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グルメと漫画と世の中と ~毒があるからこその美味~

グルメ漫画と世の流れをリンクさせて書きます。
本記事で取り上げる漫画は3つ!

◆『美味しんぼ』
◆『孤独のグルメ』
◆『らーめん再遊記』

この3つを紹介していきます。

『美味しんぼ』は「おいしんぼ」と読む。
原作は雁屋哲さん、
作画は花咲アキラさんです。
1983年より連載開始。2024年現在休載中。

累計発行部数は1億部以上で、
まさに「グルメ漫画の代名詞」とも
言えるような漫画ですよね!
アニメ化やドラマ化もされている。

1980年代と言えば、日本は好景気、
バブル経済のあたりです。
外食産業が大きく発達し、
「グルメブーム」が広がった頃。
美味しんぼはこのブームに乗っかるとともに
自らブームを促進させた、と言われています。

主人公は山岡士郎。ヒロインは栗田さん。
そして何といっても
「海原雄山」という敵役が
圧倒的な存在感を保つ漫画…!

初期の山岡は無頼な感じで、
グータラ社員の新聞記者ではありますが
ワイルドな雰囲気をただよわせていた。
それが連載が進むにつれて
コミカルな感じになってしまう。
栗田さんの影響でしょうか?
いわゆる「キャラ変」ですね。

ただ、圧倒的な存在の海原雄山がいるため、
ぴりっとした空気は保てていた。
「究極VS至高」などの対立軸もあり、
何十年も続くロングセラーになったのです。
1986年には「究極」が流行語になった。

…ただ、あえて苦言を呈するとすれば、
ちょっと意見がバッサリ過ぎる
ところがある作品
だ、と思うんです。

若干「お説教」っぽくて、
偏った意見だと思われることもある。
(仮にTV番組で例えて言えば
「サンデーモーニング」でしょうか?)

さて、この漫画によって広がった
「グルメブーム」へのアンチテーゼとして
生まれたのが『孤独のグルメ』です。

久住昌之さんの原作を
谷口ジローさんが作画した漫画…。
1994年に連載を開始しています。
美味しんぼから遅れること、10年ほど後。

文字通り「孤独に」グルメを楽しむ漫画。

主人公が、フリーの輸入雑貨商である
井之頭五郎に設定されたのは、
とにかく「孤独」に「自由」に
食を楽しませるため、だそうです。

独身にしたのは
『美味しんぼ』や『クッキングパパ』と
差別化するため。
確かに、美味しんぼには栗田さん、
クッキングパパには家族がいますもんね。
ゴローさんは、基本、孤独。
ただ食べ、味わい、ひとりごちる。

そもそも原作の久住さんは
デビュー作で『夜行』という
読み切り作品を作っています。
1981年。美味しんぼの連載開始より早い。
泉晴紀さんとのコンビ「泉昌之」での名義。

この「夜行」は、
汽車の中で駅弁の幕の内弁当をいかに
美味しく食べるか、について
ぐるぐると内心で独り言を言いながら
食べ進める男のお話です。
「孤独のグルメ」のエッセンスが
詰まった作品だとイメージしてください。

この作品を、絵柄を変えて
大人向けに描いてみないか?と
持ちかけられた。
これが『孤独のグルメ』が生まれた背景。

作画を手掛けた谷口ジローさんは
細部にこだわった絵を描く方で、
どちらかというと
シリアスな漫画作品のほうが多い。
孤独のグルメで知名度が上がりましたが、
むしろこの作品は、谷口作品としては
異端のほうに入ります。


谷口さんは2017年にお亡くなりになった。
以降、漫画版の孤独のグルメも
終わりになっています。

…この作品を一躍世の中に広めたのは、
2012年から始まった「ドラマ版」です。
松重豊さんが主人公を演じるドラマは、
2024年現在、シーズン10までつくられ、
大みそかなどにはスペシャルドラマになる。
2025年10月には映画版公開(予定)。
シーズン1の第一話から見続けている
私にとっては嬉しい限りです。

もし、この作品をTV業界で例えて言えば
「テレ東」ですね!(そのまんまですが)
とにかく、自分勝手に自由に
好きなものを追求するような路線なのです。
マスから個人へ。

では、3つ目の
『らーめん再遊記』はどうなのか?

これは、比較的、新しい漫画。
2020年から連載開始。
原作は久部緑郎さん、作画は河合単さん。
ラーメン業界とフードビジネス事情について
緻密に描いていく。

…ただ、この『再遊記』には前段があり、

◆ラーメン発見伝(1999年~)
◆らーめん才遊記(2009年~)


この2作から続く3作目だ、とも言える。

「発見伝」はサラリーマンでありつつ
ラーメンの屋台を引く男の話。
「才遊記」は料理の天才の若き女性が
独創的なラーメンをつくっていく話。

この2作に、圧倒的な
存在感を見せるキャラが出てきます。
芹沢達也。スキンヘッドでメガネの男。
『美味しんぼ』における
海原雄山ポジションと思ってもらえれば
間違いはない。

この「芹沢達也」という、いわば
敵役を主人公に据えて始まったのが
『らーめん再遊記』なのです。
誤解を恐れずに言えば
「海原雄山を主人公にした美味しんぼ」。

「ニューウェイブ系ラーメン界のカリスマ」
として芹沢は既に成功者です。
しかし、どうも煮詰まり感があった。
「毒」が薄れていた。
そこで才遊記の主人公だった
若い女性に社長の座を譲り引退。
自らはラーメンについて
「再び遊びながら」知見を高めるお話です。

この作品の面白いところは
主人公の芹沢が過去~現在~未来を見据えて
考察を深めていくところ。
ラーメンや外食ビジネスに対する
「研究漫画」と言ってもいい。

純粋に「味」だけではなく、
売り方、情報の拡散の仕方、店の経営など、
ラーメンを軸に色々な試行錯誤をしていく…。

「発見伝」「才遊記」がストレート麺
スポ魂的な主人公だったのに対し、
この「再遊記」は、ちぢれ麺です。

何となく屈折しており、
世の中をナナメから見る感じ。
毒舌あり、救いのないお話もあり…。
そこに私は、凡百のグルメ漫画には無い
たまらない魅力を感じるのです。
例えて言えば、NHKのTV番組「歴史探偵」

最後に、まとめます。
本記事では3つの漫画を紹介しました。

◆『美味しんぼ』
◆『孤独のグルメ』
◆『らーめん再遊記』


この3つの作品の主人公は
新聞記者、輸入雑貨商、引退社長。
どこか「ナナメ」から人生を見て、
食を楽しむ人たち
ばかりです。
それがゆえに、表面的なお話に終わらない、
心の奥底をえぐりこむような描写がある。

そこから「意外性」と
「毒」の要素が生まれる。

フグは毒があるからこそ美味が際立つ。
「食」の表も裏も見せてくれる作品…。

グルメ漫画は、世の流れに影響を受け、
かつ、逆に世の中に影響を及ぼします。
衣食住の一つ「食」は、
人の命に大きく関わるがゆえに、
昔も今も人の興味関心を惹くものなのです。

ぜひ、未読の方は熟読を、
既読の方には再読をおすすめいたします!
(皆様おすすめのグルメ漫画も、
ぜひ、そっとおすすめしてみてください)

※本記事はRisa Takashima さんに
紹介をしていただいた
『「食」は5つの価値観
MZ世代が求める「食」からみえる、
探求心の重要性』という記事に
触発されて書きました。
非常に興味深い記事です↓

世代によっても、食への価値観は
だいぶ変わってくる、と思います。
新たな食への価値観によるグルメ漫画も
これからまた新たにどんどん
生まれていくのではないでしょうか。
合わせてぜひ!

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