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陶芸に携る方々の話を聞こう in 伊賀(第6回/全6回) 田中元将さん

HIS 地方創生チームが地域の皆さまと一緒になって、その土地ならではの魅力を活かし、地域をより元気にする、そんなプロジェクトが始まりました。第一弾の舞台は三重県伊賀市。伊賀焼振興協同組合さま、伊賀焼陶器まつり実行委員会さまと協同し、伊賀の陶芸の魅力を発信いたします。

その一環として、伊賀市で陶芸に携る6組さまにインタビューを行い、HISスタッフが素人目線でコラムを作成してみました。伊賀市に根付いた陶芸文化とそれに関わる人たち、その魅力が皆さまに届きますように。
(インタビュアー:HIS 宮地、田中/日時:2020年12月某日)

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田中元将さん/陶芸家

陶芸を始めた、めっちゃしょうもない理由

「ものづくりに関わりたくて」

そもそも、なぜ陶芸家になったのだろうか。

そんな素直な質問を投げかけたところ「めっちゃしょうもない理由なんやけれども」と口を開いたのは、伊賀市で陶芸家として活動する田中元将さん。今では植木鉢づくりに心血を注ぐ、大阪芸術大学出身の男性である。

出身地は大阪ながら、三重県伊賀市の島ヶ原にある古民家に数年前移住し、窯を構えたという経歴の持ち主ということで、聞きたいことは山ほどあるものの、最初の質問としては悪くなかろう。

ものづくりに関わりたい、という理由で芸大を目指したのは高校時代の話。勉学にさほど自信がなかったので推薦入試に的を絞ったそうだが、興味があったのは陶芸ではなく金属工芸だった。

当時通っていたデッサン学校に志望を伝えたところ、返ってきたのは「金属工芸コースに入るのはかなりのデッサン技術がないと難しいが、陶芸コースならば合格できるのではないか」という助言。

それならばと、あっさり陶芸コースを選択したのがきっかけ。ご自身の言葉を借りると「ものづくりが出来れば何でもよかった」からである。

「道具を介さず、直に素材を扱う」

しかし、陶芸を始めてみたところ、田中さんは陶芸が持つひとつの魅力に気付く。絵を描く際には鉛筆や筆を使う。金属を加工する際には工具を使う。要するに、多くのものづくりにおいて、道具を使うのが一般的である。

そう、陶芸は異なる。素材となる土に直に手で触れて成形するという点で大きく異なる。これは非常に珍しいことなのではないか、という気付きは陶芸の道を歩み続ける原動力となった。

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そして芸大を卒業し、活動資金を貯めるためのアルバイト時代を経て、本格的な陶芸活動を大阪府内の作業場で始めるに至った。

伊賀焼に魅せられて、活動拠点を移す

「二度と呼ばれないと思っていた」

陶芸家として制作に打ち込む一方で、田中さんが精力的に関わっていたのが「窯焚き」である。誤解を恐れず簡潔に説明すると、煉瓦で組んだ窯の中で薪を焚いて陶芸作品を焼成する技法なのだが、これにのめり込んだ。

現在ではガスや灯油、電気を使う窯で焼成することもできるのだが、焚いた薪の灰を被せることでしか表現できない技法。これを自分のものにするためには数をこなすしかない。遠方であろうとも、声さえ掛けてもらえれば「窯焚き」を手伝った。

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その「窯焚き」を手伝っている最中、伊賀焼の産地を訪れる機会がやってきた。当時は伊賀に強い思い入れがあったわけでなく「二度と呼ばれないと思っていた」くらいだったのだが。

「色々なご縁があって、伊賀の古民家に移住した」

結局のところ、二度三度どころか伊賀市内へと活動拠点を移すわけだが、決め手となった理由を尋ねると沈黙が少し続いた。「自分の薪窯を持ちたいと思いつつ各地を巡ったが、伊賀焼の技法が一番自分に合っていると感じた」と、田中さんは語った。

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ただ、理由はいくつかあり、大阪からさほど離れていない点や紹介された古民家に薪窯を構えられる広さがあった点などを挙げられた。そして、窯焚きについて詳しく教えてくれる方々がおられたのも伊賀への移住を決定づけた大きな理由のひとつだった、と付け加えてくれた。

「安心してものづくりに没頭できる環境だったから、ということですよね」と尋ねると、そうですね、と答える田中さん。移住と聞くと人生の大きな決断であると想像できるが、ものづくりにかける田中さんの熱量を伺い知ることが出来よう。

偶然の産物は海を越える

「話がちょっと長くなりますが」

という前置きをして田中さんが聞かせてくれたのは、今打ち込んでいる「植木鉢」づくりについて。一般的に陶器と聞くと、食器を思い浮かべる方が多いだろう。実際、田中さんも食器を作っていた。

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田中さんが手掛ける作品の特徴のひとつが、ろくろで比較的厚めに成形した後に時間をかけて削った外観である。その削った溝に、釉薬と呼ばれる塗り薬が絶妙な具合に溜まることで独自の風合いを湛える。また、内側と外側とで形状が異なるのも面白いといった塩梅だ。

但し、食器として見た場合に課題がないわけではない。削っているとはいえ、元が厚めになっており一般的な食器よりも重くなってしまうのだ。これには頭を悩ませた。

「植木鉢を作っていませんか」

今から2年ほど前、都内の陶芸イベントに出品した際に来場者からこう声を掛けられた。田中さんにとって不意をつかれた質問だったので尋ねてみたところ、塊根(かいこん)植物を育てるのが静かに流行っていることを知った。

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要約すると、見た目がユニークで高価なアフリカ産の植物に似合う植木鉢を求め、工業製品とは一味違う「陶芸家が作った」植木鉢に注目が集まっているというわけだ。「上等な水槽に入れた熱帯魚を観賞するのに近いのかも知れませんね」と田中さんは続けた。

田中さんにとって全く知らない世界ではあったものの、植木鉢を作って欲しいと言われて断る理由は特になかった。依頼主に見せてもらった写真を参考に植木鉢を作り、納品した。そして偶然の連鎖は始まる。

その半年後、信楽での陶器まつりに出品した際にも同じように植木鉢を作っていないかと来場者に尋ねられた。更には、植木鉢の販売を手掛ける方から植木鉢を作ってみないかとも誘われた。これには正直驚いたそうだが、植木鉢づくりに本腰を入れてみようと田中さんは思い立った。

そして、ここで大きな発見があった。

食器としては課題となっていた重さが、植木鉢としては実にうまく機能するのだ。また、塊根植物は植木鉢の中にびっしりと根を張るため、植え替える際には口が広く、内側はなるべく滑らかな方が望ましい。均一な厚みで作られた植木鉢の場合、内側と外側は同じような形状となるわけだが、それだと外観としての面白さは薄れてしまいがちだ。

しかし、田中さんの作風はわざと厚めに作った上で外側だけを削る。内側は植え替えやすいよう滑らかに仕上げつつ、外側は削りと釉薬で独特の表情を持たせることが出来る。口を広く作ってもその存在感は保ちやすい。

その作風は植木鉢に求められる機能と見た目の面白さを見事に両立させていた。

「僕が作っていて気持ちが良いのはここだと思える」と、未知の領域だった「植木鉢」に対して今では強い興味を覗かせる田中さん。ご自身でも塊根植物を育てており、植木鉢の利用者としての研究にも余念がない。

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「海外からも制作依頼が来る」

田中さんは陶芸活動を始めて10年以上が経つが、植木鉢を本格的に作り始めたのはつい最近のこと。しかし今では、国内に留まらずアジアを中心に海外からも作品に対する問い合わせが来ているそうだ。

「SNSの効果が大きいと思う。自分が作った植木鉢に塊根植物を植え替えて、お客さんが写真をSNSに投稿してくださる」とのこと。素晴らしい作品があってこそ、成し得る業である。

植木鉢に関する展望を伺ってみた。海外向けにはやりとりを簡素化する意味で自分の中の定番作品を中心に提供しつつ、国内向けには「一点物」を提供していきたいと静かに、しかし熱を帯びた口調で答えてくれた。

自分の薪窯を持つという目標

「クラウドファンディングで資金調達した」

植木鉢から伊賀へ移住した理由に話を戻し、そのひとつである「薪窯」についても触れておこう。必要な資金はクラウドファンディングで昨年調達できたものの、コロナ禍により窯の組み立て作業は保留状態。まずは出来る範囲でと、窯場に雨風をしのぐための建屋は一人で作り上げた。

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普段の植木鉢づくりで使っているのは電気釜であるものの、薪窯へのこだわりを忘れてはいない。伊賀焼の焼き方は「還元」である、と教えてくれた田中さん。燃料となる薪をわざと多めに窯の中に投入することで「還元」状態を保つ。そうすることで、薪の灰が付着した部分はビードロのような緑色に仕上がる。これに魅せられて田中さんは今、伊賀にいる。

以前、田中さんの幼馴染みたちが、田中さんが薪窯を焚いている現場を訪れたことがあったらしく、彼らがその姿を見て漏らした感想が「話は聞いていたが、薪窯を持ちたくて移住したという理由がようやく理解できた」だった。陶芸の素人でさえも一目見ただけでその虜にしてしまう薪窯の魅力、私も一度で良いのでこの目で「窯焚き」を見てみたい。

「色々な作品を出したい」

薪窯の組み立てとは別に、毎年9月に開催される伊賀焼陶器まつりへの出店も田中さんにとってはひとつの大きな目標であろう。移住先での一大イベントに対する意気込みを聞いてみた。

「普段は主に植木鉢を作っているが食器も作っているので、それらも出品する予定。もし間に合えば、自分の薪窯を組み立てて、そこで焼いた作品も出せれば良いが」と最後だけはお茶を濁すように語ってくれた。

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「関西圏からの来場者が多くなるだろうが、全国各地から伊賀焼陶器まつりへ来場してもらいたい。その面白さを現地で味わってもらいたい」と、伊賀焼陶器まつりの実行委員でもある田中さん。オンラインでの情報発信を担当していることもあり、伊賀焼陶器まつりへの想いは人一倍であろう。

田中さんへのインタビューを通じて感じたことがある。

陶芸の道を歩むきっかけ、伊賀に移住するきっかけ、植木鉢と出会ったきっかけ、その全てを「偶然」という器に収めてしまうのは容易だ。もしかすると、薪窯で焼成した陶器の仕上がりすらもそこに入るのかも知れない。

しかし、それら全ての事象を「必然」と呼んでみるとどうだろう。何となくではあるが、不思議な力に背中を押されている気持ちにならないだろうか。その感触と温度はどこか心地よくないだろうか。

伊賀に移住した陶芸家に限らず、我々自身の人生も同様に、日々なにかのきっかけの連続で成り立っているに違いない。だとすると、その器の中はなるべく空にしておいた方が良いのではないかと、ひとり静かに感じたのである。
(文:HIS 地方創生チーム 田中友崇)

SAC Bros. CompanyのWEBサイト:https://www.sacbros.com/

▼今までのコラムはこちら「陶芸に携わる方々の話を聞こう in 伊賀」

あとがき

全6回に渡りお届けしたインタビューコラム「陶芸に携る方々の話を聞こう in 伊賀」は今回で終了となります。如何だったでしょうか。

陶芸の素人であるHISスタッフが、その人・物・場所の魅力を伝えるべく半年以上に渡り奮闘した結晶だと自負しておりますが、伊賀で陶芸に携る方々に興味を持ってもらえたならば幸いです。

コロナ禍で外出自粛やイベント中止・縮小が目立つ中ではありますが、伊賀焼陶器まつりが開催された際には是非、足を運んでみてください。会場にはコラムに登場してくださった方々をはじめ、伊賀で活躍する多くの窯元と直接触れ合える貴重な機会をお楽しみいただけるかと思います。

最後に、本企画を支えて下さった「伊賀焼陶器まつり実行委員会」「伊賀焼振興協同組合」の関係各位に厚く御礼申し上げます。

2021年6月
HIS 地方創生チーム 伊賀陶芸プロジェクト

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