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11月のある日、マチネの終わりに。

平野啓一郎さんの代表作のひとつ『マチネの終わりに』。

文筆家、文化芸術プロデューサーの浦久俊彦さんの企画によって、『マチネの終わりに』をテーマにしたイベントが地元の栃木県で開催された。小説家の平野啓一郎さん、ギタリストの大萩康司さんも登壇され、平野さんによるトークと、大萩さんによるコンサートが行なわれた。

小説家と音楽家が交わるという、とても貴重な機会。まさか地元で、芸術家たちの邂逅に立ち会うことができるなんて!(自由席だったので、前から2列目のかなり近い場所で聴くことができました)

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コロナ禍でめっきりライブやコンサートに行く機会が減っていた中、久しぶり生演奏を堪能できたことがまず嬉しかった。

しかも、これまでクラシックギターは馴染みがなかった。大萩さん自身は穏やかな人柄なのに、演奏は情熱的だ。ギターを抱えるように爪弾く姿は、ギターへの愛が伝わるし、これまで何千時間、いや何万時間もギターと対峙してきた様子がイメージできた。

小説、映画のファンとしては、やはり映画のメインテーマである「幸福の硬貨」にじーんときた。それ以外にも、劇中で流れていた楽曲が演奏されていて、「ああ、これを原作ファンの中でも、限られた人たちだけが楽しめているんだなあ」と思うと、それだけで贅沢だなと感慨深くなるのだった。

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ナビゲーターを務めた浦久さんが「読者の反応って、小説の結末に影響しますか?」と平野さんに尋ねていた。『マチネの終わりに』は毎日新聞に連載されていて、物語が進むにつれて反響も多かったという中での質問だった。

平野さんの回答はこんな感じ。

・あんまり影響はしていない
・読者がどういう風に感じたかというのはわりと気にしている
・長い目で見たときに、別の作品で影響を及ぼしているかもしれない

読者は(僕の)最も近くにいる、現代を生きる人たち。マーケティングリサーチとはちょっと違うけれど、読者の反応というのは結構見ている方だと思います」と話していた。

平野さんの回答で僕が感じたのは、平野さんは読者を信頼しているということ。読者は深く自分の作品を理解してくれている。難解で複雑な小説も、何度も何度も読み返して、自分なりの解釈をしてくれるという信頼を、読者に感じているのが伝わってきた。

読者も、平野さんが素晴らしい小説を書いてくれると期待している。そういった信頼関係は一朝一夕には築けないから、長くキャリアを重ね、数多くの作品を生み出しているからこそなのだろう。

補足するが、僕は「全く読者の反応を気にしていません!」という作家がいても良いと思っている。そうした作家が、読者を信頼していないかといったら別の話だ。(逆に、読者の反応を逐一気にする作家が、読者を信頼していないというケースも時々耳にする)

信頼を寄せているから、作家は自由にクリエイティビティを追求することができる。信頼できなければ、「書く」基準はクリエイティビティには置かれない。羨ましいほどに豊かな両者の関係は、いわば、創造的な信頼関係ともいえるのではないだろうか。

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タイトルの「11月のある日」は、キューバの作曲家、ギタリストであるレオ・ブローウェルさんが作ったギター独奏曲。本イベントのアンコールで大萩さんが演奏してくれた。

ブローウェルさんと大萩さんの縁は深く、大萩さんがCDデビューのきっかけとなったのが、ブローウェルさんの「永劫の螺旋」という曲だったそう。

今まで馴染みのなかったクラシックギターの世界。早速家に戻って、Apple Musicで色々な楽曲を聴いている。そんな文化の日、束の間の祝日をのんびりと過ごせて幸せだ。

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