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就活ガール#7 夢物語よりも奴隷根性!?

設定資料

これはある日のこと、キャリアセンターの課題で将来のキャリアプランについて考えている時のことだった。

課題
将来のキャリアプランについて、200字以内で、できるだけ具体的に教えてください。

志望企業によっても記載すべき内容は異なると思うが、とりあえず株式会社Xコンサルティングを対象として書いてみることにする。

俺の回答
将来は、市場やお客様企業の状態を的確に分析し、提案することができるコンサルタントになりたいです。そして、社内外の様々な人たちに信頼されるようになり、より大きな仕事を任せてもらえるように成長し、それによって社会を更によくしていきたいと考えています。そのために、研修制度をうまく活用して勉強をし、特にこれからの時代に必ず必要になってくる英語力を身に着けるなど、就職後も自己鍛錬に励みたいと思います。(197字)

「0点ね。クズ。馬鹿。能無し。」
「そうかしら? 私は3点くらいあると思うけど。」
人の答案に好き勝手点数をつけているのは、美柑とアリス先輩だ。最近知ったことだけれど、この2人は仲が良いらしい。学部は違うけれど、同学年だから色々と繋がりがあるのだろう。厳しい性格が似ているのも、2人が友人というのであれば納得だ。
「5点満点ですか?」
「100点満点に決まってるでしょう。キャリアプランを書くだけじゃなくて、それを実現するための手段を書こうとしているところは評価できるから3点。そういう姿勢、私は好きだわ。」
「ありがとうございます。そこは俺もそうだろうなと思って意識して書きました。でも3点なんですね。」
「まぁこの内容なら0点でもいいくらいしょ。」
せっかく褒められていたところに、美柑が水を差してくる。
「書いてあるだけで3点。内容は0点って感じかしら。まぁ点数は適当に付けてるだけだから、どうでもいいわ。」
「まぁね。」
どうでもいいのであれば、無駄に人を落ち込ませないで欲しい。そう言いたいのをぐっとこらえて、アドバイスを促す。

「内容は何が悪いんですか? 就職後も勉強するっていう意欲を見せるのは大事だと思ったんですけど。」
「研修制度をうまく活用してってのは余計。志望動機の時にも話したでしょ? 企業側にメリットがあることを書けって。」
美柑はそういうが、俺が研修制度について触れたのにはちゃんと理由があるのでそれを伝えよう。
「でもさ、美柑。せっかく研修制度があるってことは、企業はそれを利用して欲しいってことだろ? 住宅手当とかと違って、社員が優秀になれば企業側にもメリットがある福利厚生だと思うし。」
「そうね。福利厚生の中では比較的企業にもメリットはあるわ。でも、企業はできれば研修しなくても優秀な社員を雇いたいのよ。だから、研修制度を積極的に使ってほしいというわけではない。少なくともエントリーシートに書くことじゃないわね。」
「そうか……。研修するのにも金はかかるってのも関係あるかな?」
企業が学生を採用するには、一人当たり約70万円の費用が掛かっていると聞いた。研修は採用後の話なのでこれとは別予算だが、おそらく俺が思っているよりも高額なのだろう。
「そう。金も手間もかかる。できれば新卒でも即戦力が欲しいのが企業の本音よ。でもそれは無理。無理なこと自体は仕方ないけど、入ってから頑張りますというのはわざわざ言うことではないわ。しかも会社のリソースを使って頑張るってのは最悪ね。」
美柑に説明され、納得する。言葉はキツイが、説明は丁寧だ。

英語力ってのもね。どうぞ勝手にやってくださいって感じよね。」
アリス先輩が会話に入ってくると、美柑が相槌を打った。
「そうね。勉強や自己鍛錬関係は基本的に全部そうだと思う。」
「うーん、じゃあどうすればいいんですかね? キャリアプランを達成するためにできることって、勉強くらいしか思いつかないんですが。」
「結論をいえば、業務をしながら力を身に着けるって方向で書くのがいいわね。ちゃんと業務を遂行するって話と、成長するっていう話の両方が満たされるから。」
「業務を覚えてできることを増やす、みたいな感じですかね。」
「うんうん。ちょっと待ってて。私が回答を書いてみるわ。」
アリス先輩がそういうと、美柑も「私も書く」と言ってパソコンに向かった。

アリス先輩の回答
誰よりも仕事で成果を残せる人間になりたいです。私は貴社の業務の中でも、特に製造業の業務効率化に興味があり、その分野の仕事をしたいと考えています。そのためには、まずは配属された部署での仕事に全力で取り組み、成果を残すことで、自分のやりたい業務を任せられる人間になることが重要だと思います。また、求められている以上の成果を出し続けることが、結果として自分の成長にもつながるのではないかと考えています。(198字)

「どうかしら? 製造業のお客様の担当になりたいというキャリアプランをちゃんと考えていますよと示しつつ、企業側としては重要な奴隷アピールをする。おまけに成長意欲も示しておけば完璧に近いと思うわ。」
まだ書き続けている美柑を横目に、アリス先輩が回答を見せてくれた。相変わらずものすごいスピードで仕上げてくる。
「奴隷アピール……?」
「企業は建前としては『積極的に提案して欲しい』とかって言うし、それも一面では正しいわ。でも、それ以前に社員としての最低条件として、言われた仕事をちゃんと正確にこなす人じゃないとダメってこと。特に新卒は夢物語を語りがちだから、現実論も混ぜているエントリーシートは印象が良いわ。」
「応用力よりも、まずは基礎力を身につけろってことですね。」
「まぁそんな感じね。どんな部署に配属されるかはわからないから、具体的に書きすぎるのも問題視されることもある。希望の部署以外に配属されたからって辞める新卒はよくいるらしいから。」
「運ですね。」
「ええ、そうね。どこに配属されるのかも運。具体的に書きすぎて問題視されるか評価されるかも運。就職ってのはまさに人事を尽くして天命を待つって感じで、最後は運なのよ。」
「あたりを引く確率を少しでも上げておく作業が、就活の準備ってことですね。」
「そうよ。最後は割り切りが必要。」

「あと、アリス先輩の回答だと『研修で勉強します』って回答よりも、即戦力になりそうだなって思われそうな気がします。実際は『頑張ります』しか言ってないようにも見えますが。」
「その通り。よく気づいたわね。でも、単に『どんな仕事でもやります』って書くよりも、なぜそれをやろうと思うのかを書いたほうが現実的にやってくれそうだなと見える。例えば、『希望の仕事を任せてもらうために頑張る』とかね。」
「この辺は言葉のマジックですかね。」
「あえて曖昧にすることで、面接での質問を想定しやすいというメリットもあるわ。例えば、私の回答だと文字数の関係で具体的な行動プランがあまりないんだけど、そうすると面接官はきっと、『求められている以上の成果を出し続ける』方法は何かと聞いてくるだろうなと予想できる。」
「その答えをあらかじめ考えておくんですね。」
「ええ。」
質問を予想するというより、面接官を誘導しているって感じですね。」
「ちょっと高度なテクニックだけど、これができると面接で詰まりにくくなるわよ。」

「さぁ、私も書けたわ。」
アリス先輩から一通りレクチャーを受けたところで、美柑が話に入ってくる。

美柑の回答
入社直後は先輩社員のお世話になることばかりだと思いますが、1年後をめどに自立して必要な業務を一通りできる能力を身に着けたいです。3年後には「これが自分の成果だ」と自信をもって社内外に発信できるようなもの、具体的には、プレスリリースできるレベルの影響力のある成果を残したいです。そして、5年後には管理職になり、個人の力で業務を行うだけでなく、チームとして成果を残せるような人間になりたいと考えています。(199字)

「アリス先輩の回答とは随分違うな。」
「別の人間が書いたんだから、違って当然でしょ。200字しかないんだから、書けることも限られてくるし。それくらいわからない?」
いちいちトゲのある言い方だが、美柑の回答には目が引かれた。特に気になったのが、5年後に管理職という部分だ。
「5年で管理職ってなれるものなのか?」
「Xコンサルティングならなれるわ。古い日系メーカーとかだと10年はかかるかもね。その辺はあらかじめ口コミサイトで企業を調べて、平均的な昇進速度よりもちょっと早いくらいを書くのがいいと思う。」
「なるほど。」
「この質問では、キャリアプランの内容自体以外に、ちゃんと計画を立てて物事に取り組むことができる人間かっていうことも問われているのよ。その点、1年後、3年後、5年後とかに刻んで書いていくとちゃんとスケジュールを建てられてるなっていう感じがするでしょう。もちろんアリスみたいに綺麗な文章が書ける人は別だけど、そうじゃないならフレームワークあったほうがやりやすいでしょ?」
「設問の時点で、『10年後の未来予想図を教えてください。』みたいなものもあるわね。」
今度は美柑の話に、アリス先輩が補足する。
「あるある。そういう場合でも、3年後や5年後にもふれた上で10年後について書くとわかりやすいと思う。」 
「そうね。いきなり10年後は未来すぎて夢物語になりすぎだから。」

「じゃあ、今日の勉強の成果をまとめると?」
美柑が意地悪そうな顔で聞いてくる。
「キャリアプランはそれに向けてどういう行動をするかまでを書くこと。その際、業務外で勉強したいというよりも業務を通して覚えたいという奴隷アピールがより有効で、更に言うと、1年後とか3年後とかマイルス―トンを決めて書くのが良い。」
「20点。」
「えっ100点じゃないのかよ。」
「それを織り込んだ文章が書けるようになって初めて100点に決まってるでしょ。知識は使わないと意味がないんだから。」
やっぱり美柑は最後まで辛口だった。

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