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育てた感受性が取って代わる

海岸線にある昭和を滲ませた定食屋で
刺し身定食を勧められて
タイやコチが短冊切りで出てきた

昔、父が釣ってきた魚と同じ食感
噛むとしっかり残る、歯応え
スーパーの刺し身とこんなところが違うのね

広島市内は、ピカソ展が大盛況
わたしは逆張りで、平山郁夫美術館に行ってきた
小中学生の平山少年の描写は、当時の生活感があり
戦中だからある、彩りを覚えた

わたしの感受性は、バカ舌になりつつある

甘さなら、きび糖でもアスパルテームでもいい
黒砂糖から漂う濃い香ばしい甘味より
身体に良いとされる人工甘味料を選択し
煮物のコクが味気なくなるんだろうな

味覚以外の五感もイージーなものを手に取るから
感受性が薄く、したたかになってくる

わたしの喜びや苦しみも、いつかは人工的な
今は「アンタに何が分かる」と反発しても
いつか、手軽に得られる共感へ妥協するのだろう

なんだろうな
なんか、イヤだな

雨上がりの夕陽を
いつか好きな人と眺めたいって願う気持ち
わたしだけを見ていてほしいとワガママ言う気持ち
全部、易しく言語化されちゃうの

空洞になった心と誰かを求める寂しさを
さも体験したように、語られちゃうの

少ないながらも、育てた感受性が取って代わる

甘さなら、なんでもいいじゃん
ああ、安易な方がいいよねって
わたしの感受性を切り捨てられるのは
「これが時代だよ」振り向いてもらえなくなるのは

家に帰ると、猫の奈々が手足を投げ出し熟睡して
奈々の身体を匂うと、ひなたの香りがする
小刻みの心音が、奈々を嗅ぐ鼻や唇に伝わってきて
生きている証拠が、わたしを安堵させる

この良さを分かってたまるか

わたしの感受性は、脈を打ちながら抗う