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朝ドラ『らんまん』で、華道家にとって印象的だった花|花の道しるべ from 京都

花にまつわる文化・伝統芸能などを未生流笹岡・華道家元の笹岡隆甫さんがひもとく連載コラム『花の道しるべ from 京都』。第27回は、秋の花、菊です。先週最終回を迎えた『らんまん』で、印象的だった花・ノジギクを取り寄せたという笹岡さん。「日本植物学者の父」といわれる牧野富太郎をモデルにした主人公・まき万太郎の台詞から、ある言葉を思い出したと言います。

文化庁の京都移転を花で彩る

この秋、文化庁京都移転を記念した事業が、京都府内各地で開催されている。9月8日・9日には、ロームシアター京都で、Opening Celebraton「きょう ハレの日、」が開催され、京都いけばな協会が作品協力をした。9月9日は重陽の節句。その吉日にちなんで、私はぎょうしき*(木火土金水=青赤黄白黒)を意識し、菊の花をいけた。

*中国の陰陽五行説に基づく5色の色

9月23日・24日には、京都市役所本庁舎で、茶道部の大学生・短大生による「御池茶会」が開かれた。3年間、コロナで茶会が開催できなかった学生たちにとって、貴重な機会になったようだ。しかし、庁舎内という性質上、露地*はなく、KYOTO Sustainable Network*が露地代わりの空間演出を担当することになった。1階では池坊いけのぼう専好せんこうさんが、4階では私が、それぞれ、三木みきひょうえつさんの漆工芸と諏訪すわざんさんの青磁器を用いて、いけばな作品をいけあげた。

*露地=家と家の間の細長い道、茶の湯における庭
*KYOTO Sustainable Network=文化人によるネットワーク

青磁器の器にいけられた作品と、漆工芸

私は、力強いアカマツの枝を立ち上げ、その下にナツハゼの枝を添えた。さらに、三木さんの漆に映りこむようにウメモドキの実を伸ばし、その上に枝ぶりのおもしろいカンレンボクを合わせる。花ものは、ここでも菊が主役。色とりどりの菊を合わせいけ、妖艶なヤマシャクヤクの実、毒があるのに美しい薄紫のトリカブトも加えた。小ぶりの器には、紅い葉が美しいベニマンサクに、愛らしいカワラナデシコを添えた。秋は花材が豊富で、いけていてとても楽しい。ついあれもこれもと花数が増えてしまうのも、この季節ならではの醍醐味。

『らんまん』で印象に残ったノジギク

話は変わるが、NHK大阪放送局に「ぐるっと関西おひるまえ」という長寿番組がある。生放送で地域の情報を届ける情報バラエティで、私は2007~2012年まで1~2ヶ月に1度の頻度で、いけばなのコーナーを担当していた。少し間を開けて、2020年から再び担当しており、カップ&ソーサー、マグカップやビアグラスなどの食器、いただきもののお菓子の空き箱や籠など、自宅にある器を使って気軽に実践できる、小ぶりのいけばなを紹介している。先月の放送では、菊の話題を届けた。

番組内では、小ぶりの菊を使ったいけかたをご紹介したのだが、その際に合わせて紹介したのが「ノジギク」。連続テレビ小説「らんまん」で、様々な菊を持ち寄って競う「菊くらべ」のシーンで登場したのを覚えておられるだろうか。浜辺なみさん演じる寿恵子すえこが持参したのがノジギクだ。牧野富太郎博士(役名はまき万太郎)が発見して命名した日本の在来種。菊の原種の一つでもある。花をつけるのは10月後半以降なので、今回は葉をつけた状態での紹介となった。

ノジギクの花

この「菊くらべ」のシーンで、神木隆之介さん演じる主人公の万太郎が語った言葉が耳に残っている。「みんなに花を愛でる思いがあったら、人の世に争いは起こらんき」。この言葉を聴いて、20年ほど前に、何かで読んだ坂本龍一さんの言葉を思い出した。「戦場で敵同士が撃ち合っている時、ふと聞こえてきた歌やメロディーに銃を下ろすという音楽がまだあり得るんじゃないか*」。当時、「それは花にも当てはまるのでは、いつかそんな花をいけてみたい」と夢想したことを思い出した。

人間は、何のために花をいけるのか。戦地に一輪のノジギクを。

*編集部注=2002年1月7日朝日新聞、坂本龍一氏と詩人のおさひろし氏による対談記事より。2001年9月11日、米国同時多発テロの時にニューヨークに住んでいた坂本龍一氏がその日を振り返って語った。

文・写真=笹岡隆甫

笹岡隆甫(ささおか・りゅうほ)
華道「未生流笹岡」家元。京都ノートルダム女子大学客員教授。大正大学 客員教授。1974年京都生まれ。京都大学工学部建築学科卒、同大学院修士課程修了。2011年11月、「未生流笹岡」三代家元継承。舞台芸術としてのいけばなの可能性を追求し、2016年にはG7伊勢志摩サミットの会場装花を担当。近著に『いけばな』(新潮新書)。
●未生流笹岡HP:http://www.kadou.net/
Instagram:ryuho.sasaoka
Twitter:@ryuho_sasaoka

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