る、社会向け広報の新たな可能性

社会に向けて情報発信し、自大学に興味を持つ人を少しでも増やしたい。多かれ少なかれ、そのような必要性を感じている大学がほとんどのように思います。とはいえ、どういったコンテンツを届ければ、振り向いてもらえるのでしょうか。今回、見つけた立教大学の取り組みは、この大学ならではのものではあるものの、視点としてはとてもヒントになるように思えました。こういった発想でコンテンツをつくっていくと、大学に興味を持つ新たな層を開拓できるかもしれません。

江戸川乱歩生誕130年を機に書籍を刊行

ではどういったコンテンツなのかというと、『乱歩を探して』という立教学院創立50周年を記念した書籍です。立教学院が創立150周年を迎える2024年が江戸川乱歩の生誕130年にあたることから、乱歩にゆかりのある方や、乱歩の作品に深く関わってきた方々のインタビューや作品の朗読を、立教大学では「江戸川乱歩生誕130年記念企画」として配信してきました。これらを大幅加筆し、書籍化したのが今回の1冊になります。

以前、大東文化大学の『38の書斎 書家が語る文化と墨縁』という書家のインタビュー集を、このnoteで取り上げたことがありますが、これに通じるところのある取り組みかもしれません。

ちなみに立教大学が、なぜ江戸川乱歩を?と首をかしげる方もいるかと思います。実は立教大学池袋キャンパスには、江戸川乱歩が1934年から移り住んだ邸宅と書庫として使われていた土蔵があり、ここが今も「立教大学江戸川乱歩記念大衆文化研究センター」として活用されているんです(2024年1月~9月まで一時休館)。以前、同センターに伺ったことがあるのですが、大きな建物ではないものの、独特な雰囲気のある土蔵が印象的だったことを覚えています。

縁もゆかりもない人でも面白がれる大学コンテンツとは

今回、この取り組みを見つけて面白いと感じたのは、このコンテンツの位置づけです。というのも、だいぶ強引に言い切ってしまうのですが、実は私、大学のコンテンツで、その大学への好感や関わりがなくても純粋に面白いと思えるものって研究ネタ(研究者や研究成果など)ぐらいしかないと思っているんです。

ゼミ紹介も、卒業生インタビューも、産官学連携プロジェクトも、やっぱりその大学に興味がないと惹かれません。縁もゆかりもない大学のゼミ生たちがいくら頑張っても、へー、すごいなあ、で終わってしまいます。ただ研究に関しては、何々大学だからとか関係なく、知的好奇心をくすぐるものはくすぐるし、面白いものは面白いんですよ。大学の社会一般に向けたコンテンツを見てみると、ほとんどが研究を扱ったコンテンツなので、私と同じような感覚で大学のリソースを見ている広報担当者は多いように思います。

で、今回の立教大のコンテンツです。このコンテンツは、大衆文化研究センターが監修してはいるものの、研究を扱ったものではありません。でも、(特定の)社会一般の人たちにぶっ刺さるものになっています。先にあげた「江戸川乱歩生誕130年記念企画」のページを見てもらうとわかるのですが、美輪明宏や佐野史郎、松本幸四郎など、さまざまな著名人が乱歩や乱歩作品の思い出や魅力を語っているわけです。けっこうマニアックな内容なのですが、好きな人はお金を払ってでも読みたいものになっていて、だからこそ書籍化という発想も出てきたのかなと感じました。

さまざまな業界の著名人が乱歩の魅力を語る「江戸川乱歩生誕130年記念企画」

とはいえ、人気作家や話題性のある事象を取り上げるだけなら、これらを研究している学内の研究者にそのテーマについて語ってもらえば事足ります。実際、大学のオウンドメディアの記事なんかには、そういったものをよく見ます。でもこの場合、研究者インタビューで、1回か2回その作家なり事象を取り上げるぐらいしかできません。逆にそれ以上、フィーチャーしだすと、なぜそこまで取り上げるのかがわからず、学内外に首をかしげる人が出てきます。また、注目されている人やテーマを扱う場合、すでに多くの関連コンテンツが世に出回っているので、コンテンツを一つ二つ配信したとて、すぐ埋もれてしまうのが関の山です。

でも今回の立教大学の取り組みは、これとは少し違うように思います。乱歩を押し出すことが、いち研究者のPRではなく、大学そのものの魅力や特徴を伝えることになるので、コンテンツがたくさんあってもおかしくないんです。現に、立教大の大衆文化研究センターのサイトには、乱歩をテーマにしたコンテンツがかなり充実しているし、今回の書籍化は立教学院創立150周年記念としての取り組みなので、かなり推奨されていることがわかります。著名かつ人気のある人物について、こういった扱い方ができるというのは、立教大学の広報的な強みだと感じます。 

自大学の歴史や特徴を、広報の視点で棚卸しする

村上春樹ライブラリーのある早稲田大学、阿久悠記念館のある明治大学などなど、探してみると人気作家✕大学という切り口が使えそうな大学は、他にもちらほらとあります。もちろん何かしらの施設がなくても、“その人物が自大学の魅力・特徴の一つである”と胸を張って言える(理屈が通って学内コンセンサスが取れる)なら、広報的な強みとして活用していく道は模索できるように思います。

そうはいってもゼロから新しくつくりあげるものではないので、広報という視点でもう一度、当たり前のようにあった歴史や活動を見直して、あれこの偉人って広報に使える…?とか、この施設ってこういう言い方ができる…?みたいなことを探すところからはじめるのがよさそうです。広く社会に受け入れられるネタが研究関連以外にあるのとないのとでは、やっぱり社会に向けた広報活動の厚みが変わります。気づいていなかったカードを探すために、大学の棚卸しをしてみてもいいかもしれませんね。

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