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臼太鼓(ウスデーク)

先日、波止場書房に訪れたお客さんたちが、沖縄の女踊りについて話していた。聞きなれない言葉は、聞き取れないし、覚えにくい。

それは、ウスデークだった。

ウスデークって、なんだろう。
沖縄市立図書館へ行き、調べてみることにした。


1.臼太鼓(ウスデーク)について

ウスデークは、臼太鼓のこと。臼=ウス、太鼓=デーク。漢字と音が結びつくと、記憶に残りやすく、イメージしやすい。

ウスデークは、沖縄各地に伝わっている祭祀舞踊。十五夜祭ともいわれるが、開催日は一定していない。かつては沖縄県内で広く行われていたが、伝統が途絶えてしまった地域が数多くある無形文化財。沖縄の村落共同体で育まれてきた女性の集団円陣舞踊である。本島全域および周辺離島に分布している。

(1)呼び方

臼太鼓(ウシデーク、ウスデーク、ウフデーク、ウシンデークなど)。

(2)由来

臼を叩いて踊ったのが始まりと伝承されているが、詳細は不明。臼太鼓という名称は、九州地方に広がる風流系芸能「臼太鼓踊」に由来すると考えられるが、九州地方の臼太鼓踊は、男性が太鼓を吊り下げて踊るなど、沖縄の女性の円陣太鼓踊りとは異なる部分も多く、関連は不明。

(3)目的

地域の厄払い、五穀豊穣への感謝と祈り、無病息災、健康祈願。

①神祭りの後宴(直会)としての臼太鼓
②集落の聖地巡りとしての臼太鼓
③加入儀礼としての臼太鼓
④王権との関わり

かつて女性は一定の年齢になると、必ず臼太鼓に参加したことから、こどもから大人の仲間入りをする加入儀礼としての意味も持っていた。また、結婚前の若い女性は、特別な目立つ衣装を身に着けることもあり、未婚女性がいることを暗に伝える役割もあったのだと想像する。また、権力者の前で臼太鼓を披露し、役人が好みの女性を召し上げることもあったという言い伝えもある。

(4)日程

ウンガミ(海神祭)やシヌグ、旧盆、旧暦八月十五夜、旧暦九月など、地域における夏の折り目となる祭りの機会に踊られることが多い。

(5)役割

・根取(音取、ニートゥイ)
・鼓打ち(チヂミウッチャー)
・踊り手

・若 者:手踊り、
     採物(扇、四つ竹など)踊り。
・中 堅:音頭取り、ニートゥイ、
     太鼓を叩きながら歌い踊る。
・長老格:踊りを見守り、指導する。

ウスデークは、歌や踊りを習得しながら、地域共同体のルールや大人としての振る舞いを学ぶ場としても機能していた。

(6)衣装

・黒又は紺地(クンジー)の着物。
・髪を束ね、鉢巻きを前結びにする。
・役割や年代によって、鉢巻きや衣装の色を変える。
・20歳未満のみやらび(早乙女、未婚女性)は特別な衣装(ファサンギンなど)を身に着けることもある。

池原:紫の帯を前に結ぶ。白足袋を履き、
   頭には鉢巻きを額の上でリボン結びにする。
知花:衣装に紺地の知花花織、又は紅型を羽織る。

(7)道具

・太鼓(テークグワー、又はチヂミ・チヂン)
・採物(扇、四つ竹など)

池原:四つ竹、日の丸の扇子2本を持って踊る。
   昔は小道具はなく、全部手踊り。
   ニートゥイの太鼓はトーチヂミー(左御紋の図柄)。

ちなみに、四つ竹は、日本本土の風流系小歌踊りの系統を引く芸能であることの象徴として注目されている。

(8)踊り

①円陣舞踊(地域によって、円陣の組み方は多様)
②円陣以外の舞踊

太鼓(チヂン)を打ちながら踊る太鼓打ちと、かけ声を担当する踊り手達によって、各集落で10曲前後の曲が歌い踊られる。内容は各地域で異なり、さらに、沖縄本島の中南部様式と北部様式でも異なる。

池原:踊りの列はニートゥイを先頭にチヂミを持ったグループ、踊り手のグループが続く。ウスデークの最後には、カチャーシーを舞いながらウスデークを終了する。

(9)音楽

臼太鼓は、村落での芸能であるが、その曲目は集落間、あるいは広い地域間で伝播・交流しつつ展開してきたと思われ、数多くの旋律同系曲があるのが特徴。沖縄本島に広く分布する芸能であるが、地域を越えて共通する曲(旋律)が存在する。

琉歌形式の歌詞が主流であるが、旋律構造としては、琉歌形式より小さな単位に対応した旋律が相当数含まれており、琉歌形式よりも相当古い始源を持つと考えられている。

踊り歌は「節構造」を持つ。旋律、舞踊、歌詞が繰り返される。基本的に周期が一致するのが普通だが、それらがズレる臼太鼓もある。

(10)歌詞

詠み人知らずの歌詞が多く、冒頭には首里の国王や村の親方を褒め称えたものではじまり、子孫繁栄を願う歌や、男女の交遊、自分の村を褒め称えた歌で村の幸を願ったり、航海安全祈願等の意味を持つ歌もある。

(11)その他(供物)

知花:白豆腐(シルドーフ)。
   ウスデークのみ作られる供物。
   白豆腐に塩をまぶして蒸す。

臼太鼓は、祭祀舞踊という役割だけでなく、地域共同体を維持する為の役割(統制、縁談、交流など)も果たしてきたことが分かった。臼太鼓を調べていたら、沖縄の民族芸能の成り立ちについての分類がとても面白いと思ったので、それも以下にまとめてみる。

2.沖縄民族芸能の成り立ち

(1)時間軸による分類(「沖縄芸能の分類(1991年)」より)

①神楽:神代の昔から連綿と続く芸能
    (縄文時代~)
②田楽:日本人が稲作をはじめて以降の芸能
    (弥生時代~)
③風流:中世から近世初期にかけて
    日本固有文化が花咲いた時代の芸能
※実際の芸能の事例や歴史的展開に当てはまらない部分あり。

(2)本田安次による分類(「沖縄芸能の分類(1991年)」より)

①宗教的な民族舞踊
・神祭りや行事の折々に行われ、民族と共に渡ってきたと思われる芸能。アッチャ舞小、巻踊、モーヤー、浜踊、六調、天草、うちはれの遊びなど。
②本土より伝えられたと思われる芸能
・鎌倉・室町から徳川初期にかけて伝えられたと思われる念仏踊、小歌踊、太鼓踊などの風流踊。その影響を受けているウスデーク、エイサー、クイチャー踊、八月踊、古狂言など。
③宮廷舞踊・組踊
・18世紀の初め、沖縄宮廷において大成された踊り。
④外来のもの。
・明治以降、沖縄において創作された歌劇、史劇、雑踊など。明清楽、弥勒、アカマタ、クロマタ、獅子舞、南島踊など。

(3)三隅治雄による分類(「沖縄の民族芸能の分布とその分類(1972年)」より)

①神遊び
②舞踊
 (イ)カチャーシーモーイ
 (ロ)組歌踊(ウスデーク、クェーナ、
        クイチャー、巻踊、大和歌踊)
 (ハ)念仏踊(エイサー、盆アンガマ)
 (ニ)京太郎(チョンダラー)
 (ホ)その他(獅子舞、採り物踊、太鼓踊、
        練り踊、節歌踊)
③演劇

(4)当間一郎による分類(「沖縄の民族芸能の特質(1981年)」より)

①民族芸能(狭義)
 (イ)祭祀芸能
  ・特定の神人(カミンチュ)による、
   祭りの中で演じられる所作。
  ・綱引き、イザイホーなど。
 (ロ)庭の芸能(エイサー、ウスデークなど)
  ・祭りとは関係があるものもあるが、
   独立性の強い野外集団舞踊。
  ・一般の村人が参加して演じられる。
 (ハ)バンク芸能(仮設舞台)
  ・観客と演者が分かれる。
  ・娯楽的要素あり。
  ・多良間の八月踊、京太郎(チョンダラー)など。
②古典芸能

(5)日本民謡大観における分類(「南西諸島の音楽文化概説(1991年)」より)

【共同体行事歌】
・儀礼・行事・祝い(ウスデーク、エイサーなど)
・座興・遊び(カチャーシーなど)

八重山の安里屋ユンタも、
共同体行事歌(仕事・作業歌)に含まれる。

(6)まとめ

沖縄の民族芸能のルーツはひとつではなく、祭祀芸能と密接な関係がありつつも、古典芸能、大衆芸能と相互に影響し合いながら、共同体の暮らしのなかで、発展してきたことが分かる。

3.感想

見知らぬ単語だったウスデークを調べていたら、沖縄の民族芸能の成り立ちまで広がるとは思わなかったけれど、とても興味深かった。

ウスデークは、宗教的な祭祀芸能でもあり、共同体のルールを学ぶ場でもあり、子孫を遺すためのお見合いのような意味合いもあった。

さまざまな場所へ移動し、多様な人たちと交流できる現代では、ウスデークが担ってきた役割は、必要とされなくなっているのかもしれない。それが、各地でウスデークが途絶えている理由なのかもしれない。沖縄で育まれた民族芸能が途絶えることは、とても悲しい。だけど、生まれた地域や、世代間の上下関係から、女性達が解放されたと思うと、それは、とても喜ばしいことだ。

さまざまな時代を経て、育まれたウスデーク。共同体の統制や維持という役割を終えて、今後は祭祀芸能として、各地でウスデークが受け継がれていくのかもしれない。古来からの伝統を受け継ぐという美しさもあるし、さらにより良い民族芸能へと進化していく美しさもある。また、ここから発展して欲しい。

いつか、沖縄でウスデークを見ることができたら、嬉しいな。

おわり

【参考文献】

1.「沖縄の民族芸能論 神祭り、臼太鼓からエイサーまで(著者:久万田晋/ボーダーインク/2011年)」

2.「池原のウスデーク 沖縄市文化財調査報告書第21集(沖縄市教育委員会/1998年)」

3.「知花の十五夜行事-ウフデーク(ウスデーク)を中心に- 沖縄市文化財調査報告書第46集(沖縄県沖縄市教育委員会/2020年)」

★富盛字誌を、読んでみた。

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