亜久里

〇小説〇読書記録 〇東大理系出身 〇エッセイ風(異星人のメガネ) 〇ブログ「天気雨文…

亜久里

〇小説〇読書記録 〇東大理系出身 〇エッセイ風(異星人のメガネ) 〇ブログ「天気雨文庫」https://honnneco.hatenablog.com/

マガジン

  • 【超短編集】現代の神話

    わたしは神話を書きたいのかもしれない。1-2分で読めるちょっと幻想的で非現実的な物語で、日常から少しだけはみ出して。

  • 【連載】東京アビシニアン

    これは、わたしの自伝。 小洒落た、鼻持ちならない、胡散臭めのミステリーが書きたい! お洋服が好き、東京はまだまだ探検中。

  • 【連載】こんな喫茶店があったなら(喫茶あるぱか)

    街はずれにひっそりとたたずむ「喫茶あるぱか」。大人だって夢を見たい、日々を大切に歩みたい、そんな理想をおだやかに詰め込んだ私の理想の場所。

  • 【短編集】百人百色

    世の中にいるたくさんの人の命を紡ぎ描いてみたくて。日常はいつだって魔法にいろどられている。気づいていないふりをしているだけ。

  • 【エッセイ風】異星人のメガネ

    エッセイとお話のあいだのたわごと

最近の記事

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【ご挨拶】noteはじめまして

 こんにちは、noteはじめした。お仕事のかたわら大好きな書き物をして暮らしています。物語や詩という枠を超えて新しい表現をしてみたいなと思っています。  「天気雨文庫」というブログを書いています!(https://honnneco.hatenablog.com/)古典から現代の作品まで、ちょっと背伸びして考える読書をしてみようという「大人の図書館ブログ」というコンセプトで続けています。昔の教科書からの掲載や、読書感想文のようなものも。ぜひのぞいてみてくださいね。  好きな

    • 【超短編】海獣

       いつでも夢を見ているように浮遊していて、頼りがいがない、地に足がつていないと言われる。そんなわたしが身体の中に飼っている想像の池から実のある言葉を紡ぐとき、それは未確認生物がすがたを表すように、すっくと水面に浮いてくる。あたかも、生命の素がうようよ揺蕩うプールから、有機体がおのずと実を結ぶように。  つまりわたしの想像の源泉は湖のかたちをしている。行きずりの旅人が投げ入れてゆく小銭や、空き缶や、ときにはメダカなど、無秩序な断片がゆりかごのように培養されて、つるりとした背の

      • 【連載】東京アビシニアン(12)Jiyugaoka

         「人は自分の持っているものには無頓着だよね。いったん手に入ったものは、永久に去らないとどこかで信じ込んでる。違うかな?」  朝の手作りコーンスープを挟んで、呼び掛けるともなく言った慶介がどんな眼をしていたのか、周音は知らない。琺瑯のスープ皿がみるみる冷めるのもお構いなしに、カメラに収められた昨晩の画像を確かめていた。夜の2時から3時、いわゆる草木も眠る丑三つ時と呼ばれる時間帯に、確かにシャッターは切られていた。お得意の連写機能を繰り出して何枚も何枚も、ただし対象物をはっきり

        • 【短編】Up To Me_2

           わたしの仕事着は、上質なスーツ地のスカートに、ブランドを象徴するロイヤルブルーのリボンがついたブラウスだ。入れ違いでお店を辞めた先輩から受け継いだから、スカートの丈を少し詰めなければならなかった。辞めていく彼女は念願のキャビンアテンダントの選考に合格したと誇らしげだった。 「ここのプレタもレザーも好きだからこそ、もっと自分で持ちたいと思って」  数か月後、彼女は颯爽と店舗に現れて、 「シルバーのバングルと、フラグメントケースと、クロスボディと」  勝手知ったる陳列の中から、

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        【ご挨拶】noteはじめまして

        マガジン

        • 【超短編集】現代の神話
          10本
        • 【連載】東京アビシニアン
          14本
        • 【連載】こんな喫茶店があったなら(喫茶あるぱか)
          3本
        • 【短編集】百人百色
          4本
        • 【エッセイ風】異星人のメガネ
          15本
        • 【読書記録】晴れときどき雨
          2本

        記事

          【超短編】Up To Me_1

          「新しいのが入ったら電話をかけてね」 「オンラインショップはつながりもしないの」  エナメルは艶めき、経年の加工をほどこした皮革は味のある仕上がり。縫い目の加工ひとつとってもいくつかのパターンがあるし、季節ごとに更新される色展開は「茶色」や「黒」なんていう大括りの和語を幼稚に感じせるほど、込み入った名前を持っている。  近ごろの値上がりのせいで、ボーナスを握りしめて格式高い敷居をまたぐ風習は廃れてしまったみたいだ。注目の型番は入荷とともに買い手がついて、店頭に並ぶこともなく旅

          【超短編】Up To Me_1

          喫茶あるぱか 3.華尼拉(ばにら)

           海色の毛糸は、指の間を渡すと、浅瀬に手をさらしているような心地良さだった。 「シルク混の糸なんですよ」  真紀ちゃんが言うのも納得する。わたしはしばらく、編み図の記号を読み解くのに苦戦しながら、金色の鈎針を潜水させたり浮上させたりしていた。左手に糸を絡めて、右手で鈎針を操るのだから、下手なメモ取りに勤しむ指は残されていない。その間、金城先生は運動会の話をしていた。 「来週が本番なんです。三年生にとっては、主役として参加する最後の学校行事」  日曜日はカラッと晴れる予報だ。金

          喫茶あるぱか 3.華尼拉(ばにら)

          喫茶あるぱか 2. 甜瓜(めろん)

           長年の習慣というのは恐ろしいもので、わたしの場合、プライベートの他愛無い雑談でも気づけば手近な紙切れにメモを取っているのだった。 「ジャーナリスト魂だね」  仲のいい友達なら笑って言うけれど、言質を取られているみたいでいい顔をしない人もいる。この日も「あるぱか」で、隣り合った中学生教師という男の人と話すうち、知らずに紙ナプキンに文字起こしをする自分がいた。 『藤の開花はいつ?/5月上旬頃から順に開花。/和気神社が有名◎』 「受験生みたい」  その人は金城先生といった。公立中

          喫茶あるぱか 2. 甜瓜(めろん)

          喫茶あるぱか~1.薄荷

           喫茶あるぱかの宿帳は賞味期限が24時間だ。看板猫のモズクが朝の毛繕いを済ませ、気儘な散策に出掛け、寝床のキャットタワーに帰ってくるまでの間、B6サイズのリングノートは喫茶店に出入りするあまたのお客さんの筆跡をまとって、レジ横にこぢんまりと収まっている。閉店の時間が来ると、真紀ちゃんは惜しげもなく、風変わりな寄せ書きと化した今日のページを、びりりと破り取ってしまうらしかった。 「栞さん。薄荷茶はいかがですか」  白木の清潔なカウンター越しに、若草色のエプロンをまとった真紀ち

          喫茶あるぱか~1.薄荷

          【超短編】口下手な僕のかわりに愛を歌えロサ・ダマスケナ

           新しい香水が欲しくなるのは、天秤がが内省的にかたよるときと決まっている。うちがわの空虚をどこかに結び付けたくて、言い表しにくい感情、名伏しがたい思いの機微を埋める物語を、睡眠薬でも貪るように手さぐりしたくなる。ひと癖もふた癖もある名を享けたドラマチックな香りの旋律を、誰かの人格を歩みなおすように、首筋にまとう。けさ僕を選んだのはダマスクローズの甘辛いパルファムだった。トルコ原産の華やかさと背中合わせに、涙のにじむ煙の気配が、粘膜を軽くいぶす。いいようもなく肌馴染みが良い。生

          【超短編】口下手な僕のかわりに愛を歌えロサ・ダマスケナ

          【短編】火の鳥の街で

           滑走路の街には夜になると三連の赤い火球が轟音で堕ちてくる。田んぼのころを知っている祖母は耳を塞いで首を振った。 「あんなもの、じきに草原を燃やし尽してしまうよ」  わたしは生まれてこのかた疑わずに来た光景だった。祖母には忌まわしいその火球が昼間の空をわが者顔で切り裂く銀翼だと気づいたのは学校に上がってからだ。夕方ごろは荒れ野の蛙が一斉に鳴いた。使い古しの自転車をこいで日没と争って帰った。 「ただいまいただきます」  油あげのおみおつけ、さつまいもの天ぷら、鰈の煮つけ。祖母

          【短編】火の鳥の街で

          【エッセイ風】AIとシュルレアリスムと

          シュルレアリスムは、フランス語で超現実という意味 (surrealism) 。第一次世界大戦後の1920年代にフランスで興った芸術運動で、『理性から解き放たれた無意識』によって人間の全体性を回復しようと目指したものでした。  理性から解き放たれるということは、今までの美意識や常識、「こうすれば美しいんじゃないか」という計算を捨てるということです。もっといえば、いっさいの理性的・論理的判断を排除するために、「自動記述」といって頭に浮かんだ言葉をそのまま記録して詩を創作する手法

          【エッセイ風】AIとシュルレアリスムと

          【エッセイ風】LINEの既読論争を黙らせる伊勢物語

           LINEって、既読がつくからこそ返事が待ち遠しくてやきもきしたりする。この間、ふと開いた伊勢物語がなんだか胸に刺さった。  伊勢物語にはいくつもの短いエピソードが並ぶ。これはかなり有名な歌なのに(白拍子の静御前が、源義経のまえでこの歌を少し変えて歌ったという話がある)、たったこれだけで終わる。  書きぶりがびっくりするほどドライに感じられるけれど、ここには書かれていない葛藤や後悔や愛情が渦巻いていたんだろうなとか想像してみる。しばらくぶりに連絡を取ってみる不安や期待、疎

          【エッセイ風】LINEの既読論争を黙らせる伊勢物語

          【エッセイ風】クラムボンがなぜ笑ったかなんて知らないって言ってるのに

           6年生の国語の教科書に、宮沢賢治の「やまなし」が載っていた。  口に出して唱えたくなるような、小さくてささやかな蟹の会話は、もともと響きがよくて知っていたけれど(Eテレ「日本語であそぼ」に古典を教わった世代です)、授業で取り上げられたとき、先生がクラスに言ったのが衝撃的だった。 「クラムボンは、なぜ笑ったんだと思いますか? みんなで意見を行ってみましょう」 わたし(心の声):「『知らない』って、蟹が言ってるじゃん」   小学生は想像力が豊かだから、ありとあらゆる背景考察

          【エッセイ風】クラムボンがなぜ笑ったかなんて知らないって言ってるのに

          【エッセイ風】AIによる人格復元ってあり?~モネ、ひばりにJosie(2)

           こんにちは。前回の記事では、AIによるアーティストの作品・パフォーマンス復元に対する違和感について思ったことを書きました。表現者に限らず、人格をAIによって「復元」することの危うさもあると感じました。「あの人がいたら、どう判断するかなと思って」参考にする場面というのが、ぐらぐらした根拠の上に立つAI推定で、まことしやかに実現されてしまうということ。それにはやはり反発せずにはいられなかったのです。  しかし、ノーベル賞作家・カズオ・イシグロの「クララとお日さま」という作品を読

          【エッセイ風】AIによる人格復元ってあり?~モネ、ひばりにJosie(2)

          【連載】東京アビシニアン(14)Roppongi

           明け方から決行した抗議活動に、斎藤はいやいやながらつき合ってくれた。素人じみた真似するんじゃないと、機嫌はかんばしくなかったけど、結果的に十人くらいの仲間も集めてくれた。どれくらい払ったんだろう。毎回協力者を買収しないといけなくなると、先の見通しは暗い。幸い、市民が声を上げるのが珍しい国だから、とたんにニュースやバラエティー、ワイドショーのカメラが回って来た。遠巻きに騒ぎを撮影するメディアたち。もっと近づけばいいのに、あたしたちが何をやらかすのか、得体が知れずに怖がってるん

          【連載】東京アビシニアン(14)Roppongi

          【連載】東京アビシニアン(13)Kunitachi

          「はい、市役所広報課です」  リングトーンに反応し、咄嗟に電話口へよびかけたが、ツーツーという平板な機械音が返ってきただけだった。 「お電話ありがとうございます。市役所広報課、望月が承ります」  隣の席で、先輩の望月さんが受電に成功していた。淀みのないお役所敬語で相手の用件を聞きとりながら、メモを取る手も休ませない。この人の電話対応は電光石火、十年目の中堅なのだからさすがだが、これだけこれ見よがしに横取りされてしまうと立つ瀬がなくなる。今週に入ってもう四回目だった。  電話が

          【連載】東京アビシニアン(13)Kunitachi