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台湾で行っている建築コンサルタントの仕事

僕がやっている台湾での建築コンサルタントの仕事ってどんなものなのか、多くの人にはあまり想像できないと思うので、少し説明してみます。
実は、そもそも僕自身もこの職場に来るまで、こんなことをするとは思ってもみなかった仕事をやっています。スタート時点で想定していた内容から、だんだん業務の範囲が拡大しています。クライアントからすると、きっと使い勝手の良い人間なのでしょう。僕自身、それほど主張の強い方ではなく、人様のお役に立てれば良いというスタンスなので、win winの関係です。


1. 工事現場の確認

そもそも僕が台湾に来た理由は、台湾で仕事をしているディベロッパーが、自らのプロジェクトの工事に対して日本人技術者の目で確認をさせたいということでした。そのために僕が日本から派遣され、台湾に常駐して常時工事の確認をすることになりました。

日本人的なスタンスで工事の詳細を確認すること、それは設計図書、施工要領書、実際の工事の各場面に渡ります。中国語の図面や施工要領書を読み込んで確認する。それをチェックして内容を修正させる。現場でその図面や要領書の通りに工事が進んでいない場合、それを直させる。それ以外にも、自分の目で見ておかしなことがあればそれを現場に伝えます。これらのことが基本的な業務になります。

そして、それを日本の本社の技術者に報告します。日本の技術スタッフはそう頻繁に台湾には来れないので、彼らの目となり耳となり、必要な確認を行うことも必要です。


2. 現場定例会議の参加

工事現場では、施主は日本人がメインになりますが、設計を行う建築師と施工を請け負う営造業者は台湾人がメインになります。そのため、会議は通常2カ国語で行われます。

その場合、施主側のニーズ / 要望を的確に中国語で台湾側に伝えるにはかなりの難易度が伴います。それは、建築の技術 / 法規 / コスト / 社会環境などによって、日本と台湾では物事の理解の程度と内容に大きな違いがあるからです。日本語と中国語の通訳ができるからと言って、そのような技術的な内容を正確に伝えられるものではなかなかありません。
その点、日本でも台湾でも設計事務所に勤めたことがあり、現場の経験もある僕は、まず内容そのものを的確に理解することができます。そしてそれを正確に相手の言葉に移すことができる。更に言うと、単に通訳するだけではなく、お互いの国の社会背景、技術水準に従って、適切にその可能性、重要度を把握して、相手側に噛み砕いて説明できます。単に通訳するだけでは、何故相手は理解してくれないのだろうとなるものが、諸々の背景や事情を加えることができれば、説得力のある説明をできます。

また、僕が現場定例会議に参加すると、会議の進行役を務めることもよくあります。ある問題が発せられた場合、僕の立場からは、その問題は誰が解決すべき問題なのか、誰に発言させたら良いのかがすぐに分かります。ですので僕から、その相手に発言をうながす、そのような場面もよくあります。普通の通訳者ではこの様な交通整理はできません。

また、僕がそのような背景を持っている人間なので、仮に同じような内容を同じように発言したとしても、僕が発言すると受け取る側の印象が変わります。時によっては強く発言することもありますが、通常は建築師や台湾側営造業者の意見を尊重しています。

3. 設計協議への参加

当初、上に述べたように施工段階での様々な業務を行うことからスタートしましたが、クライアントが僕に設計段階の協議にも参加するようにと要請してきました。台湾で仕事をするディベロッパーとしては、工事段階のコミュニケーションも大切なのですが、それと同じように設計段階での調整も大切なので、その方面でもサポートして欲しいという要望でした。そもそも、僕は建築設計者として20年以上仕事をしてきたので、それは得意な仕事です。こうして、各種の設計に関する協議にも出席する様になりました。

初めに加わったのは、設計者を選定する設計コンペの審査の席です。日本と台湾のディベロッパーがJVを組んで、プロジェクトに対する複数の建築師の説明を聞き、それに対して意見を述べるという場面です。
日本から台湾に来ているディベロッパーのスタッフはマネジメント系の人が多く、技術系の人間が全くいないという状況なので、僕が加わってなんらかの参考意見を述べることが求められました。その様な会議には4回ほど加わっています。

また、新しいプロジェクトが立ち上がり、建築師を選定したあと、具体的な設計の内容を詰める段階になると、僕の発言するシーンは増えます。日本側の施主と台湾側の建築師の間に入って、計画案の良し悪しを判断したり、建築師に対して指示を出したり、図面のチェックをする。この様なことの全てが業務になります。

また、設計そのものをまとめること以外にも、建設事業そのもののフレームワークを定めるということにも関わっています。過去日本と台湾の間で様々な大型プロジェクトに関わった経験から、複数の設計者が加わる業務において、その業務の責任、費用の分担をどの様に組み立てたら良いのかを判断できます。その様な業務区分のフレームワークを作るアドバイスもしています。

4. 設計施工標準の見直し

最近は、日本側で定めた設計施工標準を台湾に相応しい内容に改定するという仕事にも関わっています。日本における設計施工標準そのままでは、台湾に適用できないことがだんだんと明らかになってきたため、台湾に相応しい内容に検討し直しています。
これは日本のディベロッパー、台湾の営造会社、建築師を含めた会議体を作り、そこで協議を続けてまとめていっています。

5. 日台スタッフ間のコミュニケーションサポート

また、会社の中で工程部として台湾人の技術スタッフを数人抱える様になりました。そうした場合、その台湾人スタッフは日本語はほとんど話せません。外国語の自由に使える技術スタッフというのは、普通に人材募集にかけてもまず現れてこないのです。それなので、日本語の能力は問わず、建築技術者としての経験を重視して採用するしかありません。
会社内で事業マネージメントに関わるスタッフは日本語のできる人材も多いのですが、こと技術スタッフについてはそうはいきません。それがためにこの建築技術をみる工程部では、中国語の分かる僕は、会社と彼らのコミュニケーションのサポートもしなくてはなりません。

中国語の分かる建築技術者として

「中国語で仕事のできる建築技術者となる」このテーマは僕が社会人となって2年ほどして定めた目標でした。それがために、社会人向けの中国語コースで勉強し、台湾への短期留学もしました。
当時の設計事務所の先輩は、その考えは尊重するが、それよりもそれでもって何をやるのかがもっと大切ではないかと僕を諭しました。その時は僕も具体的な仕事のイメージは持っていませんでした。ただ、その目標を持って台湾の設計事務所に勤めて4年。それだけの時間をかけると、中国語で建築設計の業務を行うことに、それなりに自信を持つことができるようになります。
次のステップとして、日本の設計事務所で多くの台湾と中国の設計案件、そして実際の工事にも関わることができました。この経験は、まことに得難いもので、幸いなことに主なもので、台湾で3件、中国でも3件の大きなプロジェクトを実現しています。

そして現在は、これらの経験を生かして、台湾で業務をするディベロッパーのお手伝いを、様々な場面ですることになりました。
これは、30年前に中国語の勉強を始めた時には全く考えてもいなかった仕事です。しかしながら、今の自分のキャリアから考えて、非常に得難い、自分の能力を十二分に発揮できる職場だと感じています。50歳を過ぎての転職でこの様な仕事に巡り会えたことは、奇跡の様なものです。
運命の神様に感謝しています。

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