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著…ジェフリー・ムーサス『「縁側」の思想 アメリカ人建築家の京町家への挑戦』

 レトロ建築への愛が伝わってくる本。

 以下は、特にわたしにとって印象的だったエピソードです。

 建築家である著者が日本の古い建築に携わった時。

 日本の施工業者たちは「取り壊して建て直すのが現実的だ」と言ったけれど、著者は可能な限り元の状態を保存しようとし、成し遂げたそう。

 すべての土壁を完全に新しく塗り直した方が良いと言う塗り師に、著者は「もとの特色を保ったまま塗り直すことができるなら、ぜひとも!」と言ったそう。

 これらのエピソードから、持ち主にとって思い出のある建築をその思い出を失わぬよう保ちたい…という著者の思いを感じます。

 施工業者の言い分も分かることは分かります。

 古いものに新しいものを合わせると変になってしまうので、そうしない為には古い建築に合うように出来るだけ近い年代の建築材料を探さねばならず、そんな手間をかけるよりは新しい建築材料を使おう…と考えるのが普通でしょう。

 しかし、もしもわたしが愛着ある建築の補修を業者に仕事を依頼をして、「もうだめですね。全部新しくしましょう」と言われたらガッカリすると思います。

 勿論その時の金銭事情にもよりますが、全部新しくした方が安く上がる場合でも、高くなってしまっても出来るだけ元の状態を保ってくれる業者を選びたいのが本音です。

 この本のP213の蔵の仕上がりを見ると、「新しく建てるのが最も素晴らしい」とは断言出来なくなります。

 また、P81には、せっかく生まれた技術や文化が途切れてしまった例が紹介されています。

 その例とは、ローマのパンテオンドーム。

 ローマ帝国は現代のコンクリートより強度があったといわれるコンクリート(いわゆる古代コンクリート)を使って建築していたけれど、ローマ帝国が滅亡した後1300年間、このコンクリート技術は姿を消したそうなのです。

 古いものを安易に「新しくすればいい」と取り壊したり(幸いなことに、パンテオンドームは途中でキリスト教の聖堂になったおかげで破壊を免れていますが)、「古いものは現代には不要」と技術や文化の継承がなされず途切れてしまうのは…何か大事なものを失くすことに繋がるように思えてなりません。


 〈こういう方におすすめ〉
 古い建物を出来るだけそのままの姿で残したい、という価値観をお持ちの方。

 〈読書所要時間の目安〉
 2時間半〜3時間くらい。

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