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生涯学び続けるための「学び方」の話

 4月・5月はなかなか記事を作成する時間が取れず、久しぶりにnoteに向かいまとめてみました。1月の投稿では人が学ぶ「目的」に着目して自身の考えをまとめました(以下添付しておきます)が、今回は学びの「方法」について、2冊の書籍を要約しながらまとめました
 成人学習理論はいくつもまとめられてますが、今回は日常からでも学びに繋げることができると言う視点でまとめています。

1.独学の地図

 1冊目は荒木博行さんの『独学の地図』の要約から考えていきます。「独学」と入っていますが、すべて一人でと言う意味は無く、書籍の中でも「他者を通じて学ぶ」という章もります。著者は学びを進めるうえで、「なぜ学ぶのか」を最初に考えない方が良いと記しています。その理由を以下に引用します。

 「 Why」の問いを最初に追求すると、必然性のある学びしか目に入らなくなる危険性があるからです。・・・・・・(中略)・・・・・・
 これだけ変化の激しい世の中で、「これから何を学ぶべきか」という問いほど難しいものはありません。だから、極端な話、理由は何だっていいのです。面白そうだから学ぶ以上の理由は必要ありません。

独学の地図 序文より

 この序文の文章を読んで自分も深く納得したとともに、学び方については認識を改めなくてはと思い、今回の文章をまとめることを決めました。
 以下に要約とともに「どのように学ぶか」についてまとめていきます。

1-1.学ぶことは生きること

 まず初めに、著者は「学ぶことは生きること」のキーワードのもと、序文で以下のように述べています。

 学びというのは、非日常的な場所やコンテンツの中だけで発生するものではなく、何気ない日々の中に転がっているからです。だからこそ、「良い学び方」は、「良い生き方」につながっていきます。・・・・・・(中略)・・・・・・
 なぜならば、「どう学ぶか」に対する手がかりを得たならば、目の前にある日常そのものが学びの場になるからです。特別な場所に行かなくても、魅力的なタイトルが付けられた講座を受けなくても、見方を変えるだけで、新たな学びの扉は開いていくのです。

独学の地図 序文より

 そして、「どう学ぶか」のキーワードとして独学のための「行為」「能力」「土台」の3つの階層を想定して独自の理論を展開しています。この3つの階層ごとに本書は著者の具体的なエピソードとともに考察を深めています。今回は代表的な内容のみとなりますので、詳しく知りたい方は清書に当たってください。

1-2.独学のための「行為」:問い・差分・他者

 まず初めに「行為」として、著者は独学のトライアングルと言う用語とともに以下の3つの行為を挙げています・

  • 「問い」から始める:先に答えのあるものでなく、自分から湧き出る「問い」を学びのスタートにする

  • 前後の「差分」を削り出す:感想や抽象的な一般論に逃げるのではなく、自分だけの具体論に変換する(些細な2ミリの学びを削り出す)

  • 「他者」を通じて学ぶ:①他者の存在が期限をつくる(学びの因果の逆転)②語る覚悟をするからこそ、経験は学びへ変換される

 この3つの行為(①疑問を見つける②前後の差分:具体的な学びを削り出す③他者と対話する⇒その対話からまた新たな疑問が生まれる)を循環させることで、普段の日常を学びの場へと変換させる(生活の場と学びの場の垣根がなくなる)。つまり「学ぶことは生きること」の状態になっていくということです。

1-3.独学のための「能力」:5つの独学筋

 次にその行為の土台となる能力について、「5つの独学筋」というメタファーで説明しています。これらの能力は、

  • 意識して反復トレーニングすることで確実に伸びていく

  • どのような場合においても鍛えておく必要がある根幹をなす

 という意味で「筋肉」に喩えています。そして重要なこととして、これらの能力はピークがかなり遅い時期に来るため(50・60代もしくはそれ以降、40代はまだ成長の途中)、鍛えるのに「遅い」と言うことはないと述べています。

  1. 自己批判筋(自分の中に他者を飼え):「疑問」「差分」の学びに必要

  2. 保留筋(意味不明に向き合え):「差分」「疑問」の学びに必要 ← 複雑で意味不明なコンテンツに向き合うこと、その場でわからなくても後で「あれはそういうことだったのか!」と気づく経験で身についていく

  3. 抽象化筋(一見違う「似たもの同士」を探せ):「差分」「疑問」の学びに必要、日常生活に不可欠 ← 本質的な共通項を見つける

  4. 具体化筋(繊細な違いにアンテナを立てろ):「差分」の学びに必要 ← 抽象化の逆に、一見同じに見えるもの同士の「本質的な違い」を見つける

  5. 表現筋(心動かされる表現を模倣せよ):「差分」「他者」の学びに必要 ← 特に「他者」を通じた学びに必要、自分の考えを適切に表現することで質の高いフィードバックをもらえるようになる

1-4.独学のための「土台」

 最期に「行為」「能力」を支えている最下層の「土台」について、著者は「ラーニングパレット」と言う言葉を使って説明しています。これは、個人が学びを重ねてきたものの集合体を絵の具のパレットに見立て表現しているものです。詳細な説明は清書にあたってもらう方が良いですが、個人的にはキャリアデザインの考え方が近いように感じました。そして、ラーニングパレットで学びを棚卸しする過程においては、肩書きよりも経験を重要視すると述べています。
 以下、自分が参考になった点を引用します。

・学びを棚卸しする上で大事なのは、肩書きではなく、経験です
・経験というのは、何らかの課題意識に基づき解決策を考察し、他者を巻き 込みながら実行に移し、結果を踏まえて次の課題意識を形成していく、という一連の動きです
・言うまでもなく、ラーニングパレットで必要になるのは、動詞的に語る経験です
・動詞的経験とは「どんな課題に向き合い、どう足搔いたのか」という動態的な情報なのです。

独学の地図 (p.126ー128)より抜粋

1-5.私たちは生涯学び続けることができる

 以上、『独学の地図』の要約を進めてきましたが、まとめとして、以下の引用で締めさせていただきます。

・学びというのは非日常的な空間で義務的にやる苦しい作業ではなく、生き ている限り、日々そこにある日常的な営みである
・その営みを継続していくためには、トレーニングが不可欠である
・日常的に発生する結果を構造的に整理することで、結果的に新たなキャリアにつながる

独学の地図 おわりにより

2.生涯学習理論を学ぶ人のために

 2冊目は『生涯学習理論を学ぶ人のために』(赤尾勝己〔編〕)から、いくつかの学習理論を紹介していきます。こちらの書籍は数多くある成人学習理論の理論的背景を1冊に整理しています。改めて「学習」について考えさせられる入門書の様な1冊になっています。

 今回はこちらの書籍にもある理論の中から、1.変容学習理論、2.経験学習理論、3.状況に埋め込まれた学習、の3つの理論に絞って簡単に紹介していきます。

2-1.変容学習理論(経験を通した変容による学び)

 変容学習理論は、米国の教育学者であるジャック・メジローによって1978年に最初に開発された教育理論です。この理論は、「学習者がこれまでに他者から与えられた前提によって成立していた、自身の信念や経験の再評価を導くプロセス」を述べる際に使用されます。
 変容学習の目標は価値判断や行動の「枠組み」 (frame of reference) を変える事です。この「枠組み」は証拠のない仮定や前提の集合から成り、この枠組みを通して我々は取り巻く世界を解釈し理解しています。この「枠組み」は、以下の2つの側面から構成されます。そして、2つの側面に対して批判的省察を行うことで「枠組み」 (frame of reference)が変容する過程(変容プロセス)を学習と捉えています

  • 精神の習慣 (habits of mind) :(全般的・抽象的な視点)全般的かつ広範で方向付けの作用を持つような傾向性・パターン

  • 観点、ものの見方 (point of view) :(個別的・具体的)自分や世界についての個別的な解釈を形作る特定の期待・信念・判断・態度などの集合体

  • 批判的省察:ある事柄を、その限界や誤りの可能性も視野に入れつつ真実性・妥当性を問い直し、冷静に評価しようとするような思考

 そして、この2つの側面が変容する10の局面を挙げています。

  1. 混乱を引き起こすジレンマ

  2. 恐れ・怒り・罪悪感あるいは羞恥心の感情を伴った自己吟味

  3. 想定(assumption)の批判的評価

  4. 自分の不満感と変容のプロセスが他者と共有されていることの認識

  5. 新しい役割・関係性・行為のための選択肢の探究

  6. 行動計画の作成

  7. 自分の計画を実行するための知識や技術の獲得

  8. 新しい役割を暫定的に試す

  9. 新たな役割や関係性における能力や自信を構築する

  10. 新たなパースペクティブ(物の見方)を決定する条件下で、自分の生活へと再統合される

 この変容学習理論で述べられている内容は1冊目の『独学の地図』で照らし合わせれば、変容プロセスそのものが①新たな問いを創発する②前後の差分を具体化する③他者と対話・共有して深めていく、その過程で5つの独学筋に喩えている能力を活用する、という内容そのものに近い感想を抱きました。

2-2.経験学習理論(経験の再構成による学び)

 経験学習理論は、デイビッド・A・コルブによって提唱された理論で、実際に得た経験から、経験学習サイクルとして「①具体的経験」「②反省的観察」「③抽象的概念化」「④能動的実験」という4つのステップに分け、プロセス化したものです。このサイクルによって、人は初めて経験が学びに変換され、それを応用できるようになります。経験学習サイクルを以下に簡単に整理します。

  1. 具体的経験:本人が初めて関わる分野や業務内容について、自ら考えて行動する

  2. 反省的観察:結果について熟考する

  3. 抽象的概念化:1つの経験で得られた気づきを、ほかの場面にも展開できるよう考え、教訓を引き出す

  4. 能動的実験:概念化・抽象化された気づきを次の業務に活かすよう促す

 経験学習サイクルはただ回すだけでなく、以下の2軸で構成されています。

  • 1.具体的経験と3.抽象的概念化を結ぶ、「理解」の次元

  • 2.反省的観察と4.能動的実験を結ぶ、「変容」の次元

 そして、コルブの意味する学習は2段階あり、この経験学習サイクルを通して、1段階目は具体的経験を起点とする学び直しのプロセス2段階目は経験学習サイクルを回し続けることによる生涯学習プロセスとしてモデル化しています。

 1冊目の『独学の地図』にもあった通り、経験から具体的な学びを引き出すことが成人学習でとても大事なことになります。また、その学びを引き出す方法として、経験学習サイクルを効果的に機能させ、生涯学習プロセスに結びつけることは独学の地図にも通じて来るでしょう。

2-3.状況に埋め込まれた学習と認知的徒弟制(コミュニティによる学び)

 状況に埋め込まれた学習とは、ジーン・レイヴとエティエンヌ・ウェンガーによって提唱された概念で、学習は文脈的社会現象と捉えられ、共同体実践を通して獲得されるものとされます。
 
つまり学習は個人の内的な認知過程だけでなく、外的な実践やコミュニティとも相互作用するものだと考えられます。状況に埋め込まれた学習の代表的な理論として、正統的周辺参加認知的徒弟制があります。

  • 正統的周辺参加

 ある実践共同体に参加し、その共同体のメンバーとして認められ、活動や文化を身につけていく過程を学習と捉える考え方です。要は部活や臨床実習、職場などの組織においての学習理論です。
 学習者は、最初は周辺的な役割やタスクから始めますが、徐々に中心的な役割やタスクに移行していきます。この過程で、学習者は、知識や技能だけでなく、アイデンティティーや価値観も変容させていきます。

  • 認知的徒弟制

 正統的周辺参加を進める中で、学習者が熟達者から学ぶ過程では1.モデリング、2.コーチング、3.スキャフォールディング、4.フェーディングという四つのプロセスを経るという考え方です。

  1. モデリング:学習者が熟達者の技術を実際に見て学習する段階です。熟達者は自分の考えや判断の理由を言語化して学習者に示します。

  2. コーチング:学習者が熟達者に基本を習う段階です。熟達者は学習者に課題・ヒントやアドバイスを与えたり、フィードバックをしたりします。

  3. スキャフォールディング:学習者が自立できる足場づくりを熟達者が構築する過程です。学習者が自立するために、熟達者は必要なサポートを提供しますが、できるだけ学習者に任せます。

  4. フェーディング:熟達者が段階的にサポートを減らし、学習者一人でも全行程ができるようにしていく過程です。学習者は自分で問題を発見し、解決する能力を身につけます。

 この過程で学習者は、熟達者の知識や技能だけでなく、その背景にある認知的なプロセスや戦略も理解し、自分のものにします
 この理論で個人的に大事な事は2点あると考えています。1点目は実践共同体というコミュニティの中で創発される学びであること2点目として、認知的徒弟性の過程を理解する事は、自らの学びを深めるだけでなく、他の誰かの学びを支援する機会で援用出来ることです。

3.まとめ:あなたは今何を学んでいるのか?

 以上少し長くなりましたが、学びの方法論について2冊の本を要約しながらまとめてきました。最期に『独学の地図』おわりにから、以下の引用で締めさせていただきます。

・あなたは今、何を学んでいますか?
・生きている限り、この瞬間にも学びは生成されています。
・だからこそ、「自分はこの平凡にも見える瞬間から自分は何を学んでいるのだろうか?」という問いが意味を持つのです。
・些細な日常の事柄を「学び」と認識することができるのならば、私たちは 生涯学び続けることができるはずです。

独学の地図 おわりにより

 ここまで読んでいただきありがとうございました。
 今後も時間のあるときに少しずつまとめていきますので、よろしくお願いします!

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