1989年モスクワに吹いた変革の風 ~ スコーピオンズ 「Wind of Change」~ 時代を象徴する作品シリーズ
1989年8月12日と13日、当時のソ連・モスクワにて、西洋のハードロックバンドによる大規模フェスが開催されました。
ラインナップは
シンデレラ
ゴーリキ・パーク
スコーピオンズ
スキッド・ロウ
モトリー・クルー
オジー・オズボーン
ボン・ジョヴィ
80年代ハードロックバンドの雄が勢ぞろいしたこのフェスでは、出演順を巡るいざこざ、仕掛け人の逸話などいろいろありますが、ここでの主題はそれではなく。
時代背景
ゴルバチョフのペレストロイカに端を発する東西冷戦構造の雪解けが進み、80年代末には共産主義・社会主義体制終焉の機運が高まっていました。
当時の東欧圏の様子は映画や文学作品などに詳しいですが、徹底した西洋文化の検閲がなされていて、盗聴やタレコミも頻繁しており、誰もが疑心暗鬼になっていた様子。そういう状況では産業も発展するわけもなく、閉塞感がただよっていたと想定されます。
公明な政治家がリーダーシップを発揮していたとはいえ、体制自体は変わっていない当時のモスクワでのフェス。この後、急速に自由化が進み、ベルリンの壁崩壊から一気に社会主義体制が終焉を迎えていくことになることを考えると、ここでこういったフェスが行われたのは、歴史的に大きな意味を持っていたように思います。
変革の風
さて、このライブに参加したスコーピオンズというバンドの面々。彼らは、このフェスの1年前もこの国でライブを行っていたらしく、このフェス参加のためにソ連を訪れてみて、昨年とは違う、開放的なムードがあることに驚いたそうですね。
変革が静かに進行しているその息吹を感じたんでしょう。
そのムーブメントは、自然発生的に起きたものではなかった。世相や政治的な動きからだけのものではなかった。それは、民衆の側から吹き付ける変革の風だったんです。希望という名の風が大きく、そして、静かに吹き付けていた。
それを再訪して感じた。
そして、この強烈な体験を、「Wind of Change」という楽曲に仕立て上げました。
この変革の風は、共産主義、社会主義の終焉を告げ、また新たな時代の幕開けを告げる風でした。
ただ、この新たな時代も、また困難な時代だったのは皮肉です。
自由の風のもとになされたソ連崩壊からの影響としては、
1、強圧的に引かれていた国境という名の枠組みが、急激に取り外された結果、その枠組みの中に強制的に移住させられていた異民族もまた、各自の自由を手にし、それぞれのアイデンティティに目覚めます。
強烈な独裁者が世を去ったことで、ある意味での統率も取れなくなった。
その結果、民族浄化運動が起き、民族紛争が旧ユーゴを中心に発生。。。
2、東欧諸国や壁の向こうにあった国々の民衆がこぞって西側に押し寄せる結果に。これが、移民となり、この移民問題が、現代までフランスやドイツでくすぶっているのは記憶に新しいですね。
サッカーフランス代表のメンバーを見るとわかりますが、生粋のフランス人はあまりいない。。。それはこのあたりに原因があります。
1989年に吹いた変革の風がもたらした自由と、自由を手にしたが故の混乱。すべてはあるがままに、、、ということではないですが、時代の儚さを感じる出来事です。
そんな時代をこの曲を聴きながら、反芻するのもたまには、良いのではないでしょうか。