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Episode 460 聞くことだけなら出来るのです。

私は29歳になる年に転職を経験しているのですが、転職する前の会社で人事の仕事をしていた時期があります。
仕事の内容は新卒者の採用活動と、入社2年目までの若手社員のフォローアップで、就活中の大学生とお話をするのが仕事のひとつだったのです。
一言で言えば面接官の仕事になるワケですが、会社の方針として「型にはまった志望動機などの決まりきった質問を封印する」というのがありまして、可能な限り学生が話しやすい話題を聴くように…という指示があったのです。

その中で、子どもの頃から剣道をしていた…という学生さんがいて、剣道なんて全く未経験の私に、ものすごく的確に剣道の面白さを伝えてくださったのです。

剣道はレベルが上がるにつれて「一撃必殺」になる…打ち合いは精々小学生まで。上手い人と相対すると「ヘビに睨まれた蛙」みたいに身動き取れなくて、ダラリダラリと汗だけが流れていくんです。
中段の構えってあるじゃないですか、竹刀の先を相手ののど元に向けて構える基本の構え。
そこから一歩も動けない…剣先がどっちに流れても一発でやられる。
下にズレれば面が空く、上にズレれば胴が空く、左にズレれば小手が空く、右にズレれば突きが空く。
達人は剣先の迷いを、絶対に見逃してくれないんです。

面白かったですねぇ、彼の話。
こんなにも具体的に剣道の見どころを伝えてくれた彼は魅力的な人でした。
残念ながら彼は別の会社を選び、一緒に仕事をすることはなかったのですが…。
きっとこんな人にはどこの会社も欲しがるような魅力があるのでしょうね。

ところで…私の認知特性は三次元映像タイプで、それに次いでカメラアイの傾向が強く、聴覚&音が極端に弱い傾向であるのは、以前記事にした通りなのです。

「おやおや?聞くことに弱いあなたが、学生の話を聞く仕事をしていたって?」と思うかもしれません。
でも…していたのです、しかも問題なく。

この話は、条件さえ揃えば「キチンと人の話を聞き取ることが出来る」ことの説明になります。
まず、就活中の学生との会話ですから、静かな場所での個別対応ということ。
学生に発話させることがメインですから、会話ではなく傾聴しなさいということ。
そして、私の脳内回転数が安定状態でキープできていること。

最近、キープとリンク切れの話を考えていて、リンクが切れるのは過回転を抑えるために切り捨てるということだと気が付きました。

私の場合、安定する巡行回転数を維持できれば、人の話を聞くことは出来る…ただし、聴覚過敏/鈍麻の影響があり、ざわついた環境では難しい。
そして傾聴と会話は別の作業だということ。
自分の言葉を紡ぐためには、言葉を紡ぐためにパワーを割かなければならず、結果的に聴く作業を切り落とす必要があって、あなたの話が聞けなくなるワケです。
会話の難しさは、つまり「これ」です。

何度となくパートナーに「聞いてるの?」って突っ込まれる仕組みが見えてきました。

ところで、人事の仕事で学生と話していても、誰もが「剣道の彼」のように話が出来るワケではないのです。
一緒に仕事をしていた同僚は、私のことをよく見ていました。
「HOTASは学生と話している時に、いつもボールペンを分解しているよね」ってね。
聞くのに面白みがない学生さんに当たると、脳作業量をキープするために手作業を始めるってことだったのでしょう。
今振り返れば、あれは手持無沙汰感の埋め合わせだったのだと分かるのですけど…ね。

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