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あの日、私が受け取った かけがえのない贈り物

こんにちは、ほしまるです。

生きていると、人から思いがけない 素敵な贈り物 を受け取ることがある。

それは、決して目に見えるものでないだけに
後になってからそのありがたみ、価値に気づかされることがある。

先日ふと思い出した過去の出来事は、改めて私の心を温めてくれた、とても素敵な贈り物でした。

1:快適な環境なのに、私はいつからか焦っていた

当時の私は、今思うと、とても焦っていました。

夫(当時は恋人)の海外転勤が決まり、結婚。
そこからの約4ヶ月、私は、渡航準備に追われる日々でした。
三年弱とはいえ、これまで担当してきた仕事を後任の三人に引き継ぎ、退職。

夫の任期終了までの数年、駐在員妻として生活し、
日本に帰国後は一旦、社宅に入りました。

社宅といっても、駐在員妻時代ほどのストレスはありませんでした。
というのも、ほとんどが私たち同様、国内外の転勤から本社に戻ってきたご家族、ご夫妻たちだったので
暗黙の了解で、お互い無理して付き合う雰囲気ではなかった。

そんな中、入居時にご挨拶し合った時から、とりわけ気さくにしてくださった 先輩奥様 Kさん、Mさんと親しくなり、
月1、2回 外でランチやお茶をしたり
お互い夫が残業の時に晩御飯を食べに行ったりという生活になっていました。

毎回とても楽しくて、それでいて夫が同じ会社の奥様同士なのに、気を遣いすぎたり 疲れることがなかったのは 、
Kさん、Mさんも私同様 同じ職場に居た 職場結婚だったこと
そして、お互い敢えてなぜそうなのか聞くこともなかった、
子どもがいないことという2つの共通点 があったからかもしれません。

とても快適でした。

ただ、それでいてふと 気づくととても焦る自分がいました。

私の場合、失業保険の受領延長申請をしていたので
帰国してからしばらくして受けとることができました。

失業保険が切れた(終了した)時に思ったことは

これから私、どうしよう

という疑問。
これが自分探しへの旅に迷いこむきっかけとなり
私は焦りながら、あれこれもがくことになるのです。

なぜそう焦ったのか。
答えは簡単でした。

私が新卒で働いたのは三年弱。
まだ若い、といくらいわれても
私が駐在員妻の生活を送っている数年で
世の中は様変わりしていたのです。
在職時代には、社内のシステムを使っていて
まだインターネットもない時代。

たった数年でインターネットが普及し
エクセル、ワード、パワーポイント等々、在職当時使ったこともないものを使えなければ
使い物にならない世界になっていたのでした。


2:自分探しの旅で私は完全に迷子になった

帰国してから、夫はかなり忙しい日々でした。
仕事は、同じ社内で恋人として付き合っていた頃のように残業は当たり前。
プライベートで同期や後輩、先輩と飲みに行くことももちろんありますし
仕事上の飲み会やイベントなど、どうしても避けられず、私がひとりで過ごす時間は当然増えました。

私自身も、友人や、元同期と会う機会はありましたが。
会うたびに、家への帰路で 私だけ時が止まっていたかのような錯覚に陥るのです。

同級生、同期で、まだ引き続き働いていた子達は当然、勤続年数が増えていて、責任や立場も変わっていました。
私と同じ年に結婚退職した同期も、子どもが増えていたり、子どもを預けて仕事に出ていたり。

そんな中、婦人科系の重い病気で入院、手術を余儀なくされた友人がほぼ同時期に二人いました。

お願いだから見舞いには来ないでね

奇しくも二人とも、入院前に私も含め友人達にそう言いました。

経験したことはなかったけれど、彼女達の気持ちは痛いほど分かりました。

彼女達が退院して落ち着いてから会った時に
私は、彼女達から全く同じことを言われました。

私からのアドバイスね。
絶対、無理しすぎないで。
ほしまるも私と似て頑張り過ぎちゃうから。

そんな大切なことを、奇しくも二人から言われていたのに。
その後、数年後、ある場所に身を置いた私は
家事も人一倍、取り組んでいることにも人一倍
文字通り、頑張り過ぎて疲れ果てて
こわれてしまいます。(その話はまた別の機会に)

二人とも、私の駐在員妻生活のことを多くは語らなくとも、わかりすぎるくらい理解してくれていました。
多分、二人とも、私の焦りを完全に見抜いていたと思います。

そんな風に 私に対して、注意喚起をしてくれていたのは、今、思い返すと、この二人だけでした。

私はもがき続けます。
自分が心から取りたいというわけでもない資格へ挑戦しようとしてみたり。
とにかくやたら、私に不釣り合いな資格だとかその手のパンフレットをあちこち請求していた気がします。

なんのためにその資格を取りたいのか、動機も目的もわからないのに
飽きっぽい私が真剣に取り組めるはずはないのに。
勉強しかけて止めることは度々ありました。

そんなもがきを続けながら、求人に目を通す日々。

たまたまふと目に留まったのは、
とある旅行代理店の求人でした。

短期のパート・アルバイト募集。
予約専用コールセンターの仕事。
未経験歓迎
研修あり
※将来的に社員として
働いていただける方も歓迎です

そんな文言で募集されていたと思います。

とりあえず応募してみよう。
履歴書を書き、面接。
当日はかなりの人数が来ていました。
落ちても仕方ない。
とりあえず始めなきゃ。

結果は採用でした。


3:想像もしていなかった世界

初出勤日。
緊張しながら職場へ着くと、ある部屋で待つように指示されました。

面接地の本社と違い
お世辞にも綺麗とは言えない研修センター兼コールセンターの建物は、正直、暗くてとても薄気味悪く
また、通された部屋はとてもじめじめした雰囲気でした。

その部屋には20名近い、同じ面接で採用された
同期がいました。
口々に、なんとなく言葉を交わします。

ねぇ、ここ、大丈夫かな
研修終わっても、ここで働くんだよ、ね?

程なくして、研修担当の社員が二人、入室しました。

研修期間は二週間。
主に電話の応対のしかた
そして簡単なパソコン入力
研修最終日に
実際の業務を想定したシミュレーション

そんなことを告げられたのちに、発せられた言葉に驚きます。

なんと、業務内容は
旅行、宿泊予約ではなく
クレーム、返金処理担当だったのでした。

え、そんなの聞いてません
話が違いませんか?
予約、って聞いてたから...

気づくと、誰ともなしに社員に疑問をぶつけていました。

社員は淡々とこう言いました。

研修についてこれたら、
業務をある程度こなせたら
予約担当に就いてもらいます

にわかには信じがたい話でした。
けれど、とりあえず研修を受けないことには
どんな世界かわからない。

甘かったと思います、本当に。

研修の日々は正直よく覚えていません。
ただ、きつかった。
精神的にも、体力的にも。

研修担当の社員は
ひとたびミスをすれば、今の世ならなら絶対あり得ない罵声を浴びせました。

毎日へとへとでした。

休憩時間、お昼休みには、
とにかくまず外に出て深呼吸したかった。

タバコの量がかなり増えました。

同期と喫煙所で無言でタバコを吸いながら
私たちどうなるのかね
どうしようかね
ポツリポツリ話していたのだけはよく覚えています。

研修を終えるまでに、同期の中には逃げ出した人もいました。
そうするべきか、私自身も悩みつつ、そのまま業務へ就くこととなりました。

出社して始業と同時に鳴り響く電話。
同じ部屋で、先輩社員、先輩バイト、同期達が一斉にひたすら謝罪する。
電話を切っても すぐ次の電話が鳴る。
それまで受けていた電話についてのメモをインプットし終えてないのに
電話を取らなきゃいけない。

息をつく暇もありませんでした。

今のようにパソコン画面に相手の顔が見えるわけでもないのに
電話で謝罪しながら、しきりに頭を下げる。

モウシワケアリマセン
モウシワケアリマセン...

いつしか、本当に私自身が何か過ちを犯して
謝っているような
そんな気にもさせられました。


4:救ってくれた何気ないひとこと

もちろん、ひたすら怒り続けるお客様ばかりではありません。
けれど、電話を取っていきなり怒鳴られることもしばしば。

クレームの内容は本当に様々でした。

たかがバイト(パート)。
でも、日々の仕事で受ける精神的ダメージは相当のものでした。

けれど、家に帰るまでに気持ちを切り替えて
晩御飯の支度をして
夫を待つ。

何事もなかったかのように振る舞っていたので
当時、夫は私が日々謝り続けているとは
想像してなかったと思います。

でも、きっとわかっていたかもしれません。
合わない仕事に疲れていることに。

ある日、いつものように業務を終え、休憩を取りに
喫煙所へ行くと、同期が既に一服していました。
ニコッと笑おうとしつつも、うまく笑えない。
いつもと同じ光景でした。

そこに、ロングヘアにきつめのパーマをした先輩社員がやって来ました。
彼女も喫煙者なので、頻繁に喫煙者で顔は合わせていたものの、
正直、怖い印象しかない彼女には当たり障りなく
挨拶だけしていました。

あのさ、ちょっといい?

話しかけてきた彼女。
絶対、業務のことで何か怒られるのかも
私たちは身構えていました。

タバコ、増えたね、三人とも。

え、もしかしたら、タバコ吸いに休憩取りすぎって言われるかも...
怖い気持ちになっていました。

けれど、いきなりクスクスと笑い始めた彼女。

余計、怖かった...

でも そのあと彼女は意外な言葉を発しました。

あのね、忠告。
悪いこと言わないから、
我慢しないで
逃げちゃえ。

私たちは顔を見合せ三人ともキョトンとしてしまいました。

彼女は続けて、こう言ったのです。

ずっとね、特に貴女たち三人に言おうと思って、
機会見計らってたの。
仕事できるんだもん、三人とも。
ここでなくても、
頑張れるって言ってあげたくてさ。

え...

同期の一人がすかさず聞きました。

ありがとうございます。
でも、社員さんの立場で そんなこと言っていいんですか?
そんなこと言ってたのバレたら立場悪くなったりするんじゃ?

私も全く同じことを思っていました。

彼女はこう答えました。

あのね、うちの会社
この募集しょっちゅうかけてるの。
なんでかわかる?
みんな続かないからだよ。
私たち社員はね、耐えられる。
社員だから。
それなりの給料ももらってるし、
福利厚生もあるし。
けどね、社員でさえ病んじゃうような
同じ仕事をバイトになんてさせてたら
おかしいでしょ?
我慢なんてすることないの。
社員になれた人なんてこれまでもいなかったし
そんなこと、
実はあり得ないからさ。

タバコを吸い終えた彼女は、これ、内緒ね、
と言いつつ、いたずらっ子のような笑顔でピースサインをして喫煙所を去りました。

思わず涙が溢れました。

辞めよう、
うん
辞めよう。

とりあえず、私たちだけ楽になるのも辛いから
残りの同期にはとりあえず伝えて、
それでみんなの判断任せよう

終業後に、晴れ晴れした顔で、午前あった出来事を伝えると同期はみんな泣いていました。

私にはそれでもここしかないから、という子もいましたが。

ほぼ全員が辞めました。

あの時の先輩社員のお姉さん。

今はどうしているかわかりません。

でもあの時、彼女から、些細なアドバイスでも

逃げちゃいな(辞めていいんだよ)

と、逃げ道を作り、解放してくれたことで

とても救われたと思っています。

先輩お姉さん。

あの時はとても素敵な【贈り物】をありがとうございました。

あなたのおかげで、私は、合わない環境で無理しすぎないことの大切さを教わった気がします。








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