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鳥見桐人の漫画断面図

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鳥見桐人(とりみきりと)が、漫画のワンシーンだけを切り取って、考察して紹介するシリーズです。
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2022年2月の記事一覧

「からん」の幕切れ ~鳥見桐人の漫画断面図10~

「からん」の幕切れ ~鳥見桐人の漫画断面図10~

始めるのは容易だが、終わらせるのは難しい。

俺は一通の国際郵便の手紙を机に置いた。そこには、次なる任地を知らせる内容が、簡潔に記されていた。日本でぼけぼけと過ごしていたが、休暇は終わりだ。

外に出る。桜の季節。

冬の寒さは鳴りを潜め、少し生ぬるい春の夜の風が物憂さをかきたてる。長期休みの終わりにふさわしい。ざっと一陣の風が通り過ぎた。春一番、いや、二番か三番か。その風に乗って、桜の花びらが闇

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「おおきく振りかぶって」の保護者 ~鳥見桐人の漫画断面図9~

「おおきく振りかぶって」の保護者 ~鳥見桐人の漫画断面図9~

親にとって子どもは、いつまでも子どもである。

たとえ老人になろうとも、親にとっては子ども。子どもにとって親は親。これは動かせない事実。

人間は、一人では大きくなれない。必ず保護され、育てられる。赤ちゃんの頃は、四六時中お世話をされる。食べること、排泄することすら、一人ではうまくできない。みんな、そうだった。ただ、成長の中で忘れるだけ。保育された記憶は薄れていく。反抗期・思春期には、逆に保護者か

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「働きマン」の逃走 ~鳥見桐人の漫画断面図8~

「働きマン」の逃走 ~鳥見桐人の漫画断面図8~

俺は、秋の好天の下、草野球の試合を眺めていた。

一塁と二塁の間にランナーが挟まれている。リードしすぎて、牽制球のため戻り得ず、野手に追いかけられている。その姿は、一見恥ずかしい。しかし、懸命にタッチをかわしている姿は、恥ずかしいながらも、チームの役に立つ。もし守備の連携のミスがあったら、ただで進塁できるから。

…しかし、ランナーは逃げられず、タッチアウトとなった。

俺は空腹を覚え、旧友の漫画

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「舞姫 テレプシコーラ」の水 ~鳥見桐人の漫画断面図7~

「舞姫 テレプシコーラ」の水 ~鳥見桐人の漫画断面図7~

バレエダンサーは、アスリートだ。

バレエのバの字も踊ったことがない俺だが、それくらいは分かる。小さい頃に、バレエを習っている友達がいた。男だった。野球やサッカーこそが王道だと信じて疑わない奴らが、囃し立てた。「男のくせにバレエかよ」と。

彼は、黙っていた。黙って、体育の時間には、自称スラッガーやストライカーたちを圧倒していた。競走、体操、鉄棒。ダンス以外でもすべてにおいて、身体能力の差をこれで

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「三国志」の一番乗り ~鳥見桐人の漫画断面図6~

「三国志」の一番乗り ~鳥見桐人の漫画断面図6~

いったい、いつから並んでいたのだろう。

空腹を抱えて、人気のラーメン屋を訪れた時のことである。その日の行列は、いささか度が過ぎていた。ずらりと並んだ人、人、人。何人いるのか。11時半開店。とすれば、列の一番前の人は、早朝にはこの店の前にいたのではないか。

有名な遊園地の入場や、ゲームの発売日には、徹夜して並ぶ人も多い。俺は並ぶのが嫌いなので、どんな場面であっても「前日から徹夜で並ぶ」という発想

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「さんさん録」の缶コーヒー ~鳥見桐人の漫画断面図5~

「さんさん録」の缶コーヒー ~鳥見桐人の漫画断面図5~

あえての缶コーヒー。

最近ではコンビニで挽きたてコーヒーが手軽に飲めるようになり、むろんそれはそれで良いのだが、缶コーヒーの奇妙な魅力は失われていない、と思う。

そもそも、「コーヒーを缶に入れる」という発想が斬新だ。コーヒーと言えばコーヒーカップに入れて飲むのが常識だった頃から考えると、今の時代はなんと選択肢が増えたのだろう、と感じる。

俺は近くの公園で、缶コーヒーをあおりつつ、一息ついてい

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「MASTERキートン」の書庫 ~鳥見桐人の漫画断面図4~

「MASTERキートン」の書庫 ~鳥見桐人の漫画断面図4~

図書館は知の宝庫である。

漫画喫茶にばかり行く俺ではない。時には図書館にも、行く。人生について考える、昼下がりの午後。

図書館には、雑多な人間が集まる。定年退職したであろう高齢者、受験を間近に控えているであろう中学生、子ども連れの主婦、何をしているのかよくわからない人…。俺はその中でも、ダントツに「よくわからない人」の代表例として見られているんだろうな。まあいい、俺はプロティアンだから。

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