著…島田雅彦『暗黒寓話集』
短編『アイアン・ファミリー』『死都東京』『夢眠谷の秘密』『透明人間の夢』『名誉死民』『南武すたいる』『神の見えざる手』『CAの受難』を収録した短編小説集。
毒のある棘のように心に刺さるストーリー。
※注意
以下の文は、結末までは明かしませんが、ネタバレを含みます。
『アイアン・ファミリー』は、なんと一代目の先祖(時を遡ること紀元前!)から現在に至るまでのご先祖様たちの系譜を語り継いでいる一族の話。
なんと主人公は八十八代目!
口伝によって代々伝えられてきたご先祖様たちの歴史には共通して鉄が登場する…というのが興味深いです。
その時代に戦争が起きたかどうかなどによって、鉄との関わり方が全く違ってくる…。
なんとも皮肉な話です。
『死都東京』は臨死体験をする話。
主人公は気がついたら死後の世界の東京にいます。
死者はそれぞれ、自分が理想とする「一番良かった頃の東京」に帰れます。
黄泉の世界ではしっかりと区役所が機能しており、会いたい死者がいれば区役所の窓口で調べてもらい、相手がどの時代の東京に定住を決めたのかを知ることが出来ます。
わたしは特に、
という文を気に入りました。
こう聞くと、早く眠りたくなりますよね。
そうしたら、夢の中でしか会えない人と会えるかも…。
『夢眠谷の秘密』は殺人事件や自殺や死体遺棄事件が起こるいわくつきの土地の話。
この話を読んでいると、小野不由美さんの小説『残穢』を読みたくてたまらなくなります。
『透明人間の夢』は、貧乏で無職で住む家もないカップルの話。
透明人間になりたい、透明なら食い逃げも覗きも窃盗もできるし、見えないから誰にも罰しようがない…としょうもないことを神社で祈るこの彼氏に、彼女もわたしも呆れました。
『名誉死民』は、酒に酔って線路に落ちた主人公を見知らぬ若者が命がけで助けてくれて、結果的に主人公だけが生き残った話。
若者の周囲の人間からすれば、若者の方に生きていて欲しかったというのが本音。
お前が死ねば良かったのに、という刺々しい視線を主人公は浴びることになります。
『南武すたいる』は、鉄道の路線を擬人化したら、きっと南武線はギャンブラーだ、沿線には競馬場も競輪場も競艇場もあるし、という話。
『神の見えざる手』は、人は神社を参拝してお願いごとをするが、それは本当に心からの願いなのか? という話。
『CAの受難』は、国際線の飛行機で機長がおかしくなり、客室乗務員たちは懸命に対応したけれど飛行機は海面に着水。
日本人CAが一人、乗客の韓国人男性が一人、乗客の中国人男性一人の計三人で海上を漂う…という話。
映画『ファイナル・ディスティネーション』シリーズを彷彿とさせるラストにぞっとしました。
恐怖はこれからなのですね。
〈こういう方におすすめ〉
ざらついたように嫌な感じのする小説を読みたい方。
〈読書所要時間の目安〉
2時間半〜3時間くらい。
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