見出し画像

ベストミックスの提案(前編)【連載】人を右と左に分ける3つの価値観 ―進化心理学からの視座―

※本記事は連載で、全体の目次はこちらになります。第1回から読む方はこちらです。

 これまでの話を踏まえ、「部族主義(Tribalism)か否か」「不平等に寛容か否か」「人間の本性を競争的なものと見るか、協力的なものと見るか」の3つの価値観についてベストな中道を模索してみたいと思います。

 まず、「不平等に寛容か否か」の経済的平等については、第3章で述べたように、大志ある人のインセンティヴを削ぐぐらいの平等社会ではなく、貧困層に転落した人たちのケイパビリティ(潜在能力)が台無しにならない程度のバランスのとれた社会が最も活力があると私は考えています。性差に関わる平等についても、生得的な性差を無視した行き過ぎた男女平等を避け、かつ男女それぞれのケイパビリティが最大限に活かせるような状態が理想的だと考えます。

 残った「部族主義(Tribalism)か否か」「人間の本性を競争的なものと見るか、協力的なものと見るか」については、外集団の性質によって最善の策が変わってきます。つまり、外集団が良心的で無害ならば、協力的で自民族中心主義を控えた左派の価値観でよそものと接するべきです。これに対して、外集団が悪意を持っていたり、悪意がなくても新しい病原菌のような脅威を持っているのならば、競争的で排他的な右派の価値観に基づくべきです。つまり、外集団の性質を考慮せずに「左派と右派のどちらが正しいか」を議論することはナンセンスで、重要なのは「対峙している外集団が脅威と利益のどちらをもたらすか」ということだと思うのです。むしろ避けるべきなのは、相手がどんな人だろうと固定的で一貫した態度で接することです。こういった認識が浸透すれば、日本における右派と左派による政治的対立も「外集団の性質の正確な認知」に置き換えることで、ある程度乗り越えることができるのではないでしょうか。
 こういった右派と左派の価値観・戦略のどちらが国家間で有効なのかを考える際に、私が参考になると考えているのが「囚人のジレンマ」と呼ばれるゲームです。自分ともうひとりのプレーヤーで表5―1のような経済ゲームをすることを考えてみましょう。

画像1

 自分も相手も「協力」と「裏切り」のどちらかを選ぶことができますが、相手がどちらを選ぶかはわかりません。二人とも協力を選べば、両者が6万円をもらえますが、こちらが協力のときに相手が裏切りを選ぶと自分は1円ももらえないのに対して、相手は10万円を手にすることができます。かといってこれを避けるために二人とも裏切りを選んでしまうと両者は3万円しかもらえません。つまり、自分だけ裏切れば得をしますが、相手も同じように裏切ってしまうと痛み分けとなります。このゲームを同じ人と連続して行うことを考えると、初めから両者が裏切らないで協調し続けた方がWin-Winになるのですが、お互いに「相手は、自分の利益を優先して次は裏切りを選ぶのではないか」と疑ってしまうことで結果的に両者が裏切りを選ぶ少額しかもらえない状況に陥りやすくなります(この状態を囚人のジレンマと呼びます)。
 私は、これと同じことが国際関係にもあると思っています。例えば、表5―2のようにA国とB国が両国とも左派の考え(文化多元主義で協力的)を持っている場合には、活発な経済活動、文化交流などで両国が栄えます。

画像2

 この場合には、左派のオープンで寛容な心が説得力を持つでしょう。これに対して、A国が左派の考えを持っているのに対して、B国では右派の考え(国益を最優先とした競争主義)が支配的だった場合を考えてみます。この場合には、A国はB国によって不当に搾取されることになるでしょう。具体的には、B国は愛国主義に基づいて他国の製品にあれこれ難癖をつけては輸出入規制や政治的な不買運動を行うだけでなく、購買行動でも自国の製品をひいきします。また、自国の産業や企業を優遇したり救済措置を取ることで、外国の企業を締め出そうとします。海外の映画や音楽、書籍などのコンテンツを楽しむ際にも、海外版や違法アップロードを通じて鑑賞し、その対価を外国に支払いません。
 一方、オープンなA国はB国の企業のインフラやネット、スマホ、パソコン、SNS、アプリ、ソフトウェアを導入することもありますが、それには至るところにバックドアが仕込まれており、A国の企業秘密や個人情報がB国の手に渡ります。B国は、それを基にしたサイバー攻撃や、技術を盗用した安価なパクリ製品によって国際市場でのシェアを奪おうとします。
 政治についても、移民や外国人にオープンで寛容なA国は、当然、外国人参政権を認めるだけでなく、B国の国民や移民が議員や公職、管理職に就くことも禁止していません。そのため、彼らによる内政干渉と国家機密情報・軍事機密情報の漏洩に悩まされることになります。
 このように、人の本性を競争的なものだと思っている人にとって、人の本性を協力的なものだと思っている寛容な人は、いいように利用され食い物にされてしまう危険があります。これを恐れ、両国が右傾化すると、結局自他共栄のようなWin-Win関係は築けず、お互いが相手を競争相手だと考える敵対関係になるでしょう。
 このため、外交政策や外交態度を相手国に対して柔軟に変える必要があります。つまり、敵意のある自民族中心主義国家に対しては、右派のアプローチで毅然とした態度で接し、敵意のないオープンな国に対しては、左派のような寛大な姿勢で協力するのが最善の選択となるでしょう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?