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夜の札幌。寒空の下聴いた、あの路上ライブは

学会で行った札幌で、先輩と路上ライブに通い詰めた話。完全版。
寒空と言いつつ時期は九月中旬です。

夜の札幌、寒空の下聴いた、あの路上ライブは。前編
夜の札幌、寒空の下聴いた、あの路上ライブは。後編


9月中旬に札幌で学会があった。

初日の午前中が発表だったので、前日の夜に札幌に乗り込む。

当初予約していた成田発のpeachが当日、資材の搬送によって欠航なり、

急遽ANAを取り直したというアクシデントがあった。

旅費はこちらで立て替え、後日学校から支給されるシステムだ。

先輩ナカムラさんと二人で予約したので、流石に苦しい出費だったが、

普段格安しか乗らない分、飛行機はやはり快適だった。


こちらはまだ暑いので、半袖を着ていったのだが、

北海道は寒かった。

一応長袖のシャツは持っていたのだが、

それを羽織ってもあまり外に長居したくないくらいには寒かった。

ホテルを確認したのち、先についていたもう一人の先輩シノザキさんと合流し、

札幌名物味噌ラーメンを食べに行ってその日は終わる。


翌日。

無事に学会が終わった夜。

先輩のシノザキさんと一緒に夜の札幌に繰り出した。

決してやましい意味ではない。

ただただ、夜の札幌の街を、道を散歩した。


すすきのお姉ちゃんのキャッチをバッサリ断っていくのが心地よい。

とシノザキさんが言っていた。

普段ならあんな美女、土下座してでも繋ぎ留めたいのに、

こちらから軽くあしらってやるのだ。

もしかしたら俺が言ったのかも。

先輩と二人、夜の街をひた歩く。


札幌、中心部まで歩いてきた。

記憶がややあいまいだが、10時は回っていたような気がする。

東京とそう変わらない、大きなビルの1階の店舗もシャッターを下ろして、

街は大人の世界に染まる。


車のエンジンの音に紛れて、

ギターの音と、歌声が聞こえる。


閉じたシャッターに背を持たれて、

ゆったり目で黒尽くめの服を纏って、

小柄でショートカットの女性が弾き語りをしていた。


札幌の乾いた夏空に響く、

雑踏、エンジン音、ギターと歌声。


ちょっと聞いていきたい気持ちもあったが、

先輩と一緒だしなぁ、、、


と思っていたら、

「ちょっと聞いてっていい?」

と先輩の鶴の一声。

自分もちょっと聞きたかったんですよねと、

札幌市街、かの有名なニッカの電光看板に背を向けて、

二人、彼女の前に腰を据えた。


どうやらあいみょんを弾いているらしい。

当時かなり流行っていたのだが、正直あまり知らなかった。

しかし、彼女の歌はー

彼女の歌に聴きいっていた。


一曲弾き終えたところで、

彼女は聴いてくれてありがとうございますと我々に話しかけた。

私はとりあえず、どうも、よかったです。とかパッとしない答えを返した。

挨拶はそこそこに、彼女は次の曲を弾き始める。


あいみょん、スピッツ、くるりといったところを弾いていく。


曲の合間に雑談をした。

先輩はシンガーソングライターとか、インディーズのようなものが好きらしく、いい歌声ですね、とかいつもここで弾いているんですか?とか、色々な事を根掘り葉掘り聞いていく。

彼女は笑顔でこちらの質問に答えてくれた。


彼女はさYさんというらしい。

私とは2歳差で、バイトをしながら歌手になるため、路上で演奏しているのだという。





力強くてまっすぐな歌。

びっしりの楽譜が詰まった擦れたノートをめくりながらギターを弾く。

ずっと聞いていたくなる。


雑踏の有象無象にも感じるものがあるのだろう。

夜の札幌を足早に歩く大人たちも足を止めて、

数曲を聞いておひねりを投げていく。


彼女と親し気な、派手な女の人がやってきた。

同業者のようだ。

どうやら警察の取り締まりから逃げてきたらしい。

路上ライブは違法なので当然取り締まりの対象なのだが、

最近は仲良くなって見て見ぬふりをしてくれるのだという。

確かにライブ中何度かお巡りさんが通ったが、

特に何も言わないでいてくれた。


誰か通報した無粋な輩がいるんだよ、と派手な女の人がぼやく。

さYさんや聞いていた僕らもうんうんと頷く。


さYさんはこのあたりではやや有名人のようだ。

たくさんの知り合いの人に頑張れよと声をかけられる。

結構長いことここでライブをやっているらしい。

そう、彼女はなんだか応援したくなる。


優しい時間が過ぎていく。


気がつけば日を越えようとしていた。


そろそろ最後の曲にします。

先輩と二人、結局最後まで聞き入ってしまった。

拍手で大団円。

腕に立った鳥肌は、寒さ故か。


いつもここでやっているんですか。

先輩が彼女に尋ねる。

毎日9時くらいからやっているので、よろしければ明日も聞きに来てくださいね。詳細はTwitterで連絡します。

早速二人でTwitterをフォローした。

先輩はおひねりを2000円投げる。

そんなに金ないぞ、、、と思いつつ僕は1000円を投げた。


ホテルまでの帰り道。

シノザキさんとさっきのライブの感想を語り合った。

明日も行こうとは言わなかった。

でも、この人は明日も行くのだろう。

そして僕も行くだろうことはお互い分かりきっていた。


そんな余韻も含めて。




とても、


いい時間だった。




ホテルに向かう曲がり道で篠ざきさんと別れた。

一人になって明日は何をしようかと考える。

とりあえずカーディガンを買おう。

また明日、寒くも素敵な夜に備えて。




終わり。




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