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オペラ「ジュリオ・チェーザレ」2022年10月

ヘンデルのオペラ「ジュリオ・チェーザレ」を観劇してきました。

すでに多くの方が称賛されているように、私もロラン・ペリー氏の演出に「その手があったか!」と膝を打ち、こんなに知的な読み替えがあるものかと鳥肌が立ちました。
私の観劇経験の分母がそもそも少ないこともありますが、読み替え演出に感動したのは初めてです。

舞台設定は現代の「博物館の倉庫」なのですが、幕が開いて物語が動き始めるとすぐに、博物館に並んでいるのは過去の歴史の「記念品」ではなくて、今もなお命を宿している「物語への入り口」なのだと感じました。

ー-実在の人物に由来する表象物(representation:絵画や彫刻など)をどんどん絡ませながら、人々の魂が自分たちの表象物の間を漂うかのようなファンタジーにしたいと思ったからです(後略)。

「ジュリオ・チェーザレ」プログラム(発行:新国立劇場)

舞台を倉庫に設定した理由について、ロラン氏がインタビューの中でこう語っていましたが、想いはそのまま伝わり、表現する世界を私も共有できました。

舞台の写真は、新国立劇場公式ウェブサイトよりお借りしました

歌手はもちろんどなたも素晴らしかったのですが、とくにニレーノ役のカウンターテナー、村松 稔之むらまつ としゆきさんの歌と表現にすっかり魅了されました。
透明感があるのびやかな声の美しさはもちろんのこと、コミカルなキャラクターが実に楽しく、大きな絵画の上からピョコン! と顔を出したり、すまし顔でコミカルなダンスを踊ったりする姿は思わず吹き出してしまったほど。

また、森谷真理さんの演じるクレオパトラは、私がこれまでクレオパトラに対して抱いていた既成概念を軽々と壊してなお余りあるほどに、大変魅力的でした。
ハツラツとしてキュートで、茶目っ気がある。そして、彼女がファラオの彫刻に横たわって見せたとき、その肌の色が彫刻に溶けそうで目が覚めるほどに官能的。それでいて清潔感を欠かさない。

弟のトロメーオに敗北を認めるよう迫られたときに「負けてない! 運命が私を裏切っただけ」と返す負けん気の強さも、ジュリオに二度と会えないとしょんぼりしたかと思えば、ジュリオと再会した途端に弾けるように命を吹き返し、船のてっぺん(船楼せんろうというのでしょうか)にちょこんと乗っては「行け! 行けー!」と言わんばかりに片手を振って、満面の笑みで船を導いていくところも、かわいくてたまりません。ベルカントで歌われるクレオパトラの声も含めて、多幸感に満ちた場面でした。

かわいいと言えば、舞台装置にも茶目っ気を感じたことも印象に残っています。
たとえば倉庫の場面では、舞台の左右両端の天井付近に猫の彫刻が白と黒の1匹ずつ設置されていて、時折さりげなくスポットライトが当たるところにも心が和みました。
またあるシーンでは3匹目の猫が物陰に現れて、悲しく緊迫したシーンにも癒しを加えていました。

長いオペラであったはずの「ジュリオ・チェーザレ」があっという間に感じるほど、舞台の隅々まで表現の意志に満ちた、素晴らしいオペラでした。

今回「ジュリオ・チェーザレ」を見ることができて、本当に幸福でした。

ききみみ日記】というマガジンを作り、ここ数年のオペラ・クラシック演奏会の感想を毎日UPしています。
FBの投稿を遡りながら、微調整しています。 秋のおともに、よろしければお越しいただけますとうれしいです。


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