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前に進め……るか。(Netflix配信ドラマ「MO / モー」を観て)

俳優、コメディアン、脚本家など、幅広くクリエイターとして活躍しているモー・アマーさんが主演のNetflix配信ドラマ「MO / モー」。自身も「難民コメディアン」として、アメリカの市民権を得るまで10年間パスポートを持てなかったという背景があり、半ば自叙伝的な意味合いもあるフィクションだ。

難民認定がおりず、苦しい生活を強いられるモーの家族。取り巻く環境はハードにも関わらず、明るく向こう見ずな性格の主人公・モー。思わず笑ってしまうジョークも満載で、エンターテインメントとして楽しめる作品になっている。

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「MO / モー」は1話30分、全8話で構成されたNetflix配信作品だ。

「ムーンライト」「レディ・バード」「ミッドサマー」などで知られる制作会社・A24が本作を手掛けている。

モーは子どもの頃にパレスチナから家族とともにアメリカへ亡命、現地には父親が残り暴行された上で命を落としている。

主体的でちゃきちゃきと行動し、家族の生活を支えるモー。初回では難民申請中のモーが、就労先の会社で労働許可証がないことが理由でクビになるシーンから始まる。(家族思いのモーは、なかなかその事実を家族に言い出せない)

冒頭のシーンに限らず、全編通じてモーがとことん「酷い目に遭う」というシナリオになっている。受け身で引っ込み思案な家族にじっと付き合ったかと思えば、宗派の異なるガールフレンドが母親に受け入れられずヤキモキする。友人が凶暴な悪人に殺されそうになれば助命懇願、結果的に麻薬の運び屋をさせられるという不運にも見舞われてしまう。あまりに不憫だ。

「酷い目に遭う」主人公のあれこれがスリリングで面白いというのは倫理的に矛盾を孕むものだ。それもまた映画の持つ不思議な力のひとつに違いないのだが、不憫さを吹き飛ばすほど、時に機敏に、時に大胆に、キツい状況を乗り越えていくモーのたくましさに喝采を送りたくなるのだ。

モーは、どこまでも真っ直ぐな人間だ。

凶悪な悪人の理不尽な命令に対しても、とりあえず皮肉をかまして拒否反応を示す。睨まれるとシュンとなる様子も愛らしく、「よくそんなこと言えるなあ」と興味深い。

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最終話の副題は「前に進め」。

働いていたオリーブ畑で、オリーブの木が盗まれてしまう。そのオリーブを使って、モーの母親がオリーブオイルを作ろうと張り切っていたのに……。

正義感も相まってオリーブの木を取り戻そうとするのだが──

そんな感じの「前に進もう」という意欲が前面に出たラストシーンはとても良かった。実際に前に進めるかどうかは分からないが、それでも気持ちはポジティブな方向に向かっている。

彼ら家族の難民申請が受理されるかは分からない。恋人・マリアとの将来はどうなるか。兄は再就職できるのか、そもそもモーは.……!

などなど、気になるストーリーがいくつもある。単なる成長物語とも、家族との絆の話でもない、唯一無二の「モー」という人間の物語。しばらくは目が離せそうにない。

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モー・アマーさんがコメディアンとしてスタンダップコメディに臨んでいる動画もNetflixで配信されている。

これを観ると分かるのだが、彼はラップを扱うように言葉を発していく。そのリズムはとても心地良いわけだが、フィクションの世界でも彼の軽快さは活かされたままだ。

合計で4時間弱の配信ドラマは、あっという間に視聴が終わってしまう。小気味良いリズムは、モーの会話のテンポがベースになっている。

まさに「MO / モー」は、モーを中心とした物語なのだ。

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人気が出れば続編もありそう。いずれの回も30分弱と短いので、ぜひ試しに、最初の1〜3話くらいまでを鑑賞してみてください。

(Netflixで観ました)

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