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虚像の世界

 満月は優しい黄色なのに、月光に照らされた地上は死んだように蒼い。

 矛盾している。していない。身勝手な一貫性を期待している僕のせい。

 屈折率とか散乱とか、自転だとか公転だとか、物理法則に従って、月は無心にそこにある。意図も持たずに光を浴びて、悲しみもせず闇に埋もれる。

 満月の慈愛は僕の中の慈愛の反射。月光の静寂は僕の中の静寂の反響。世界は僕の投影に覆い尽くされて、ありのままを見分けられない。

 人はそれぞれ内側の世界に生きている。反射像を消し去って外側の世界を垣間見ることを、きっと悟りと呼ぶのだろう。

 外側を見て戻って来たら、内側も違って見えるだろう。丸くて青い地球を見てきた宇宙飛行士のように。

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