お礼
先日、友人の誕生日を祝うために、彼の自宅を訪問した。
祝いの品には、本を持参する。以前、私の誕生日に、彼が本を贈ってくれたことがあり、「本のお礼は、本でしよう」と決めた。
読書好きの友人に本を贈るのは、それなりに難しい。関心を持ちそうなものであると同時に、未読の本を選ばなければならない。
彼は生粋の酒呑みである。であるから、酒を飲みながら、ゆったり読める本を選ぶことにした。
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友人宅に到着すると、さっそく机上に酒とつまみが置かれる。ベルギー産の発泡酒と熟成サラミだ。「出てくるのはやいな」とつっこむと、「もう何本か飲んでる」と台所の方を指差す。そこにはすでに、空になった缶が並んでいた。すでに仕上がっているようだ。
本をプレゼントすると事前に伝えていたこともあり、楽しみにしてたとニコニコする友人。
人から本を贈られるのは、今回が人生で二度目らしい。一度目は中学時代、生徒指導室でお世話になっていた国語教師から受け取ったという。
素敵なエピソードが聴けると続きを待っていたら、何の本を貰ったか覚えていない、とのこと。この調子だと、今から贈る本のことも忘れるんだろうなあと、少し溜息が出た。
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贈る本は、オマル・ハイヤームの『トゥーサン版 ルバイヤート』である。岩波文庫版が有名だが、今回は高遠弘美による新訳を選んだ。
なぜこの本をチョイスしたかは、中身を見れば分かるよ。そう言い、友人にページを捲るよう促す。パラパラと読み進める友人。彼のニコニコが、さらに濃度を増していくのが分かる。
友人は嬉しそうに、上記の文章を読み上げる。「こいつに合いそう」と缶を手に取り、グビリ。「やっぱり、旨い」と唸った。
別の一節を読み上げて、再びグビリ。「新訳でありながら、歴史的仮名遣い。これがまたいい」とご満悦である。
どうやら友人は『ルバイヤート』自体を読んだことがなかったらしく、勝手に「面白くないだろう」と決めつけていたようだ。
「酒飲むたびに、読ませてもらいます」と何度も頭を下げる友人に対し、「この本を贈ったことは、忘れないでね」と強く念押しした。
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