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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第四章「白村江は朱に染まる」 後編 22

 だが、彼が次に目を開けた時には、大国の剣が彼の首筋に紙一重で止まっていた。

「が、それは……、あくまで上の者が正しいことを言っていればの話だ」

 大国は、その剣で弟成と黒万呂の縄を切ってやった。

「馬鹿どもが、酒は禁止したはずだ! 大津(おおつ)、その酔っ払いどもの剣を取り上げて、しばらく倉で頭を冷やさせろ! それから、その男の手当てをしてやれ!」

 大国の従者である久米部大津(くめべのおおつ)は部下に命じ、すぐさま酒盛りをしていた兵士の剣を解き、連行させて行った。

 そして、次麻呂の手当てに当った。

 大国は、弟成の顔を見た。

 弟成も、大国の顔を見た。

「お前ら、正規兵に喧嘩を売るとはいい度胸をしているな、気に入った! おい、こいつらの頭は誰だ?」

「はい、私でございます」

 馬手が前に進み出る。

「こいつら2人を、大伴の兵士として買い取る。いいな?」

「しかし、私には、そんな奴婢を売買する権限がございませんので」

「斑鳩寺の奴婢であろう。では、倭国に帰ったら、私が法頭の下へ出向く。それで良いだろう?」

「はあ、はい……」

 馬手も、引き下がるしかなかった。

「2人とも付いて来い!」

 弟成は馬手を見た。

 馬手は頷く。

 次麻呂の様子を伺う。

「俺なら大丈夫やから、行け。……黒万呂、弟成、ありがとうな」

 弟成と黒万呂は、大国の後に付いて行った。

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