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アーティストステイトメントを書こう

写真をアートにするために

写真をアートとするための必要なものが「アーティストステイトメント」です。
直訳すると「作家の宣言書」という意味になります。
「写真が良ければ世界に通用する」と言う人がいます。プロの方もそう言う方が意外と多いのです。確かに写真が上手いに越したことはないのですが、アートが求めるものは少し違うのです。大切なのはアーティストの思想や哲学、生き様なのです。

「私はこういう人間で、このような経験や考えにもとづいてこの作品を創っている」ということを文章にして作品に添えることが世界のアート市場では求められます。はっきり言って写真を見せられただけでは、そこにある物語の内容や、それは社会問題のことなのか、又はあなた個人の問題なのかも分かりません。逆に私たちが海外の写真を見て分からないのと一緒です。例えばグルスキーのラインⅡを見て、意味を読み解ける人はほとんどいないと思います。

4億円で落札されたアンドレアス・グルスキーの「ラインⅡ」。
どのようなメッセージが込められているか日本人にはなかなか分からない。


みんな文章を書くのは苦手

問題はこのアーティストステイトメントを正しく書ける人が写真家にはほとんどいないということです。日本人ではおそらく100人もいないと思います。それが現代のアートフォトにおいて世界で活躍するアーティストが少ない原因だと思います。特にカメラという道具好きから入る方は、失礼ですが文書を書くセンスを持つ方はあまりいない。いや、ほとんどいないと思います。でも心配無用です。私も以前はそうでしたし、はじめから上手く書ける人はいないのですから学べばいいのです。ボケ防止にもいいですよ(笑)
 

良い写真ってなんだろう

例えば、めったに撮れない真っ赤に染まった富士山が撮影できたとします。それは早起きして、何度も通い、多くの努力を費やし、その結果あなたしか遭遇していない貴重なシーンだったとします。さらにそれを美しくプリントしたとします。はたしてそこにファインアートフォトとしての価値があるでしょうか。

答えははっきり言って、そのままではアートとしての価値はほぼゼロです。富士山という物体のIDのひとつにしかなりませんし、自然とそれを見る人はカメラ愛好家が中心で興味の的はカメラ、レンズ、撮影地くらいで、社会への良い影響は何も生まれないのです。
 
但し、その富士山の写真をアートにするためには、アーティストステイトメントを付ければアート作品に昇華する可能性があります。逆に言うと被写体は何でも良いのです。

それは聞きたくない

ダメな書き方もあります。「日本には四季があり……」「山と海に囲まれた日本は海からの水蒸気が循環し……」「日本の山岳信仰は……」などはダメかなと思います。なぜならそれは一般論だからです。一般論をあらためて聞かされるほうも苦痛です。「そんなの知っているよ」で終了~、チーンです(笑)。もう一度言います。教科書ではないので一般論は誰も聞きたくないのです。

あなた自身が大切

そうでなくて、「あなた自身」を文章で表現しましょう。
「私はなぜ富士山を撮るのか、私と富士山の特別は関係は何」「私がそこで経験し人生に影響を与えたものは」「世界の人へどのようなメッセージを送ることができるのか」などです。

自分自身と向き合い、深堀りし、さらけ出して行く作業になります。なぜ?なぜ?なぜ?を繰り返し、起承転結で書いて行くと良いでしょう。はじめは箇条書きでもOKです。そしてあなたにしか見えない、あるいは経験したことを分かりやすく文章にしていきます。その結果、ステイトメントを読み、作品を見た方へ「感動」を与えられると思うのです。

講演で自分の作品のアーティストステイトメントを語っています。Taipei Art Photoにて。


興味はアーティストという人間

写真展などでアーティストから「作品を見た方が自由に感じてくれれば良い」とか「写真が上手ければステイトメントなんかいらない」という言葉をよく聞きます。このパターンは意外と多いのです。残念ながらこのように言う方でアートフォトの世界で成功した人を見たことがありません。たぶん文章を書くことも苦手なんだと思います。

私もそれを聞くと「もっとあなたのことや、作品のコンセプトについて話がしたいのになあ」と心の中でつぶやきます。また、命がけで作った自分の作品の解釈を他人に投げているように感じてしまいます。現代におけるアーティストは相手をリスペクトし、謙虚な姿勢で丁寧に自分の作品を説明し、世界の人と共感しながらつながっていく必要があるのです。

また、海外で展開する場合は、キュレーターやギャラリー関係者がまず作品の意図を明確に理解する必要があります。そして彼らはそれにアートとしての価値を付けて行くのです。

私とお付き合いのあるキュレーターは写真の話はそこそこに、ほとんどが私の経歴や体験について質問をして来ます。彼らは人間としての個性と魅力を見出そうとしているのです。オークションの場でも、競売人が入札者にPRするのはアーティストの個性や 経歴、物語が中心です。

極論を言うと、世界のアート関係者は個性的な作品を作る「人間」に興味があるのです。

ただ、遠く離れた極東の独特の文化と感性を持つ日本人とういうことに加え、あなたという個性を海外の人に理解してもらうことは思っている以上に大変なことなのです。

誰が言ったのか忘れましたが「死んだ後で売りたいなら傲慢であれ、生きているうちに売りたいなら謙虚であれ」という言葉は間違いではないようです。60歳からアーティストたちの余生はあまり多くありません(笑)。私は謙虚にしていこうと思います。
 

世界へのパスポート

ふたつのステイトメントが必要です。ひとつは自分のプロフィール、もうひとつは作品について書いてみましょう。はじめは箇条書きでOKです。それぞれ日本語で200文字、長くても400文字程度が良いと思います。私も最初は全く書けませんでした。「俺って文才ないなあ」となげいたものでした。

あきらめずに何回も納得するまで書き直します。意味が理解できるかどうかが肝です。日本人が書くステイトメントは難しすぎて理解できないことも多いです。難しい言葉を並べてカッコつけても伝わらなかったら意味がありません。シンプルな言葉で分かりやすく書くことが大切です。

できればアートが分かる方に読んでいただけるのが良いです。無理なら家族でも良いです。できれば女性が良いです。左脳が優れています。「意味わかんな〜い」とか本音で言ってくれる人が良いです。ちょっと恥ずかしいですが、そんなこと言っていられません。どっちみち写真と一緒に世界に飛び出して行くのですから。

そしてそのステイトメントがあれば世界中のコンテストに応募できて、フォトレビューにも参加できて、ギャラリーや美術館に展示へもつながるのです。アーティストステイトメントは写真家が世界へ羽ばたくためのパスポートなのです。

ヒューストンのFoto Festにて。お客様に作品を見てもらってます。
アーティストステイトメントを書いたリーフレットも配布します。

【まとめ】今回学んだこと

①きれいに撮れたからアートではない。
②アーティストステイトメントが作品をアートにする。
③一般論や状況説明はいらない、あなたのことが知りたいのだ。
④独りよがりせず謙虚に取り組み、丁寧に分かりやすく作品を説明していこう。
⑤アーティストステイトメントは世界へのパスポート。

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