見出し画像

なぜ小説を読むんだろう

「落ちてるゴミは、気づいた人が捨てましょう!」

小学校低学年のころだっただろうか。
担任の先生の闊達な号令に、大きく返事をしていたおぼえがある。
子ども心をくすぐられ、先生に認められたくて頑張って拾っていた。

「ちゃんと拾ってえらいね」

そう言われると、ますますやる気が出る。
だから、どんどん落ちてるゴミに敏感になっていく。
でも、そんなことお構いなしの同級生だっている。
「めんどくさいからいいや」とかそんな感じだったんだろう。
僕みたいに床に目を落とすことなく、教室をトコトコ歩いていく。
子どもながらに、そういう子もいるんだということは認識していた。
ただ、気づいた人がやればいい、「先生に褒められること」に価値を見出せる人がやればいい、そう思っていた。


小学校中学年のとき、1回だけ算数のテストの点がわるくて呼びだされた。
呼びだされたといっても、おこられた訳じゃなくて、先生がていねいに教えてくれただけなんだけど。
(今、理系学部に通っているのは変な話だ)
正直、その単元はあまり理解できていなかった。
そして、それ以降ちょっとだけ算数に苦手意識ができた。

「もしかして自分は不出来?」

きっと、算数の点がずっと高かった人は何も思わないんだろう。
「これはこうだからこうだよ?」とスラスラ分かってきた人に良く分からない気持ちなんだと思う。
算数に限らない。
中学高校のときは、国語の問題文に沿うのが苦手だった。
「こういう問題よりも、この部分の解釈を語り合うことの方が面白そうなのに」
とかちょっと反骨した思い出がある。
きっと文脈に沿って答えることが当たり前だと思っていると、そんなことは考えなかったんだろうけど。

分数の割り算がすんなり出来た人は、その後の人生もすんなりいくらしいのよ。

「おもひでぽろぽろ」のタエ子も、こんなことを言っていた。



最近、不思議に思うことがある。
「なぜ小説を読むんだろうか」ということだ。
必ずしも現実に即してるわけじゃないけど、頭の中で構築できる世界が紡がれた小説というものを。
もっといえば、「なぜ歌詞の情景に思いをはせるんだろうか」「なぜ文章を書くんだろうか」。
そんな疑問であってもいい。
全員が全員、魅了されるわけじゃないものに、なんで僕は惹かれてるんだろうか、ということなのだ。
たぶんその理由は、一つに落ちつく。
"自分が似たようなことを考えてきたから"だ。

身の回りで起きてる納得できないこととか、違和感があることについてモヤモヤしたり、好きな人にやりきれない想いをいだいていたりした。
授業にあきたら、教室に誰かが乱入してきて、それを自分がヒーローにでもなったように身を挺して守る!という空想をはじめた。
言葉にできる想いだったり、上手く言えないものだったりするけど、やっぱたくさん考える場面があった。
きっと、そんなことを考える人は、「そんなことを考えている人の作り出す世界」に魅了されるんだろう。
自分のよりもっと洗練されて、不思議で、甘酸っぱくて、ヒステリックな世界に。

子どものとき、学生のときに考えていたあんなことやこんなこと。
きっと、そこでたまったフラストレーションみたいなものが、今、「価値観」「世界観」として現れているんだと思う。
そう考えると、算数で点数が悪かったことも、問題文の中の「筆者の考え」よりも大切なことを考えていたことは、まんざら悪い経験でもなかったみたいだ。
もし、僕が捉えていた世界が周りの人とずれていて、-100くらい損していたとしても、きっとどこかの部分が+100、あるいは1000でも10000でも伸びていたんだろう。
あるいは、三歩下がって十歩くらい進んだのだろう。
今では、小説も音楽も好きだから、あのころは「共感力」とか「想像力」に狙いを定め、深く深くせっせと耕していたのかもしれない。
やっぱり、あながち悪くない。



「ここの歌詞がすごくいいんですよ!」

前のめりに息せき切って熱弁する僕は、たまに浮いてしまう。
「へぇ~」と空返事が聞こえてくることもしばしばで、唇がちょっとだけへの字になってしまう。
そんなとき、伝わらないかぁ…と、しょげる気持ちと、この人はどんな世界を生きてきて、どんな"自分"にたどり着いたのか、とさぐりたい気持ちが出てくる。
僕とはまったく違う人生を歩んできたかもしれない。
もしかしたら、どこかですれ違っていたかもしれない。
ひょっとしたら2つに分かれた道の、もう一方を進んだのかもしれない。
そう思えば、相手の価値観にも寄り添っていけそうな気がするし、僕の唇も少しだけゆるむ………わけでもなかった。
やっぱわかってほしいこともある。笑


#エッセイ #大学生#小説#音楽#感性#価値観#文章#煩悶#教育#言葉#青春




サポートしていただけると、たいへん喜んでます。 だけど、みなさんの感想をいただけたらそれと同じくらいに喜んでます。