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走るサッカー 対 走らないサッカー(いまさらマッチレビュー):12月12日 川崎フロンターレ対サガン鳥栖戦

 12月12日は、九州に遠征してサガン鳥栖戦を観戦。多摩川クラシコを除き、普段はアウェイ戦を見に行くことはないのだけれど、有観客試合を再開してから、今年は等々力の試合をすべて見に行っていて、等々力では無観客だったアントラーズ戦にもアウェイで行ってきたので、このサガン戦を見れば今年J1の全カードコンプリートということに気づき、思い切って行ってきた(笑)。普通の年なら、仕事の関係でコンプリートするのは難しいのだが、今年は千載一遇のチャンス。

 ただ、あれから忙しく、ようやく数日前にビデオを見直すことができた。試合後の電車の中から最速マッチレビューも書いたけれど、いまさらマッチレビューも。

スタメンは以下の通り。

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マッチアップさせるとこんな感じ。フロンターレでは田中碧と脇坂泰斗は頻繁に入れ替わっていた。

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 なお、各メディアのスタメン表では鳥栖のフォーメーションは4-4-2となっていたが、試合中は4-2-3-1の局面が多く見られたので、4-2-3-1として書いている。

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もちろん4-4-2になることもあったが。

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パスワークの寸断を図るサガン

 鳥栖の守り方のポイントとして、アンカーの守田、インサイドハーフの田中、脇坂にマンマークを付ける形になっていた。そのため4-4-2よりも4-2-3-1に見える時間が長かったように思われる。

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 そして、最終ラインを高く保つ。そうすることでプレーイングエリアの密度を高め、ショートパスはともかくミドルパスが引っかかりやすい状況を作っていた。特に、守備時には各プレイヤーが重心を前にかける形で守備をしており、前に出て横パスをカットすることを強く意識した守備を行っていた。

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 これがけっこう有効で、フロンターレとしては中盤のパスワークで崩しきれない状況が続いた。するとフロンターレとしては、パスワークで崩しきると言うより、ハイラインの背後を突く局面を作り始めた。中盤でボールを奪うとすぐ三笘薫や家長昭博に預け、裏のスペースを崩す。

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 「タメ」を作ることが多い家長も、この試合では縦に早いドリブルを何度か披露している。

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 こうして、特に前半、三笘、家長のコンビネーションで数多くの決定機を作り出した。

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 ただし結果的には、三笘、家長の攻撃からは点は取れなかった。後半12分の谷口のヘッドによる先制点そのものはコーナーキックからの流れでの脇坂のクロスによるものだ。

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 ただ、先制してからサガンがボールをコントロールする時間も増えていく。

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 一方、三笘、家長を下げたあと、フロンターレは決定的な攻め手を繰り出すことができなくなってしまった。

 その中でサガンが85分に同点ゴール。

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 その後は両軍得点なく、1-1のままタイムアップを迎えた。

「1試合3点」の意味

 この試合、サガンは得点シーンを除いても、サイドからの崩しで4回ほど決定機を迎えている(12分、18分、53分、69分)。

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そう考えると、1点で逃げ切るのは難しい試合だったと言えるだろう。鬼木監督の言う「1試合3点」というのは無茶なことでもないな、というのが試合後に浮かんできた感想だった。


フロンターレの攻撃分析

 まずいつものように、ペナルティエリアのサイドに進入した回数を数えてみる。
(前半)
 左サイド:7回
 右サイド:7回
(後半)
 左サイド:3回
 右サイド:3回
 まず気づくのは、左サイドと右サイドで回数が同じということ。これは今年の夏以降のフロンターレでは珍しい。脇坂・山根・家長のトライアングルが上手く機能していたということだろう。

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 また、後半になっての少なさも目を引くが、1つの理由は、最終ラインの裏のスペースを狙って攻める場合、シンプルにゴールに向かっていくため、サイドをえぐっていく必要がないことだ。

 もう1つ、より根本的な理由として、サガンにボールを持たれる時間が長くなっていたことも指摘できる。DAZNによれば、前半のポゼッション率がフロンターレ53%、サガン47%だったのが、試合を通してとなるとフロンターレ45%、サガン55%となる。後半を含めると数字が逆転しているわけで、単純に計算すると後半はフロンターレ37%、サガン63%ということになり、相当程度サガンがボールを持っていたことになる。そうなると攻撃回数が少なくなるのは必然と言えるだろう。

三笘薫へのパスの出所

 次に三笘薫のプレーについて。
 まずはパスの出所
(前半)
 旗手:5
 田中:4
 ユアボール:3
 守田:2
 家長:1 (サイドチェンジ)
 脇坂:1
(後半)
 家長:5(サイドチェンジ2)
 脇坂:2(サイドチェンジ1)
 旗手:1

 前半、いつも登里からのパスが多いことを思えば、この日左サイドバックに入った旗手からのパスが多いのは自然なこと。

 後半で興味深いのは、家長からのパスが多いことだ。このうち、3本は家長自身が左サイドに移動したもので、2本はサイドチェンジのパス。脇坂もやはりサイドチェンジパスを放っていることを考えると、特に後半は、左サイドにアイソレートして立つ三笘を狙うパスで崩す意図があったと言うことだろう。実際決定機はいくつも作れていたわけだから、有効なプランであったことは明らかだ。


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三笘のプレー選択とドリブル成功率

次は三笘のプレー選択
(前半)
 ドリブル:6
 パス:9
 シュート:1
(後半)
 ドリブル:3
 パス:2
 シュート:2
 デュエルでのボールロスト:1
(DAZNのデータでは、シュート6本となっているが、CKからのシュートやこぼれ球のシュートはここではカウントしていないので数が合わなくなっている)

 この日はドリブルとパスの数がほぼ同じだった。ショートパスでポジションを揺さぶってからドリブルというのではなく、シンプルに裏のスペースを抜けるドリブルが多かったことがその理由だろう。

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そのドリブルはどうだったか。

大成功(シュート、クロス、CK、ファール獲得):4
成功(味方へのパス):3
失敗(ボールロスト):2

このうちボールロストは、試合開始早々の突進を3人に囲まれてボールを奪われたもので、かなりの部分やむをえないものがある。

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 いずれにしても、9回試みて7回は成功しているのだから、やはりいつものように有効な攻撃だったと言えるだろう。

走るサガン鳥栖:「スペースに対するプレッシング」

 それにしても、スタッツ通り、サガンはよく走るチームだった。普段「走らない」フロンターレを見ているので、特に印象深かった。

 プロレベルだから当然ではあるが、闇雲に走るわけではなく、「前に向かって走る」局面が非常に多い。ボールホルダーに対するプレッシングだけでなく、自分の前にある「スペースに対するプレッシング」とか、「未来位置に対するプレッシング」と言うべきだろうか。そこで横パスをカットし、攻撃を仕掛ける。

 もちろん背後のスペースを突かれるリスクがあり、キーパー朴一圭がそこを埋めなければならない。

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 フロンターレはそのスペースを三笘、家長を中心に狙ったが、朴一圭の好守もあり、結局崩しきることはできなかった。

 このサガンのサッカーは、見ていて「いいな~」と思えるサッカーで、スタンドで何度も感嘆のうめきを上げてしまった。

 間違いなく、今の順位にいるサッカーじゃないし、カップ戦で当たるのは怖いと思える相手だ。スタジアムも素晴らしいし、鳥栖の近郊に住んでいるサッカーファンは、幸せな時を過ごせているんだろうな、と思えた。

 来年もまた来たい、そんな風にも思いながら、スタジアムを後にした。

 最後のショットは鳥栖駅から。普通に鉄道風景写真撮りに行ってもいいかな、と思える場所だった。

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