対談企画:ハードルは本当に高い? ムスリムの受け入れについて
<Hostel Style編集部より> 『ホステルだから』ではなく、『ホステルなのに』をテーマにしたマガジンです。なぜ、hostel DENは〇〇な取り組みをしているのか、を様々な切り口で書いていきます。
昨年、2020年3月5日にAFS日本協会様と「ムスリムの受け入れについて」の対談を行いました。※以下文章は、こちらの記事を転記しております
日本におけるムスリム文化について、hostel DENマネージャーの岡松和摩さん、インドネシア人スタッフのメラティ・プトリさん、そして日本で高校生留学を65年サポートするAFS日本協会の職員が意見交換をしました(取材日:2020年3月5日)。
ムスリム旅行者が旅先で困ること
AFS職員(以下、AFS):
AFSは2018年から文部科学省補助事業の「アジア高校生架け橋プロジェクト」というプログラムの実施団体として、毎年インドネシア、マレーシアなどアジアの高校生の受け入れをしています。
高校生たちは約10カ月間、ボランティアのホストファミリーの元で暮らし、ホストスクールに通うのですが、私たちはその家庭と高校を探し、留学生とのマッチングをしています。
その中で課題に感じているのがムスリムの留学生のホストファミリー探しです。宗教上の食事の制約があるため、受け入れのハードルが高いと思われる傾向があります。
そこで、今回は、「ムスリムフレンドリー」を掲げている「hostel DEN」の取り組みをお聞きしたいと思っています。具体的に、どのようなことをしているのでしょうか。
岡松和摩さん(以下、岡松さん):
hostel DENはインバウンド関連事業をてがけるFIKA(現在は株式会社藤井不動産)が運営しています。オープンする際、コンセプトの一つとしてムスリムフレンドリーというチャレンジングな要素を入れました。
ムスリムの旅行者が旅行先で困ることを調べたところ、大きく3点ありました。一つ目は、礼拝室がないこと、二つ目は食事の制約、そして三つ目は言葉の壁です。
一つ目の礼拝室については、ホステルの2階に作りました。ムスリムの方は礼拝前に身体を清めるため、お祈りする場だけではなく、清める場所の「ウドゥ」も設けました。いつでも誰でも無料で使えます。
二つ目の食事についてですが、飲食業の許可を取得していないため、食事は出していません。その代わり、都内のハラールフードの情報提供をしています。
三つ目の言葉については、宿泊者の心理的ハードルを下げるため、スタッフは外国人を起用していて、インドネシアやウガンダなど多国籍です。日本人はマネージャーの私しかいません。
実際、こうしてイスラム教徒のメラティがスタッフとしていることで、ムスリムの方に寄り添えることが多くあると感じてします。
メラティ・プトリさん(以下、メラティさん):
私は日本に留学をしていた時、たまたまSNSでhostel DENがオープンすることと、スタッフを募集していることを知りました。履歴書を持ってアルバイトの応募に行ったところ、すぐに採用してもらい、働き出したのは2018年2月にオープンして間もなくです。
ホステルでは共用キッチンがあり、自由に使える食器があります。ムスリムは豚肉を食べません。豚肉を盛ったお皿を使うことも抵抗があります。そこで、ムスリム用と、それ以外の食器を分けることを提案し実施したところ、宿泊者からの評判が良く、宿泊予約サイトでの口コミで高いレビューがつきました。器の写真を撮って、SNSでシェアする人もいました。
「ハラール」という単語が独り歩きしている
岡松さん:
アジアからの旅行者のスーツケースは他の国の人と比較すると重く、20キロ以上あることが普通です。なんでなんだろうと思うと、実はその中身の半分が食料品なんですよね。
インスタント食品だけではなく、お米やビーフジャーキーなどの肉、調味料まで持参してきます。それが逆カルチャーショックでした。それだけ食に不安を抱えているということです。食べきれない分はホステルに置いていってくれるので、シェアできるのはいいことなのですが。
AFS:
そうなのですね。私たちもムスリムの留学生とホストファミリーを探す際に、食の面で苦労することがあります。
留学生は高校生なので、自分のコミュニティから外に出たことがない生徒がほとんどです。そうすると、「自分は何でも食べられる」思っていても、いざ日本に来たら食べられるものがない、と気づくケースがよくあります。
ホストファミリーのお母さんは働いている方が多いので、毎日お弁当を作ることが難しい場合があります。「500円渡すからコンビニで買ってね」と言っても、豚肉やラード、ショートニングが入っているものが多く、生徒は「食べられるものが売ってなくて、買えなかった」となってしまいます。その結果、ホストファミリーの物理的、精神的な負担が増えてしまう現実があります。
メラティさんは日本において、食事面で困ったことはありますか。
メラティさん:
最近ハラール認証の商品を販売しているお店が増えていますし、ビーガンやベジタリアンのお店もあるので特に困っていません。コンビニの商品も時々買いますが、何が入っているか確認する必要があるので、やはり選ぶのに時間がかかってしまいますね。
好きな食べ物は寿司、納豆、そして果物です。特にいちごが大好きです。インドネシアは果物が豊富ですが、柿と桃はないんです。日本に来て食べてみたら甘さがちょうどよくて好きになりました。
甘いものでは、どら焼きやたい焼きなどの和菓子が好きですね。あと、インドネシア人は揚げ物が好きで、天ぷらや天丼が好物な人が多いです。
ムスリムの人の場合、シーフードは食べられるので、魚、エビ、貝はOKです。
AFS:
最近はハラール認証の調味料も出てきていますよね。ホストファミリーの中には、ハラールフードを日本人も食べられると知ると驚く人もいます。ハラールフードは何か特別なもので、家族みんなで食べるという発想がないんだなと感じます。
岡松さん:
「ハラール」という単語が日本で独り歩きしている印象はあります。難しく考えず、動物性の食材を使ってない、健康にいい食べ物、ということが浸透すれば日本人にも馴染みが生まれるのではないでしょうか。
家庭では、お好み焼きやたこ焼きが簡単にできるメニューだと思います。ホステルでイベントをする際は、豚肉入りと、鶏肉入りと、2種類作ります。豆腐ハンバーグもおすすめですね。
ムスリムは日本では「マイノリティ」
AFS:
hostel DENの「ムスリムフレンドリー」の取り組みについて、周りの反応はどうですか?
岡松さん:
ホステル事業ではおそらく初の試みということもあり、同業者から「すごい取り組みだね」と言われることは多いです。でも、同じようにムスリムの人に対応しようとするホステルが出てこないというのが現状です。
ムスリムの人口は世界の3分の1に値します。マレーシアからも年間40万人ほどが来日しているんですね。それでも日本では、ムスリムは「マイノリティ」と捉えられています。
ムスリムフレンドリーに特化したホステルにした方がムスリムの方の満足度が上がること思うのですが、そうはいきません。
会社としても、ホステルとしても、困っている旅行者の方の受け皿になりたいという思いがベースにありますが、私たちのミッションは「訪日観光客に来ていただいて、楽しんでもらうこと」です。
そのため、ムスリムの方に100%満足してもらうことを目指すのは難しいというのが正直ある。バランスの取り方が難しいと感じています。
AFS:
それは共感します。AFSでの受け入れも、ムスリムの生徒のみだったとしたら、また違ったやり方があると思います。でも、様々な国の生徒を受け入れることに意義があると考えています。
政治的に国と国は仲が悪いと言われてもいても、留学生を通して個々で仲良くなる機会は往々にしてあります。岡松さんが言われるようにバランスが難しいですが、その落としどころを見つけていきたと今日のお話を聞いて思いました。
<対談企画:ハードルは本当に高い? ムスリムの受け入れの記事リンク>
https://www.afs.or.jp/news20200424/
< Hostel Style 編集部より>
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