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「算数文章題が解けない子どもたち」~夏休みの終わりを告げる「全国学テ研修会」~

「全国学力テスト」の学校平均点に一喜一憂

筆者は広島在住です。お盆休みに、他県の教師仲間と話をしました。話題はもちろん「全国学力テストの指導改善のレポート」です。(「こうゆう、ややこしいのは主幹の仕事」とぼやいていました。県によって違うんだと思いました。)
筆者のまわりでも、(注:管理職しか自治体内のランキングは知りません)「ベスト3だ!」「平均マイナス○点・・」「よかった平均点」などと、一喜一憂する言葉が飛び交っています。
「やったー」と喜んでいるのは、上位20%の学校ぐらいで、あとの学校は、安堵か無力感のため息といったところ。もちろん「やっと、県平均点になった。あの子たちよく頑張った。」と喜ぶ校長先生もおられます。

「夏休みの終わりの、全国の小学校のホットな話題『指導改善のレポート』って何?」と思われる方も多いと思います。小学校でいえば、4月に全国の6年生対象に「全国学力テスト」が行われます。8月上旬、マスコミから県平均が発表され、平均点の低い県の知事のコメントが報道される様子は、何となく記憶にあるのではと思います。マスコミ報道の後、それぞれの学校に「自校の平均点」が伝えられるのです。
各校では、テスト分析結果を保護者に報告することになっています。その報告書には、テスト結果の優れたところや結果が思わしくなかったところをピックアップし、さらに、指導改善する内容を書くことになっています。自治体によっては、5年生の結果も報告する場合もあります。(6年でいきなり結果が出ると不安なので、県独自で5年に学力調査を実施して、1年かけて対策を講じるところも多いのです。)

夏休みの終わりを告げる「全国学テ研修会」

各学校では、保護者に公表する前に、研修会をします。全教員でその内容を把握し、9月からの指導に役立てるということです。つまり知事や教育委員会の発言を「即実行!」というシステムになっているのです。なので、多くの学校では、この夏休みの終わりに、「全国学テの指導工夫改善の研修会」があり、先生たちにとっては、一気に気分を現実に戻されるという、いわば学校の風物詩のようなものになっているのです。

そもそも、先生たちは、なぜ「指導改善レポート」をややこしいと思い、その担当が戸惑うのでしょうか。

・学校で教えていない問題
・自分で作った問題ではないし、見たこともない問題
・その子ができないのは、知っている

もちろん、よっぽどの統計知識をもち、見たこともない問題に算数の本質を見抜く力がある先生なら百名程度の児童の結果分析など簡単かもしれない。
もちろんそんな人はいないし、一般の先生が拒否するのは、自然です。
そこで、文科省が、あらかじめ、学力テストで点数が低そうな問題の指導工夫改善の内容を冊子にしてくれており、各校でその冊子をもとに整理したものが「指導改善レポート」になります。(生活調査もあるので、ここでは「算数科」についてのみ言及します。)

長年「指導改善レポート」に携わっていた筆者は、他県の学校だとしても、個々のテスト結果を見なくても、「『割合』はマストだから、ここ書いて・・図形弱い?じゃ・・」と書くことができるのです。子どもを見なくても、レポートは書けるのです。だから、レポートの内容は、毎年似通ったものにしかなりません。

最近は、この風物詩「全国学テ研修会」も、ワークショップにしたり、別の目的とコラボさせたり、マンネリを避けるようにしています。
しかし、研修を目新しいものにすることで、学力の向上を図ろうとする姿勢が、すでに方向を間違えているのではないかと思えてならないのです。

「算数文章題が解けない子どもたち」では、170ページにこう書かれています。「統計結果を教育の目的に使うときに忘れてはならないことがある。それは、統計は目の前のひとりの子どもの特徴の理解には役立たないということである。」
思うに、学力テストという統計結果から導き出された文科省の「指導工夫改善」の方策だけ(内容はとっても素晴らしい。が、「それだけに目を向けている現場」という意味)を追う、今の現場の「指導工夫改善」の方向性は、テストの点数に一喜一憂する教師の寂しさにつながっています。テスト結果についての保護者説明会が、なんだか株主総会のように見えることもありました。(コロナ禍前)

目の前の子どもを大人の知恵と団結で救え!


199ページでは、「『プロトタイプバージョン』を見た広島県教育委員会が、このような考えのテストは外国児童に限らず、学校の授業になかなかついていけない子どもたち全般のつまずきの原因の見極めに役立つのではないかと考え・・」と、あります。コロナ禍前より、学習におきざりにされる子どもたちを思い浮かべ、「言語の力」をキーワードに、動き始めていただいた広島県教育委員会には、とても感謝しています。

さて、同著は、多方面からの賛辞が寄せられています。今まで、教室で先生と子どもという閉じた世界でのよくある話に、真剣に耳を傾けてくれて、「指導改善レポート」という先生の指導法だけに頼っていた「学習性無力感」の子どもへのアプローチに、別の光を当ててくれたことは、間違いないと安堵しています。「子どもたち!大人たちが、やっと気づいてくれたよ!」

さらに「終わりのことば」では、「ICT化に際しては、視覚に障がいを持つ子どもたちにも簡便に使ってもらえるよう、問題や指示を読み上げ方式にしたり・・・」「中国語、ホルトガル語、タガログ語などの多言語版・・」「ICTのメリットを活かし、担任の先生がクラスの子どもの誤答タイプがどのように分布しているか・・」など、子どもの学び辛さ、つまり認知的処理の軽減のために動き始めてくれていることも明るいビジョンとなっています。

多様性を受け入れるために、個別最適化を受け入れるために(印刷や消毒作業などのサポート以外に)、多くの方の知恵が、45分間の閉じた教室に、担任1名という、ひとりぼっちの状態には、必要なのです。

「算数文章題が解けない子どもたち」もう少し、ブームが続いてほしい・・



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