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お土産はごろ寝 ーヘルパーさん日記2022年10月

「なんでも経験、は通じない時代やから」
夜の台所で、唐崎さんは言った。ちびちび飲んでいたお湯割りがちょうどいい温度で喉を通り抜けていった。

私がさぬき広島に初めて来たのは去年の夏だった。友達と2人、計画を立てずに瀬戸内海をふらふらと旅していたときにGoogleマップで見つけたのがこの宿。ホームページの雰囲気に惹かれ、宿にある本棚があまりに好みでここに決めた。

夜にはオーナーの唐崎さんと手作りの果実酒を飲みながらおしゃべりし、本棚の本を読みふける。ふと目を覚ませば遠くに船の汽笛と波の音が聞こえ、しとしとと雨の降る気配にまたまどろんだ。おじいちゃんの家のような宿は、旅する中で初めてできた「帰ってきたい場所」だった。

「就活が終わったらほとり!」を合言葉にどうにか就職活動をどうにか乗り越え、1週間ほどのヘルパー生活を始めた。

朝は6時に起き、畑仕事。昼間はのんびり過ごし、夕方にまたお手伝いをしたら、夜は唐崎さんに料理を教えてもらい、お酒を飲みながらおしゃべりして、23時にはぐっすり。こんな健康的で規則正しい生活をしたのはいつぶりか(というか記憶にない)。

五右衛門風呂を沸かしたり、干し柿を作ったりと、初めての体験も多かった。でも、振り返って1番印象的なのは実は「ごろ寝」だった。

朝ごはんの洗い物が終わると、こたつの前、縁側の手前に座布団を3つ並べる。朝のあたたかい日差しにくるまれながら、海をぼーっと眺める。

鳥の声、波の音、船の汽笛、虫の羽音、さまざまな音をぼんやりと追いかけているうちに、目がとろんとしてくる。ぽかぽかの座布団に頭を預け、気づけばうとうと。

本を読みたくなれば読み、散歩に行きたくなれば行く。でも、今はひたすらごろごろしていたい。そうして「何もしない」をしていると、幸せで、頭の中がすっきりとしてくる。

モノも情報も体験も溢れかえった社会で必要なのは、「なんでも経験」と飛び回ることではなく、ごろ寝なのかもしれない。

と言いつつ、このヘルパー日記を書いているのは締め切りをはるかに過ぎた、11月も半ば…。東京に帰るが早いか、いつも通り予定を詰め込んだ結果だ。

だが、何も変わらなかったわけではない。最近、朝ハマっていることがある。
起きてから、布団の中でスマホもいじらず、二度寝するわけでもなく、ひたすら「ごろ寝」するのだ。

島の空気を思い出しつつ毛布をたぐり寄せる時間が持てること。それは案外貴重な幸せなのかもな、と思いながら今日も目覚ましのスヌーズを聞いている。

干し柿干し柿と唐辛子のある縁側
干し柿と唐辛子のある縁側
島の花畑
島に向かう船で
島への道中

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というわけで秋ごろに久しぶりにヘルパーさんが来てくれておりまして、そんなさきこちゃんの滞在記でした。

お客様のお相手はもとより、畑作業も、またまた宿主の話し相手も沢山してくださいました(笑)💦

もしお読みいただいた方の中で、ほとりのヘルパーに興味が出たという方がいらっしゃれば、こちらの募集要項をぜひお読みください!!

★さきこちゃんと行った「柿仕事」はこちら


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