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『どうして親指をシフトするのか?』ちょっと解説してみる話

 実を言うと、以前からnoteで親指シフトについて書きたいと思っていた。
 けれど「どうせ先行者(ロボットではない方)がたくさんいらっしゃるだろうし後でいいや」とばかり思っていて、だから書かないつもりだった。
 しかし今朝、ふと気になってnoteで『#親指シフト』を調べてみたら、なんと記事数45記事。思いのほか少ない。

 これは書いても怒られないのでは?

 そういうわけで、ぼくはいま、親指シフトでこの文章を書いている。
 親指シフト、「名前は聞いたことがあるけれど、実際どんなものは知らない」という方も多いのではないだろうか。
 名前すら知らない? そうであれば、この記事で知っていって頂けたら、とても嬉しいです。

 本記事は『どのように習得するか』『どのように環境を作るか』ではなく、『親指シフトをなんとなーく知ってもらう』ための記事になっている。偉大な先人のハウツーが腐るほどインターネットには転がっているため、そのなぞり書きをしても意味がないと思ったためだ。

 だから、この記事は親指シフト使いになろうと思っていないひとでも読み物として読んでもらえるように書いてある。お昼休憩の雑談のネタにでもしてもらえれば幸いである。

シフトってなんやねん

 さて、そもそも、親指シフトの「シフト」ってなんやねん、と思われる方は多いだろう。
 シフトキーに親指を置いて入力する方式では——もちろんない

 親指シフト #とは ざっくり言って、『パソコンで日本語打つ時にローマ字入力じゃなくて他の変な入力法使う』ことだ。
 上記を熱狂的な親指シフトユーザーの言葉で翻訳すると『非効率的な方式であるローマ字入力を捨て、日本語に最適化され約2倍にもなる圧倒的入力速度を持つ強力な日本語入力システムを導入する』となる。

 間違ってはいない。確かに、親指シフトにはいいところがたくさんある。

 親指シフト入力を導入して、ぼくはまちがいなく文章を書くのが早くなったし、公私ともに、それに助けられた場面は多い。
 だれかに「親指シフトってイイですか?」と言われたら、「イイです」と即答し、あまつさえ勧めることさえするだろう。

 さて、親指シフトは皆さんおなじみのローマ字入力よりは、「かな入力」に近いので、まずはその話から始めようと思う。
 かな入力とは、キーボードに印字された(多くの人にとって無用な)ひらがなを押すと、そのひらがながそのまま入力されるというものだ。
 ローマ字入力では、「シフト」と入力するのに、「sihuto」と6回キーを叩く必要がある。かな入力であれば「しふと3回だ。半分で済む。

 つまり、かな入力はローマ字入力の二倍の速度で入力ができる!

 しかしながら、かな入力はけっこう無理をしていて、キーボード全体にフルにキーを割り当てて、なんとか五十音+いろいろを表現している。
 キーボードの標準たるアルファベットは26文字で、日本語の五十音よりだいぶ少ない。そうでもしないと収まらないのだ。
 だから指はキーボードの上でだいぶバタバタ暴れ回るし、ホームポジションが定まらないから打鍵の姿勢も悪くなる。見た感じのわかりやすさと速度を取って他を犠牲にしているわけだ。

 そこで。

 そこで親指シフトである!


 通常のキーボード入力では暇しがちな親指に、スペースキー以外の仕事を与えるのだ。
 具体的には、それぞれの親指に「親指キー」を割り当てる。こうすることで、

1.そのままキーを押したとき(最初からあった)
右手の親指キーといっしょにキーを押したとき(増えた)
左手の親指といっしょにキーを押したとき(増えた)

 キーの状態が二つ増えたことがわかる。
 同じキーボードで、三倍のキーが表現できるようになった。こうすることで、

・一打一音を守れる(つまり入力が速くなる)

・指の移動が最低限で済む(つまり入力が速くなる)

・ホームポジションを守って書ける(疲れにくくなりタイプミスも減る、つまり入力が速くなる)

つまり入力が速くなるのである。

 このほか、親指シフトは膨大な日本語文章データを教師データにして作り出された配列であるため、入力頻度の多い文字が打ちやすい位置に配置されていたりする。
 だから、日本語の『書き味』もすばらしい。
 一音一打。最適化された配列でスラスラ書けるさまは、しばしば「指がしゃべる」と表現される。

 どうだろうか。親指シフトの良さが伝わっただろうか。
 なんだか信者めいて気持ち悪くなってきたので、少し現実的な話をしよう。

 親指シフトはすべてを解決しない

 結局のところ、

・現代のハードウェアへの親指シフトの導入には少々(たとえばSteamクライアントを入れるよりはちょっと難しい程度)の操作を要する

・親指シフト環境を実現するためのソフトウェアは無料だが、親指シフトを実現するフリーソフトをあなたの会社が導入させてくれるかはわからない

・約二倍速とは言ったが、まれに親指シフトよりもローマ字入力の方が早い文章も存在し、二倍は言い過ぎである
(拗促音が多い語句——たとえば『情報商材』はローマ字で「jouhoushouzai」で13打だが、親指シフトでは10打。せいぜい75%だ)

・打鍵が二倍早くなっても入力するべき文章が思いつかなければ意味がない。脳がボトルネックである場合あなたの日本語入力速度は改善しない

 何より、

 この配列をイチから覚え直し、そして使い倒す気に、あなたはなれるだろうか?

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出典:親指シフト - Wikipedia

(これは古来の親指シフトキーボードだが別にこれを使わなくてもエミュレーションができるのでご心配なく)

 他にも不安はつきないものと思われる。

・親指シフト練習中は全部親指シフトで暮らす必要があるのか
・親指シフトを覚えた代わりにキーボードの「R」がどこにあるか忘れてしまうんじゃないか
・20年間使ってきたローマ字入力よりも習得半年の親指シフト入力の方が早くなるのか

 まあ、

・別にローマ字入力と併用していいと思う、半年もやれば身につく
・英字は結局キーボード印字のままに入力するので忘れない。大丈夫
・半年では無理だがだいたい一年くらいで追い越すのではないかと思う。遅くても二年見ればきっと……

 という感じなのだが、やっぱり「面倒そうだな」が先に立つことだろう。

では、なぜ親指シフトなのか

 そんな面倒そうな入力法を、ぼくは社会人なりたてのころに習得した。
 当時のぼくは「もっと速く書ければたくさん書けて残業せず早く帰れる」と思っていた(もちろんそれはおろかな間違いだった)。
 でもそれだけではない。それ以上に、「ものを書くための文字入力方法」「自発的に」獲得することにロマンを感じたために、練習に時間を費やしても特に苦ではなかったのだ。

 多くの場合、ローマ字入力はキーボードの配列と共になんとなく覚えるものだろう。
 ゲームの裏技を調べるために。アニメのファンサイトのチャットルームに参加するために。PSPのセーブデータを検索するためかもしれない。あるいは、授業で使うからとか。(例えが古い?確かに!)

 それは誰かから親切にも与えられた入力方法で、社会的インフラにもなじんでいる。覚えたキー配置はそのまま配列は英語の入力にも流用できて、とても便利なのものだ。

 ぼくはそこになんの文句もない。
 総合的に見て、ローマ字入力は優れた配列だと思う。
 でも、ぼくが選んだわけじゃない。
 履きやすいけれどありふれた、地味なスニーカーみたいなものだ。

 ぼくは色々とカタチから入るタイプで、『日本語を書くための入力方法』——型、構え、装い——そういうものを自力で習得するという自己満足に、大きな魅力を感じた。
意地悪な言い方で自分を卑下して表現すると、『マイナーな入力法を使う俺、なんかカッコよくね?』というわけだ

 でも、自分で選んだ入力方法で、自分の書きたい物語を(そう、普段ぼくは物語を書いたりして活動している)、誰かへのメッセージを一音一語で打ち込んでいくのは、なんだかちょっとうれしい気持ちになる。

 自分で選ぶって、うれしいものだ。お気に入りの家具、やりかたった仕事、大好きな本。ぼくのようにものを書くのが好きな人間にとって、それは日本語入力システムにだってあてはまる。

 だから、ほかの誰かにもこのうれしさを味わってほしくて、このnoteを書くことにした。

 ものを書く、描く、つくる、すべての人たちが、自分で選び取ったお気に入りに囲まれてものづくりができたならいいですね。

親指シフトに興味をもたれた方へ:お前の感想はどうなの?

・導入は無料。ソフトウェア開発者さんに感謝。ただし、使っているキーボードの配列は少し制限を受ける。ちなみにMacBookの日本語配列を使っているなら今すぐにでも始められる(お持ちのそれはとてもいい親指シフトキーボードです)。

・書くのは早くなった。やはり脳がボトルネックではあるが、それでも短時間で量をタイプできるようになった。1.5倍くらい?

・あまり考える必要のないメモ書き、プロット書きなどは快適にガーッと書けるのでQOLが上がった感じはする

・同じ理屈で、何かのヒヤリングなどでもいい感じ。サッと書ける!

・記事中ではあまり触れなかったけれど、配列が日本語の言葉にある程度最適化されているので、疲れずに長時間打てる

・親指の位置が固定になるので、強制的にタッチタイプになる。姿勢良く書けるし入力ミスが減る。校正の手間が減った感じがする

・一打一音は話し言葉と相性がいいように感じる。一人称、話し言葉の多い小説を書く書き手とは相性がよく感じる

・なにはともあれたのしい!

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