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【連載】東京アビシニアン

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これは、わたしの自伝。 小洒落た、鼻持ちならない、胡散臭めのミステリーが書きたい! お洋服が好き、東京はまだまだ探検中。
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#六本木

【連載】東京アビシニアン(14)Roppongi

【連載】東京アビシニアン(14)Roppongi

 明け方から決行した抗議活動に、斎藤はいやいやながらつき合ってくれた。素人じみた真似するんじゃないと、機嫌はかんばしくなかったけど、結果的に十人くらいの仲間も集めてくれた。どれくらい払ったんだろう。毎回協力者を買収しないといけなくなると、先の見通しは暗い。幸い、市民が声を上げるのが珍しい国だから、とたんにニュースやバラエティー、ワイドショーのカメラが回って来た。遠巻きに騒ぎを撮影するメディアたち。

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【連載】東京アビシニアン(1)Roppongi

【連載】東京アビシニアン(1)Roppongi

 ナンパって人生で数多くこなしてきた訳でもなく成功率はフィフティ・フィフティ。ゲーム感覚で挑んでるからほぼ運試しだけど、今日はとりわけツイていた。九月のちょっと気怠い昼下がり。チョコレートブラウンの髪をポニーテールにまとめた彼女の胸元にはクリスタルのネックレスが揺らめき、少し襟を抜いて着たVネックのブラウスと大胆なカッティングのレーススカートが六本木そのものっていう可憐な出で立ちだ。
「お姉さん、

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【連載】東京アビシニアン(9)Roppongi

【連載】東京アビシニアン(9)Roppongi

 シフトを早く上がったら店横の路地に斎藤が待っていた。
「英恵」
 街燈の影から呼び止められて、心臓が止まる思いだった。逆光の明かりの中から、ジャージにパーカーを引っかけた斎藤の姿が浮かび上がると、英恵は頬をシニカルな表情に歪めて笑った。
「なに。待ち伏せ?」
「こっそりシフト早抜けしただろ。まだ八時五十分」
「知らないよ、十分くらい。お客も少ないんだ」
「繁盛してないな。つぶれるんじゃないか、あ

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