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偉大なマエストロの、思考を追いかけるドキュメンタリー(映画「モリコーネ 映画が恋した音楽家」を観て)

映画が好きでもハマらない。音楽が好きでもハマらない。

だけど、映画と音楽どちらも好きなら深く印象に残るだろう。映画「モリコーネ 映画が恋した音楽家」とは、そんなドキュメンタリー作品である。

映画と音楽を愛し、「音楽」という形で表現を続けてきたエンニオ・モリコーネ。モリコーネの代表作品を振り返ると、彼がいかに真剣に映画と音楽に向き合っていたかが理解できるだろう。

2020年に亡くなったモリコーネは、1960年代から実に500作品以上の映画、テレビ音楽に携わってきた。アカデミー賞の作品賞は6回ノミネートされているが、受賞したのは意外にも2016年の1度のみ(クエンティン・タランティーノの「ヘイトフル・エイト」)。

賞にまつわる出来事にも触れられているが、やはり見どころは、モリコーネという音楽家の生き様だろう。2時間40分ほどの長尺だが、長さを全く感じさせない充実度の高い内容だった。

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ブルース・スプリングスティーンや、メタリカのジェイムズ・ヘットフィールドなど、アーティストにも多大な影響を与えたモリコーネの音楽。

過密スケジュールの中で仕事をした際、マンネリを感じると、一定の評価を得ていたスタイルをガラッと変えることも厭わない。6歳からトランペット奏者の父親の英才教育を受け、12歳から音楽院へ入学し、トランペットや和声、作曲の勉強を行なっていく。若いときから、あまりに身近に多様な音楽があった分、引き出しも多かったのだろう。才能があったことは言うまでもないが、幼少期の音楽体験もモリコーネの礎を築いたに違いない。

モリコーネが映画音楽への矜持を持っていたのは、「映画監督は全てを統率する。照明、衣装、撮影、演技、フレーミング。でも音楽だけは違う」と話していたことだ。映画は総合芸術であり、映画監督はあらゆる要素において高い専門性を持つことが求められるが、音楽だけは100%コントロールできないというのだ。

「アロンサンファン 気高い兄弟」を手掛けたタヴィアーニ兄弟は、モリコーネの音楽が届いたとき、思わず膝を打ったそうだ。メロディーをふたりで口ずさむほどのお気に入り。映画監督と音楽担当に上下の差はないとはいえ、タヴィアーニ兄弟がモリコーネをリスペクトしているのは明らかだった。

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本編終了の直前、満を持して、モリコーネは音楽について語る。早口で全てを書き写すことはできなかったが、このような趣旨の発言をしていた。

音楽は書く前に熟考しなければならない。作曲家の前に白紙がある。何を書けばいいんだ。思考する。展開する。分からない

モリコーネは、生涯、五線譜が並んだ紙の上で、作曲を行なっていた。手を動かし、あらゆるメロディを作っていたのだ。彼の頭の中は、どんなスペースが踊っていたのだろう。思考の一部を垣間見たとはいえ、まだまだ理解できたとは言い難い。

その答えは、彼が残した映画音楽にあるはずだ。恥ずかしながら彼が手掛けた作品の多くは未鑑賞である。彼の軌跡を追いながら、彼がいかに偉大であるかを体感していけたらと思う。

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繰り返すが、映画と音楽どちらも好きな方なら、観て損はない作品です。この手のドキュメンタリーは、配信を待って鑑賞するのも良いですが、情報量も多いので映画館でじっくり味わうことをお薦めします。

東京では、シネスイッチ銀座でロングラン上映中です。この機会にぜひ。

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