散文詩『自閉』2019.10.01



筆圧の高い鉛筆画を彼女は永遠に描いていた。
天地を創造し始めて二週間。予定のピンを、上から鉄で出来た溝の多い箱の雨を降らせ、この街を壊すところに置く。彼女は探している。
か細い身体に自らを閉じ込めた何かを. 責めるつもりはない。が、その創造を許すつもりもない。
鉄で出来た溝の多い箱、無機質に壊すだけの物体を造った何かと, 壊されるだけの自分。
その間に何が出来るのかと鉛筆を滑らせ、彼女は無心に永遠に描いた。
添える気持ちは無かったが、見てくれる人間が口を滑らせた「これは人の仕業じゃない」を聞いた時、彼女は恨まれているのだと考えて、何か温かい血の通う生き物を描かなければ、と思った。
そうして出来た街は呼吸をし降ってくる鉄の箱を、延々と食べる機械になった。鉄の街に傘は必要ない。
忘れ物はありませんか ?_

彼女は頷いたけれど、食われてしまった箱に生きた街を壊す力はなく、予定は何処か遠くへ去った. 「何処へ行きたかったのだろう」
吐き出されず飲み込まれ続ける破壊のための箱。硬く太ったビルの隙間に髄液が流れている。
生まれ持った形が違うならどうしたらいい ?
彼女は他人とは行き先が違うのかもしれないと考える、延々と滑らせる鉛筆。汚れた小指を洗う毎日を繰り返す、大きな街が更に巨大化していく。
「壊して欲しい」と叫び出す街を、彼女はどうしようもない表情で見つめ、何も言えず, ただそこに髄液を流し続ける。
無色透明な髄液がビルからビルへ, 道路から赤信号へ供給される酸素、歩き続ける彼女の辿り着く場所はもう決まっているのかもしれない, それでもルールを決めたから.
生きて欲しいと願うと、決めたから一生, 鉛筆が削れなくなるまでずっと髄液を流し続けると決めた。グルコース, 酸素, 鉄で出来た箱の雨、ビルの合間を歩き、赤信号に止められて食われ, 降ってくるために流れる生活は, 巨大な閉ざされた街を創り.
「いつの日かまた会いましょう」そう言って食われる生き物たちを見送り、循環し空を見上げる。
「神はいるのでしょうか」。



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