- 運営しているクリエイター
2022年9月の記事一覧
クイック、フラッシュ&ラウド 序章
白球の表面に印字されたMIKASAの文字がハッキリと視認出来た。
掌底に当てて押し出すように繰り出された無回転サーブ。明らかに僕を狙って放たれたそれに、佐山!と注意を促すチームメイトの声や、応援に駆けつけた同級生達の歓声が一瞬消えた。
一流のアスリートだけが感じることのできる、極限迄研ぎ澄まされた世界。僕は手首を返しフラットな面を作り、丁寧なレシーブでセッターの桜井につなごうと試みる。
長編小説:クイック、フラッシュ&ラウド 第1章 十代の荒野_1
僕と橋本の出会いは高校二年の秋にまで遡る。それは、こんもりとした丸い雲がゆっくりと流れる晴れた日だった。
台風が来る度に夏の湿気を含んだ空気が吹き飛ばされていき、空気が透明度を増した。教室の窓から見える、みなとみらいのビル群が日に日にクリアなって行く中、初めて十五度を下回った日。
僕は二学期になって初めて紺色のセーターを着て登校した。防虫剤の匂いが抜けないセーターの着心地が悪いせいか、何も
長編小説:クイック、フラッシュ&ラウド 第1章 十代の荒野_2
「一本くれ」とも言わず橋本は傍に置いてあった僕のタバコに手を伸ばすと、自分のライターで火を点けた。
固まる僕を尻目に暫く無言でタバコをくゆらせていた。橋本はぼくの目の前に移動し、値踏みする様な視線を投げかけてきた。痩せこけた体は逆光で影になり、枯れ枝が立っているみたいだった。二年になって同じクラスになってから、橋本とちゃんと話した事はなかった。意味不明な橋本の行動に僕は困惑しつつ腹が立って来た
長編小説:クイック、フラッシュ&ラウド 第3章 ウェイストランドボーイズVS小太りズ_4
「あの奇怪な集団は何だと思う?」
練習の後僕らはいつもの「ほりうち」に入り蕎麦を食べていた。僕がみんなに聞きたかったのはさっきの桜井の事だ。
「トチ狂ったとしか思えんな。小太り三兄弟とバンドを組むなんて生き恥もいいとこだろ」と高田。
「小太りって、お前自分の事棚に上げてるな」
横から茶々を入れた山内の頭髪を一瞥し、高田は
「俺は中途半端が一番嫌いなんだ。太るなら徹底的に肥るし、禿げるなら坊主にす