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著…奥田英朗『向田理髪店』

 人口が減少する一方の北海道苫沢町の住民たちが悩みながらも町おこしに尽力する…という短編小説集。

 過疎という厳しい現実に直面しながらも、どこかほのぼのとした読み応え。

 ハラハラドキドキや、お涙頂戴はありません。

 穏やかな気分で「そうだよなあ」と共感しながら読める小説をお探しの方におすすめです。

 主人公は向田康彦という男性。
 53歳。
 職業は理容師。

 表題作『向田理髪店』では、康彦の息子が「店を継ぐ。店を建て増ししてカフェを造って新しい客を取り込む」と札幌の会社を辞めて帰って来たので、康彦は嬉しい反面、息子の将来を心配します。

 『祭りのあと』では、近所のおじいさんが倒れて入院したため、康彦を含めた住民みんなで家族や自分自身の入院治療、施設入所、家族との同居といったことについて考えます。

 『中国からの花嫁』では、農家を営む男性が中国人女性と結婚したことで、町全体がざわつきます。
 みんなが噂話をするし、男性が奥さんを隠すかのように暮らしていて祝言をあげることもしないし、で非常にモヤモヤする展開に。
 でも奥さんが「日本のウェディングドレスを着たい」と話に乗ってくれます。

 『小さなスナック』では、町に新しいスナックがオープン。
 町の男性陣が、お酒にもママさんの色香にも酔っちゃいます。
 康彦も思わずキュン。
 みんなでスナックに通い詰め、ママを巡って喧嘩が勃発!

 『赤い雪』では、映画のロケ隊が町に来ることに。
 憧れの女優さんが来るものだから、「冬に桜が咲くようなものだべ」と住民は色めき立ち、みんなで映画にエキストラとして出演することに。

 『逃亡者』では、町出身の若者が詐欺グループの主犯格として全国指名手配され、マスコミの取材合戦やら警察の家宅捜査やらで大騒ぎ…。

 康彦の息子が言う、

 「昔は何かあるとつまはじきだったそうだけど、これからの小さな町はちがうべ。みんなが仲良く暮らせる偏見のない町作りだべ」
(単行本版P252から引用)

 という言葉に、町の未来の明るさを感じます。

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