見出し画像

父の涙、母には言えず母想う

父がわたしの前で泣いたのは、中学2年の冬だった

CDレンタルに行こうと父から誘われ
夜のドライブは、林の中を走っていた

「いつもとルートが違う」
言うに言えない雰囲気を醸し出す父は
左手の路肩に駐車すると
ハンドルにうつ伏せ、泣いた

子どもだったわたしは、自分の悪事を頭に巡らせ
どれがバレたんだと、焦り
とりあえず沈黙を貫く選択をした

「今日の新聞、読んだ?」父が聞く
曖昧な返事をし、正面から顔を逸らさない
フロントガラスに映る父は、親指で目尻を拭い
「事故で保母(保育士)が亡くなったでしょう?
あの人、初恋の人」

あのな、オッサン
それを娘に話して、どうしたいん?

父は男子校出身で
小学校の同級生が、初恋の人
自分が初めて付き合った人らしい
ふ〜ん、良かったね

思春期真っ盛りの娘が
良からぬ想像をしない訳ない
「泣くって、そういうことか」

鼻をすすりながら、青春を語る父は乙女のようで
聞き役は、わたしじゃないとダメだったのかな
父の初恋を知ると、母へ罪悪感が湧いてきた
そんな心境だった

父にとって、初恋の相手は
一生の思い出で、消さない記憶だったのだろう

亡くなった人には申し訳ないが
「お母さんの方が綺麗じゃん」
父の話を聞きながら、母を想うのが子どもなんだな

この記事が参加している募集

#振り返りnote

84,835件