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「ネエちゃん、泣けるだけ泣け」

嗅覚が伴う記憶は、時間が経過しても
また当時を呼び起こす作用がある

わたしがうつ病になったとき、思考がぶっ飛んで
食事などの家事や身の回りを放置し
出社できずに、毎日泣きじゃくり、寝た

『1リットルの涙』は、流したかもしれない

お風呂もどうでも良かった
とりあえずシャワーを浴びた形で
週1回、精神科に通う顔は素っぴんの引っ詰め髪

診察が終わるときは、スーパーが混む時間帯
水やお惣菜を買うのに店内へ入ると
人混みで、けいれんに襲われた
指先が冷たくなり手足に痺れがくる、胸が痛い

屈むわたしを抱えるように
外へ出してくれた人がいた

過呼吸より、涙が止まらず店外で泣き狂った
ぺちゃんこになるように座り、声を上げて泣いた
横からは、ティッシュペーパーが差し出される

「ティッシュは沢山あるから泣いていい」
その人もいつの間にか、かがみ込んで言った

「ネエちゃん、泣けるだけ泣け」

時間的には不明だが、落ち着いた頃
よく見ると
見た目が反社か半グレか、如何にもヤバいお兄さん
それでも、わたしには天使か神さまに見えた

お兄さんはずっとわたしに付き添い
大量のポケットティッシュを
1枚ずつ広げて渡してくれていた

「1人で帰れるか?」
タクシーを停め、お金を握らせ帰してくれた
わたしはお兄さんから連絡先を聞かぬまま
礼だけ言って、タクシーに乗り込んだ

概要しか記憶にないので、ざっくりとしか書けない

見ず知らずの人間に優しくできるのは
お兄さんも辛い経験をしていたのだろう
お兄さんなら、誰彼構わず手を差し伸べる
そんな気がする

わたしに同じことができるか
まだ遭遇してない場面で、咄嗟に何ができるか
知らない人の異変に気づく洞察力があるか

引き出しを開けるとする、ラベンダーの匂いは
お兄さんの香りを思い出す

戴いたご恩を忘れないよう
戴いたご恩を誰かに施せるように
わたしに不足する優しさをお兄さんはくれたと思う