小説「或る日の北斎」その6
西村屋与八、通称・西与が店主の永寿堂は、日本橋大伝馬町3丁目、鱗形屋三左衛門の林鶴堂、日本橋通油町、鶴屋喜右衛門の仙鶴堂などと並ぶ老舗の版元として知られる。初代は八頭身美人画の鳥居清長を世に送り出し、2代目は戯作者の柳亭種彦を育て上げ、滝沢馬琴に「売買にさかしき者」と言われ、商売上手で鳴らした。現当主は3代目西村屋与八となる。
「ご承知の通り、お上の禁令が相次ぎ、版元の商売も先細りでして。まったく厳しい情勢なんですが、とはいえ、ただ指をくわえてみてるわけには参りません。この