見出し画像

Nukazuke is Hip-hop

ぬか漬けチーズトーストは、他に何も入り込む余地のない、シンプルでパンクな組み合わせだった。と思ったが違った。アボカドも蜂蜜も入る余地があった。バターのようにとろけるアボカドに濃厚なチーズが絡む。パプリカのぬか漬けの酸味が、甘みと塩味の下からたまに顔をだす。生命力に満ちた個性がぶつかり合い、トーストというダンスフロアで対立と調和を孕んだバトルが始まる。その上にラズベリーハニーを少し注ぐ。トーストを乗せた皿はまさにターンテーブル。たぶんこれはヒップホップ?

蜂蜜は道路わきの小さな無人販売所で手に入れた。郊外を車で通りがかった時に出会ったYelpにも載ってない場所。農家の前がちょっとした販売スタンドになっていて、蜂蜜瓶が何種類か並んで売られている。商品の前には空き缶が置かれており、その中に代金を入れるという100%性善説に則ったスタンス。

缶には20ドル札が無防備にむき出しで詰め込まれており、びっくりする。販売スペースの脇にはリサイクルボックスがあり、使用済みの瓶が何個も返却されている。リピーターも多そうだし、買ってみようと思ったが、現金が5ドルしかなく、さすがに買えるものがなかった。どうしよう。

よく見ると缶の横にQRコードの紙が。アプリ経由で携帯でオンライン決済もできるようだ。ちぐはぐなハイテクさもまた良い。アプリをダウンロードしようともたついていると、「私がつくってるのよ」と、家の中からお姉さんがでてきてくれた。それぞれの蜂蜜の特徴を、テイスティングも交えて教えてくれた。もうこれは買うしかない。

その間、決済を何回試してもうまくいかない。過疎地の通信環境のせいだろうか。うーん、わからないから、繋がった時に払ってくれればいいよ、とお姉さん。200%性善説に依った対応。だけど、決済が結果的にうまくいかないと不安だし、次にいつ来られるかもわからないから、最寄りのガソリンスタンドまで戻って現金を降ろすことにした。その旨を伝えると、OK、じゃあ戻ってきたらここにお金置いといてね、とお姉さん。性善説は揺るがない。

戻るとまだお姉さんがいた。20ドル札を手渡して16ドルのラズベリーハニーを買った。おつりは34ドルだった。びっくりした。50ドル札と勘違いしたらしい。あ、そうか!と何事もなかったようにやりとりが続く。市場原理と苛烈な競争が浸透しきったこの地で、こんなことあるの?性善説がどこまでも拡がり、また既成概念が覆される。

こうなってくると、このハチミツが美味しくないわけが無い。口にするまで幾度とない偶然を経て、予想を超える物語が即興で展開される。これはまさにフリースタイルのヒップホップ。先日発明したパンキッシュなぬか漬けチーズトーストに、アボカドとハチミツを足して、今朝食べた。気が狂うほど美味しかった。

日々いろんな物事が洪水のように更新されていく。パンクもヒップホップもぬか漬けも、私を救う。もう2022年の夏なんだから、もっとヒップホップを聴くべきだ。


※冒頭の写真について。トーストが美味しすぎて写真を撮れなかったので、材料を撮ってみました。調理方法はシンプル。それぞれの素材を好きなだけパンにのせ、焼くだけです。

※※貴重なお時間を割いてここまでお付き合い頂いた皆様、本当にありがとうございます。ぬか漬けがパンクな生き方だと思ったことについて書いた、ぬか漬けトーストの記事はこちらです。とことんお付き合い頂ける方は是非読んで頂けると嬉しいです。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?