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有意義な夏を過ごしたことがありますか?『四畳半タイムマシンブルース』読了

森見登美彦さんの『四畳半タイムマシンブルース』を読んで

30歳までに本を100冊読もうキャンペーン

↑誕生日前後に「本読もう!」とインスピレーションが来たので始めた、私による私のためだけの企画。

まぁ、2年で100冊なので、読書好きの方からすれば大したことはない量でしょうが、ほぼ雑誌しか読まないわたしにとっては大チャレンジなのです。

読んだ本の感想をUPしていきます。
※全ての本の感想を公開するわけではありません。

7冊目:四畳半タイムマシンブルース 著・森見登美彦

いまだかつて、有意義な夏を過ごしたことがあったでしょうか?
そもそも「有意義な夏」の定義は何でしょう?
思えば、もう一度経験したい夏や、記憶の中に閉じ込めておきたいような夏は、経験したことがないかもしれません。まぁそもそも暑いのは得意じゃないしね。

『四畳半サマータイムマシンブルース』は、私の大好物であるドタバタコメディ作品で、タイトルにもある通り、タイムマシンが出てくるお話です。そして、有意義な夏を過ごしたことがないという主人公が、有意義な夏を作り上げるべくタイムトラベルをします。が、しかし、タイムマシンに乗り込み向かう先は昨日。
これまでに世に出された数々のタイムトラベルものの作品と比べると、これは決して壮大なトラベルではないでしょう。

「普通、タイムトラベルものって数年後とか、数十年前に行ったりするんじゃないのぉ?プロ○ーズ大作戦みたいにさぁ〜。スケール小さくね???」

と思われるかもしれません。しかし話の展開はどこまでも壮大。これはぜひ読んでみて欲しい(あまりネタバレしたくないから、ここまでにしておくね)。
この本の登場人物たちとタイムトラベルをしているうち、私はあっという間に、この作品に描かれている最後の日、8/12の夕方にたどり着いてしまいました。
瞬く間に過ぎてしまったサマータイムを後に「もう一度頭から!」と、そこに描かれている夏の数日を反復したくなりました。
そこには繰り返したくなる夏がありました。

森見登美彦さんの作品を初めて読んだのは、確か高校生の頃、作品は『夜は短し歩けよ乙女』だったと記憶しています(ただ、この記憶が正しいものかどうかは誰もわかりません。タイムマシンを使えばわかるのだろうけれど、宇宙を崩壊させたくはないのでやめておきましょう)。
それから『恋文の技術』(こっちの方が先に読んだきもするナ)『美女と竹林』『新釈 走れメロス』など、学校の図書館にある限りの森見作品を読み漁り、誰かとこの面白さを共有したくて母に読むことを強要しました。
日常感と非日常感のバランスと、溢れるユーモアが、私が森見さんの作品の虜になる要因でしょう。理系のお兄さんの体験談なのか、机上の妄想なのか線引きが難しいクスッと笑える話を聞いているみたいで、本当にオモチロイのです。

森見さんの描く大学生の日常は、しょ〜もないことに本当に一生懸命で「この阿呆ww」と言ってしまうことも多いのだけれど愛しく、ファンタジーで現実味はないけれど手に届きそうな場所にその日常があるように感じます。もしかしたら、その日々は私の記憶の中にあるのかもしれない。
高校生の私には「こんな大学生活を送りたい」という憧れの日々で、社会人になった私には「どこか懐かしい」けれど「こんな大学生活を送りたかったな」と少し羨ましく思う日々と言えるでしょう。

我ながら、大学生の時は貴重な大学生活を溝に捨てるような割と行動を多くしましたが、森見作品の主人公たちほどは不毛な時間ではなかったし、お友達もまともな人が多かった気がします(当社比)。
しかし、不毛であればあるほど、阿呆であればあるほどその過去は愛おしく、そして誰かが「こんな時間を過ごしてみたい」と思ってしまうもののような気がしないでもありません。

時間を巻き戻すことができないのは皆さんもご存知のことですが、この本を読んでたとえタイムマシンを使っても取り返すことのできないものがあると知りました。
もっと不毛な大学生活を送ればよかったにしても、もっと学業に勤しんでおけばよかったにしても、もう取り戻すことはできません。その時間は、私の人生というシナリオにすでに書かれていたのでしょう。計画されていたのであれば仕方あるまい。
それならば今、ポンコツな文章だとしても作りたいものを作り、気になる人をお出かけに誘い、流れに身を任せながらも力の限りオモチロく生きていたいものです。

そんな黒歴史大学生活の中で、私は数人の人を好きになったと記憶しています。
ではここであえて、私がかつて好意を抱きがちだった異性のタイプをぶっ込みましょう。
昔、私が好意を抱きがちな方は細身でメガネを付けた、ギャグなどではなく会話の妙で笑いを産む、いかにも理系そうな方が多かったのですが、森見さんの作品に出てくる登場人物たちは、まさにそのようなタイプが多い。
彼らの発言は一癖も二癖もあり、どうでもいいことを言葉のチョイス1つで最高に面白いエピソードに変えてくれる。女性に対して臆病な部分もあるけれど、とても優しい。
そして、強く私の心をきゅんとさせます。
これもまた、私が森見ワールドに引かれる一因かな。
あぁ、私はぜひ、森見さんの作品に出てくる黒髪の乙女たちになりたいのです!

『四畳半タイムマシンブルース』はタイムトラベルをするだけのお話ではなく、恋のお話でもあります。
この物語の締め方には大きく心を締め付けられ、裏表紙を閉じた後、なんだかそっと本を抱きしめました。もう、きゅん……と心の音まで聞こえた気がします。

さて、今は、2022年6月梅雨の少し前。
今年の夏は有意義なものになるでしょうか?
願わくばこの夏、私は語るに値しない恋をしたい。


語るに値しない恋とはどんな恋か。
その答えは『四畳半タイムマシンブルース』に書いてあります。

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