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小説

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自作の小説です。 最近はほぼ毎日、500〜2000字くらいの掌編を書いています。
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2023年9月の記事一覧

虚像の世界

虚像の世界

 満月は優しい黄色なのに、月光に照らされた地上は死んだように蒼い。

 矛盾している。していない。身勝手な一貫性を期待している僕のせい。

 屈折率とか散乱とか、自転だとか公転だとか、物理法則に従って、月は無心にそこにある。意図も持たずに光を浴びて、悲しみもせず闇に埋もれる。

 満月の慈愛は僕の中の慈愛の反射。月光の静寂は僕の中の静寂の反響。世界は僕の投影に覆い尽くされて、ありのままを見分けられ

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sample: 1

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 サンプル;n=1

 再現性のない 一度きりの実験

 サンプル;n=1

 確率0.1% 私には100%

 サンプル;n=1

 実験条件不明 不確実性=∞

 サンプル:私
 期間:生まれて死ぬまで
 目的:まだわからない

人を殴れるようになりたい

人を殴れるようになりたい

 人を殴れるようになりたい
 透明な膜状の国境を破り
 領海を侵して
 相手の確かな肉と骨に
 自分の確かな肉と骨をぶつけて
 生身を知られる恐れを越え
 あなたなら受け止められるという
 その信頼で殴りたい

 人と殴り合えるようになりたい
 征服ではなく、勝負でもなく
 鹿を最も深く知るのは狼であるように
 狼を最も深く知るのは鹿であるように
 肌を羽でなぞるのではわからない
 深奥の血肉の脈

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