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おみくじ

 さて、年の瀬である。
 この時期は、どこに足を運んでも、落ち着かない人々で溢れている。その顔には、新たにやってくる一年に期待する、恍惚の表情が浮かぶ。
 この喧騒に身を浸すのも悪くないが、一方で、落ち着きも欲しい。そういうとき、読書が私に安寧の時間を与えてくれる。

 来年に活かせる本を読もう。年末になると、そういうことを考えがちで、12月上旬ぐらいから、年末年始に読みたい本をセレクトし始める。よってすでに、年末に手に取る本は決まっていた。

平野多恵『おみくじの歴史』(吉川弘文館)

 選書理由は、年が明けたら早々に実践することになるだろう、という一点だ。隣でおみくじを開く友人に対し、「実はね、おみくじってのは……」と蘊蓄をたれるつもりはないが、少し歴史を知っておくだけでも、おみくじを引く行為を面白がれるのではないか、と思った。
 あと、子どもの頃、祖父母に連れられて訪れた神社にて、くじを二回引いたところ、凶と大吉が出たことがある。子どもながらに「これは……してよかったのかな」と不安になった。この点についても、書いてあるのなら知りたい。

「おみくじには「願望」「病」「失物」「縁談」「商売」「転居」等々、さまざまな項目がある。これらすべてを見て、当たっている、当たっていないなどという人もいるが、これはおみくじ本来の引き方からすると間違った見方である。おみくじは自分の悩みや願いを一つに絞り、それに対する神仏のアドバイスを得るためのものだからだ。
 項目の意味も誤解されがちである。その代表が「待ち人」だ。「待ち人」というと白馬の王子様のような運命の人を想起する人が多いようだが、実際には「来るのを待たれている人」という意味である。」
平野多恵『おみくじの歴史』吉川弘文館、P12〜13)

 本書前半から、すごいことが書いてある。今まで一緒にくじを引いてきた親類・友人の中に、この正しい見方をしていた人は一人もいなかったと思う。いれば、くじを開いたときの言動から分かるはずだ。私も当然のように、「これは当たってるかな」と口にしていた。この情報、年始に間違いなく披露することになるだろう。

 おみくじの引く回数についても、本書には詳しい記述がある。
 室町時代の成立とされる狂言「鬮罪人(くじざいにん)」の例などを取り上げ、基本的におみくじは引き直さない、つまり引いていいのは一度だけ、と解説している。
 一方、江戸時代の小咄集や随筆を紐解くと、くじは三度引いてこそ神の真意が分かるとする「三度鬮」の例や、自分の決断と合致するまでおみくじを引き続けた例など、目的や状況にあわせて、おみくじの引き方にもバリエーションがあることも分かる。
 この話、おみくじを二度引いて不安になっていた幼い私に、教えてあげたかった。



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