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どうか自分だけで抱えませんように

駐車場で見かけた光景は、わたしの心に深い印象を残した。

隣に駐車してある車内でお婆さんが大汗を流し、
「ヤバいわ」
わたしがスマホを取り出したところで、
荷物を抱えた息子さんが戻ってきた。

わたしはお婆さんが車内へ置き去りにされた、
なんて非常識な家族だと思った。

息子さんがドアを開けると車の警報音が響き渡った、鍵は刺さったまま。
息子さんが窓とドアを全開にした。

息子さんの顔には焦りと怒りが混じり、対照的にお婆さんは平然としていた。

どうやらお婆さんがエンジンを切った様子で、
息子さんが叱っている。
負けじとお婆さんは言い返す。

「お母ちゃんは!」と首を捻りながら勘弁してくれといった表情の息子さんに反して、
茹だっていたお婆さんはケロっとし、弁が立つ。

わたしが『モニタリング』という番組で隠し撮りされているかと思うぐらいの光景だった。

わたしは自分の荷物を積みながら大声を聞いていると、お婆さんは買い物へ行きたいと言ったが、
店に入るのは怠かったらしい。

息子さんひとりに行かせて、
お婆さんはカーエアコンをオフどころか、エンジンを切ったようだ。

本気で怒る息子さんと、
論点が合ってないお婆さん。

息子さんの言葉が泣き言に変わっていく。

万が一のとき息子さんは後悔しても、解決しない穴に落ち、周囲がどんなに慰めても心を塞ぐ言葉はない。

多分「もう買い物に連れて行かない」など、息子さんが宣言しても、お婆さんは今日のことを忘れて
「買い物へ連れて行け」
息子さんを執拗に怒り、不貞腐れるんだろうと予測した。

息子さんひとりの判断で買い物に出ても、
ネットスーパーに依頼しても、
お婆さんから「連れて行け」
シツコク言われるかもしれない。

わたしが荷物を積む間、息子さんの泣き言が聞こえてくる。
わたしまで身体中が痛くなった。

僅かな間で、高齢者は暑いを感じないことや親子の会話が噛み合わないので、ひょっとしたらお婆さんは認知症があるのかもしれないのに気づいた。

ここからは勝手なわたしの想像だが、
お婆さんは介護認定の審査を受けても高い等級にならず、息子さんがお世話をしながら暮らしているのかもしれない。

わたしは1週間分の食糧を買いに来ていた。
カートから米や飲料水を車に乗せていく間が長く
「こんなときに限って」
息子さんの泣き言がやるせない。

きっと口調や声色から、一生懸命に親の面倒を看ているんだと考えただけで気の毒に感じた。

わたしはその様子を見て他人事とは思えなかった。
父を看取った時の自分の気持ちが蘇り、息子さんの苦悩に寄り添いたくなった。

それでも現実は、介護だから静観していたと思う。
わたしの経験上、横槍ほどキツいものはない。

介護は本当に大変だ。
わたしも父の介護を通じて、多くの葛藤を経験した。息子さんのように一人で抱え込む人が、世の中にはたくさんいるだろう。

わたしが父を看取った折、自分の不甲斐なさや自分の嫌な面をいっぱい見てきたから、わたしのように苦しんでいる人がだろうなぁって。

わたしの苦労はケアマネジャーさんやディケアの職員さんが話し相手になってくれ、記憶に残らないような世間話を振ってくれたお陰でどうにか正気を保っていた。

介護は本当に大変なんだよ。

大変だったから、
介護従事者の方々や医療従事者の方々へ、
感謝が募って頭が上がらない。

わたしはプロではないので解決法は分からない。

どうか息子さんがこの問題を一人で抱え込むことなく、周囲のサポートを得られますように。

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