![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/145841034/rectangle_large_type_2_e6c872e8a34a84903ee52419f6202943.jpeg?width=1200)
人間椅子
物語の設定は知られているけれど、案外読まれていないな、と思える作品がある。
こういう作品は、大抵設定が強烈すぎて、だいたい内容はこんな感じだろう、と想像もしやすい。会話中に作品の話題が出れば、この強烈な設定を口にしさえすれば、実際に読んだかを疑われることもない。
*
上記に当てはまる作品として、私が真っ先に思い浮かべるのは、江戸川乱歩の「人間椅子」だ。
まずタイトル。この漢字四文字だけから、設定を言い当てられる人もいるだろう。
一人の椅子職人が、妄想と欲望の末に、自ら椅子の内側に入り込み、一体化することを決意する。ーー実際の設定はこんな感じである。
もし友人との会話の中で「人間椅子」の話題が出たとすれば、おそらく誰かが以上のような設定を口にするに違いない。
……さて、面白いのはここからである。
椅子職人が椅子の中に……から進んで、さらに細かい設定の話になると、どうなるか。
個人的経験では、ここでぽつぽつと「実は人間椅子読んでないんよ」という告白タイムが始まる。こちらから問い詰めたりしていないのにである。
「美しい閨秀作家としての彼女は、此の頃では、外務省書記官である夫君の影を薄く思わせるほども、有名になっていた。彼女の所へは、毎日のように未知の崇拝者たちからの手紙が、幾通となくやって来た。
今朝とても、彼女は書斎の机の前に坐ると、仕事にとりかかる前に、先ず、それらの未知の人々からの手紙に、目を通さねばならなかった。
それは何れも、極りきったように、つまらぬ文句のものばかりであったが、彼女は、女のやさしい心遣いから、どのような手紙であろうとも、自分にあてられたものは、ともかくも、一と通りは読んで見ることにしていた。」
(江戸川乱歩『人間椅子 他九編』春陽堂書店、P6)
椅子職人が自身の所業を告白する。それは、ある女性作家に送られた原稿紙上で行われるわけだが、これは「人間椅子」という作品を味わい尽くす上で、大変重要な設定となっている。何せ、この作品のオチと大きく関わってくるだ。
ここまで読んでくださった方の中には、おそらく「人間椅子」をまだ読めていない、という人は少ないと思う。……もし、未読の方がいらっしゃれば、速やかに一読されることを勧めたい。
※※サポートのお願い※※
noteでは「クリエイターサポート機能」といって、100円・500円・自由金額の中から一つを選択して、投稿者を支援できるサービスがあります。「本ノ猪」をもし応援してくださる方がいれば、100円からでもご支援頂けると大変ありがたいです。
ご協力のほど、よろしくお願いいたします。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?