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『君たちはどの主義で生きるか ~バカバカしい例え話でめぐる世の中の主義・思想』の刊行に寄せて|さくら剛(作家)

人気作家のさくらつよしさんが、世の中の「主義・思想」をユーモアたっぷりにわかりやすくご紹介する話題の新刊君たちはどの主義で生きるか ~バカバカしい例え話でめぐる世の中の主義・思想(2023年12月26日発売、ウェッジ刊)より、その内容を特別に抜粋してお届けします!

君たちはどの主義で生きるか
2023年12月26日発売(ウェッジ)

最近のゲームって……、超ムズくないですか?

はっきり言って、バイオハザードとかファイナルファンタジーとかウマ娘とか、新作を自力だけでクリアするのはほぼ無理です。

マニアの方は違うのでしょうが、一般ゲーマーは情報なしではあっさり取り残される難易度。攻略本を見なければどんな分岐があるかもわからないし、ましてベストエンディングなんて到底辿り着けません。

実は、人生も最近、そうなっているんです。人生も、攻略本がないとすぐに道を見失う時代なんですよ。今って。

もはや令和時代の人生というのは、一般人が自力で攻略できる難易度ではありません。僕たちはどう生きればいいのだろう? と未来に目を凝らしても、まるで地図もなしに真っ暗なダンジョンに放り込まれたかのように、視界は闇に覆われています。

西暦2020年代の人生は、攻略本がなければどんな分岐があるのかもわからないし、ベストエンディングなんて夢のまた夢なんです。

例えば昭和の経済成長期人生ならば、
1.一流大学から大企業に就職ルート
  →ハッピーエンディング 
2.身内のコネで地元企業に就職ルート
  →ハッピーエンディング
3.そこそこのお相手見つけて結婚ルート
  →ハッピーエンディング
のような、わかりやすい攻略ルートが用意されていました。

ところが令和以降の日本では、それらの「昭和の攻略ルート」を頼りに進んでも、途中でいきなりバグってフリーズ、バッドエンドのゲームオーバーとなるケースが多発です。

21世紀の人生ゲームは、ハードモードしか選べません。良い仕事に就けても少子で高齢化を支えるため給料の半分は没収され、それでも健気に頑張っていたらAIにポジションを奪われ、挙げ句の果てに変な感染症が流行って会社ごとなくなり……(涙)。

今や決して少なくない人々が心身のステータスを崩し、人生の攻略を放棄せざるを得なくなっています。中には自暴自棄で「無敵の人」にクラスチェンジし、凶悪犯罪に走って他人の人生ゲームまで強制終了させようとする者も出る始末。

このような歴史上最難関とも言えるハードモード……いやアルティメットモードの人生を、私たちはどう生きていけばいいのでしょうか? 人生というダンジョンに地図もなく放り出された我々は、いったいどんな信念を持ち、どのような価値に向かって歩を進めれば良いのでしょうか?

実は、この荒野のダンジョンにおいて、攻略本代わりに道を照らしてくれる……、かもしれない、かすかな光があるんです。

それが、哲学者・思想家たちの残した主義・思想です。

2000年以上も前から、世界の賢人たちは「人間はどのように生きるべきか」「我々がもっとも優先すべき価値とはなにか」etc.という人生ゲームの攻略法をコツコツと築き上げて来ました。

時代は大きく変わっても、人の悩みの本質はたいして変わらないものです。生き方や生きる理由や理想の幸せや社会の作り方……、私たちがいま頭を悩ませていることに、偉人たちは我々より何百年も早く、そして長く悩んで来たのです。その彼らが到達した思想・主義を学べば、私たちが迷い込んだ迷宮にも光が灯されるかもしれません。

ただ、偉人や賢人の思想を学ぶにあたり、ひとつ大きなハードルがあります。

それは、哲学者や思想家の使う表現が難しすぎて、なみの人間では理解ができないということ。

私も人生ダンジョンで迷いながら主義&思想を学ぶ人間の一人ですが、賢人の本を読んでみると、彼らの書く文章がとにかく難しい。悟性概念ごせいがいねんやら肯定態こうていたいやら自体存在じたいそんざいやら綜合的統一そうごうてきとういつやらア・プリオリやら環境世界の道具的存在者どうぐてきそんざいしゃやら、日本語訳を読んでいるはずなのにラテン語の原著を読むのとまったく難易度が変わらないという、非常に腹立たし……いやエレガントな表現の数々。

私は思いました。

せっかくの攻略本がこれではもったいないと。ハードなゲームを攻略するために攻略本を手に入れたら、攻略本を解読することがゲーム自体よりハードモードだというこの状態をなんとかしたい。ゲームを攻略する前に攻略本の攻略から始めなければいけないこの不合理な現状を……。

その思いが、私がこの本を書く動機となったのです。

素晴らしいことが書いてあるのに解読が難しすぎる攻略本を、なんとか令和の人生ゲーマーたちにも届けたい。ハードな荒野で立ち往生している現代人たちに、地図のカケラだけでも届けたい。

私は賢人たちのお堅い攻略本を現代風に解体し、令和の人々にも伝わるような書き換えにトライしました。そしたら行きすぎて非常に品性に欠ける、バカバカしい例えがいっぱいの原稿になりました。かなり解体のさじ加減を間違えましたが、まあその加減を間違えるのが私の通常営業なのでいいのです。私がもし加減を間違えずに落ち着いた本を書いたら、出版社から書き直しを命じられることでしょう(泣)。

というわけでこの本では、過去の偉人たちが確立した主義・思想を22章にわたって紹介しています。

もしかしたら22+αの思想のうちどれかひとつが、あなたのハードな人生を攻略する手助けになるかもしれません。なるかもしれないし、ならないかもしれない。

でもならなかったとしても、アルティメットモードの人生をハードモードに、ハードモードの人生はノーマルモードに、ちょっとだけ難易度を下げてくれることはあるかもしれません。あるいは「自分がこれを選んじまったらゲームオーバーや! この思想は絶対に採用しねえぞ‼」という教訓くらいは得られるかもしれない。

自分にはどの主義が合っているのか? 自分が選ぶべきはどれで、選んではいけないものはどれか? みなさんそれぞれでご自身の最適解を探しながら、本書を読み進めていただければと思います。

文=さくら剛

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<本書の目次>

まえがき


Chapter 1 道徳
正しさについてどう考えるか


第1章 相対主義
新選組も女子レスラーも陽気なインド人も……、人間は万物の尺度である。

第2章 功利主義
ゾンビを入れるとどうなるの? 最大多数の最大幸福。

第3章 人格主義(カント主義)
「いかなる時も絶対にウソをつくな」というカントの教え、現実には実行不可能説。

第4章 利己主義
ここだけの話、ガンジーだってマザーテレサだって、利己主義の支配からは逃れられないのです。

第5章 利他主義
「4月生まれは3月生まれよりも成功しやすい」という残酷な法則と、利他主義こそが究極の利己主義である理由。


Chapter 2 組織
身勝手な集団をどうまとめるか


第6章 社会主義①
資本主義サーキットで危険運転をする若手起業家ドライバーを例に、平等な社会について考えてみましょう。

第7章 社会主義②
選抜総選挙からセンター争いまで……過酷な競争で苦しむAKB48に、ためしに社会主義を適用してみましょう。

第8章 資本主義
ショッカーが「打倒・仮面ライダー」の悲願を果たすためには、資本主義と社会主義のどちらが良い?

第9章 自由主義(リベラリズムとリバタリアニズム)
親ガチャも子ガチャも運次第。もしもあなたが大谷家に赤ん坊の翔平君として生まれていたら……

第10章 民主主義
「民主主義は最悪の政治システムだ」ってチャーチルさんが言ってましたけど……。それな。

第11章 ポピュリズム(大衆迎合主義)
「ラーメンの鬼」佐野実さんの評価は、ラーメンの味でするべきだ! 佐野さんの怖さでするべきじゃない!


Chapter 3 認識
曖昧な現実をどう捉えるか


第12章 合理主義と経験主義
目の前に突然大好物の麻婆豆腐がボヨヨンと降ってきたら、あなたは食べますか? 食べませんか?

第13章 スピリチュアリズム、オカルティズム
高杉晋作はあの世でも戦い続けるし、日本は再魔術化しているし。

第14章 愛国主義
北朝鮮に行き、現地の人々に「愛国心対決」を挑んだ私! 見事に、大敗いたしました!

第15章 テロリズム
いかなる理由があろうとも、テロは断じて許されないのである‼ (テロリスト談)
スリランカとパレスチナ自治区で考えたこと。

第16章 構造主義①
リンクくんが「ゼルダの伝説」の世界から抜け出せないように、私たちはこの世界の「構造」から抜け出せないのです。

第17章 構造主義②
なんとなく従っている伝統や習慣……もしかすると、そこには何者かの思惑が隠されているかもしれません。


Chapter 4 幸福
自分の人生をどう生きるか


第18章 楽観主義VS悲観主義
この社会の「ポジティブ推し」にひとこと物申~~す‼ ポジティブシンキング、がっぺむかつく!

第19章 幸福主義と快楽主義
幸せとはなにか? この人類永遠の問いに、哲学者たちが出した答えとは……。

第20章 清貧主義VS拝金主義
1日1杯のコーヒーを節約すれば家が建つかもしれないけれど、家を節約すれば毎日コーヒーが飲めるのです。

第21章 懐古主義
「最近の若い奴らは……」とついつい言ってしまう、私とあなたとジャッキーチェン。

第22章 実存主義
人間はなんのために生きるのか? アルカトラズの囚人を襲った、刑務所より恐ろしい「自由の刑」について。

あとがき

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さくら 剛 (さくら つよし)
1976年静岡県浜松市生まれの作家。デビュー作の『インドなんて二度と行くか!ボケ‼ …でもまた行きたいかも』が10万部を超えるベストセラーに。以降、『アフリカなんて二度と行くか!ボケ‼ …でも、愛してる(涙)。』『三国志男』『(推定3000歳の)ゾンビの哲学に救われた僕(底辺)は、クソッタレな世界をもう一度、生きることにした。』など著作多数。相対性理論など科学の世界を解説した『感じる科学』は、理研創立100周年を記念した「科学道100冊」に選ばれるなど高い評価を得ている。

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